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集団での討伐依頼

__今までは王宮から依頼を受け取っていた。しかし王宮へ行かないと決めたので、自ら仕事を探さなくてはならなくなった。


そのため彼は今、王国のギルドへ来ていた。


いつもの受付で、いつもの青年を訪ねる。


「ああ、デシールさんお久しぶりですね」


「どうも」


「お待ちしていました」


「え?待ってたって?」


普段ギルドに用事がないので、今日に限ってギルドが彼を待っていたというのは違和感があった。


「王宮からデシールさんにお仕事が来ていますよ」


「あれ、王宮を通さなくてもいいの?」


「はい。私の方で対応します。依頼書はこちらです」


王国の依頼はもう受けられないと思っていたが、あっさりギルドから受注できたので少し拍子抜けした。


依頼書に目を通す。


「これ集団での討伐なんだ」


「ええ。戦士が何人か挑んだのですが、とても手強く少人数では討伐不可ということになりました」


集団での討伐は始めてだった。他人の戦いを見る機会がなかったデシールは、この依頼に興味が湧いた。


「どうしますか?こちら受けますか」


少し考えてから、報酬も悪くないため依頼を受けることにした。


「この依頼、やってみるよ」


実はこの討伐にデシールを推薦したのはケイテだった。


デシールが勇者に近付くために必要なもの、それは知名度だった。


彼の実力は確かで、ブラッドを筆頭に王宮の兵士や騎士の中で少し話題になっている。


そんな彼の強さを多くの人に示せば、勇者として認められるのではないかと目論んだ。




__出発の日、魔物討伐のため集められた猛者たちが広場に集まっていた。


ドラゴン討伐のため戦士達の跡を付けたのを思い出し、懐かしい気持ちになった。


そのドラゴンが今では彼の隣を歩いている。


そしていつも通り他人の目を全く気にせず、腰に腕を回して密着している。


「よお、にいちゃん。女連れとはいいご身分だな」


案の定少しガラの悪い戦士に絡まれた。


こうなることは容易に想像できたので、事前にアニスの同行を拒否したが断固として付いて来た。


「まぁ色々あって……。よろしくね」


「王国推薦だかなんだか知らねーけど、さっさと帰った方がいいぜ坊や」


デシールが王国からの推薦であることは、この場の全員が分かっていた。


多人数参加の討伐は、魔物が強いため無名の戦士は召集されない。


しかし、王国の推薦で貴族などが稀に参加することがある。


彼らは実力もなく、ただ強い魔物を倒したという称号が欲しいだけだった。


そしてデシールもその類だと思われている。


「皆の足を引っ張らないようにするよ」


波を立てないよう謙虚に答えたが、男はあまり聞いていないようだった。


最初から男の目的はアニスの方だった。


「この綺麗なねぇちゃんはあれか?お前の女か?」


「いや、一応師匠なんだけど……」


「女が師匠とはなッ! こんな阿呆は初めてだ!」


周りで見ていた戦士達もそれを聞いて笑っていた。


「おい、ねぇちゃん。こんな奴ほっといてこっちへこいよ!」


そう言ってアニスに近寄る男を見て、デシールはなぜだか強い嫌悪感を抱いた。


男がアニスに近寄ろうとするのを阻止しようと、無意識に体が動く。


しかしその瞬間、視界から男が消えた。


バキッという音と共に、男が遠くのたるに頭を突っ込み伸びている。


アニスは男を軽く押しただけだったが、10メートルほど吹っ飛んだ。


「こんな弱い奴を連れて行くのか? まぁ、もう同行は無理か」


周りに聞こえるような声で、アニスはそう言い放った。


茶化していた戦士達も一斉に黙る。


これ以降2人に絡む者はいなかった。


「悪いなデシール。あまり目立たないよう言われていたが、やってしまった」


「いいよ。あいつがアニスに触れていたら僕も同じことをしてたかもしれない」


最近のデシールはアニスを一人の女性として意識していた。


彼女に言い寄る男への強い嫌悪感は、自分でも驚いた。


そんな彼の変化を察したアニスは、いつにも増して嬉しそうだった。




__数日移動を続けた戦士達一行は、目的地の近くまで来ていた。


明日にでも魔物と戦闘になるかもしれない。戦いに備え夜は英気を養う。


「もう寝るのか?」


「うん。明日も早いし」


焚き火の前で、水を飲み干したデシールの横にアニスが座る。


「少し話があるんだ。いいか?」


「いいよ。まだ眠くないし」


日が落ちているため、焚き火の炎だけが光源になっている。


その光に照らされたアニスを見て、デシールは心臓が跳ねるのを感じた。


最近アニスがますます美しく見える。


「君はこれまで悪くない速さで成長してきた」


アニスは炎を眺めながら語る。


デシールの方を見ないのは、師匠として苦言を言わなければならないからだった。


「だが、最近はほとんど成長していない。もしかしたらこの辺が君の限界なのかもしれない」


「そっか」


デシールはそのことに気が付いていた。


むしろ才能がなかった彼が、短期間でここまで成長できたことが奇跡に近かった。


「後は長い年月をかけて魔力を蓄積させ、単純に力を上げていくだけだ」


「つまり教えることがもうないってこと?」


「そうだ。この先は努力と実戦を積み重ねるしかない」


横に座るアニスに目をやると、なんとも悲しげな表情をしていた。


「……私はもうすぐお役御免だ」


「そんなこと……」


師弟関係。それが終われば2人を繋ぎ止めるものはなくなる。そのことがアニスの心に不安を与えていた。


デシールが今回の依頼を受けた理由も、実は自分の限界に気付いたからだった。


「今回さ、大人数での依頼を受けたのは理由があるんだ」


アニスを心配させない様に笑顔で語りかける。


「僕は弱い自分が嫌でアニスの弟子になったけど、最強を目指しているわけじゃないんだ」


「そうか……」


「そもそも貴族が向いてないと思って、戦士になっただけだしね」


「……」


デシールは大きな強さを欲していない。その事実は彼がアニスの手を離れる日が近いことを意味している。


「だからこの依頼で強い人達の戦いを見て、自分の強さを見極めようと思う。アニスの弟子を卒業するかどうかはその後決めるよ」


空を眺めるアニスは相変わらず悲しげな顔をしている。


しばしの沈黙の後。アニスがデシールの方を向いた。


「たとえ君の師匠ではなくなったとしても……私は君の側に居たい」


自分の役割が終えることを告げたアニス。


それは2人の未来を話すための、彼女の勇気ある行動だった。


「頼む……。君と一緒に居させてほしい」


これにはデシールも真剣に答えるしかなかった。


「僕もアニスとはこれからも一緒に居たい。たとえ師匠じゃないとしてもだよ」


「そうか。良かった。本当に……」


アニスの目に溜まっていた涙がすっと流れた。


「大袈裟だなぁ。それって今まで通りでしょ」


「それが一番、私にとって嬉しいんだ」


本当に嬉しそうに笑うアニスを見て、彼女とのこれからを真剣に考える必要がある。そう感じたデシールだった。

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