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仲間への相談

__王宮の外に出たデシールは、小さな酒場に向かった。


「なぜブラッドが居る?私はデシールと大事な話があるんだが」


アニスは1対1で話すことを望んだ。


しかしブラッドは第三者がいた方が良いと言い、酒場を貸し切って話す場を設けた。


「まぁまぁ、俺だけ除け者ってのも酷いだろ?」


ブラッドは酒を注文する。デシールとアニスは酒を飲まないので、未だ黙っている。


普段はにぎわいを見せる酒場が、息苦しい空間と化していた。


「それにしても、姫様があんなにデシールにラブだったとはな」


ブラッドをアニスが鋭く睨みつける。


「おっと悪い。なぁデシール、お前と姫様ってどんな関係なんだ?」


「それは……」


ケイテとの関係。それを話すかどうかためらう。


「まぁなんつーかさ。俺はお前のこと勝手に友人だと思ってるよ。だから何も言いたくないって言うならいいけどよ」


ブラッドは相変わらず軽い口調だが、その表情は真剣なものだった。


アニスはふてくされながらも話に耳を傾けている。


「俺にはさ、お前が一人で抱え込んでるように見えるぜ。それでその結果、うまくいってる様には見えないんだよな」


デシールは両親を失って以来、物事を誰かに相談しなくなった。する相手が居なかったというのが正しいかもしれない。


その結果うまくいったこともあれば、今回のように悪くなることもあった。


目の前に居る2人は、今デシールが最も信頼できる人物だ。


そろそろ誰かに頼っても良いのではないか。そんな思いが今のデシールにはあった。


「分かった。話すよ。でも他の人には絶対に言わないって約束して欲しい」


彼は全てを話した。


かつて自分が貴族だったことを。


そしてケイテとは幼い頃からの知り合いで、幾度となく求婚されていたことを。そして彼女とは、今でも依頼を通して接触している。


話終えるとしばしの静寂が酒場を満たす。


「身分差かぁ……。こればっかりはどうしようもないもんな」


遠くの景色を見るような目をしてそう呟くブラッド。


客観的に話を聞いていたブラッドとは違い、アニスにとっては遺憾いかんな内容だった。


「王族だかなんだか知らないが、愚かな女だ」


この件は自分が悪い。そうアニスに伝えようとしたデシールだったが、彼女にそれは届かなかった。


「いいかデシール、あの女は狂っている。もう王宮へは行くな」


ケイテについてこれ以上説明しても仕方がない。もう王宮へは行かないと決めていたので、それだけ伝えることにした。


「うん。王宮へはもう行かない予定だよ」


「なら良いんだ」


酒場が再び静寂に包まれ、話がひと段落ついた。


一見、解決に向かったように見えたが、ブラッドにはとてもそうは思えない。


「はぁ、やっぱ聞くんじゃなかったぜ」


「いや、ブラッドから聞いてきたんでしょ!」


「だってよ……いやなんでもねーわ」


王宮へはもう行かないとデシールは言った。


しかし話を聞く限り、そんなことでお姫様が大人しくなるとは思えない。


それどころか悪手だとすらブラッドには見えた。


デシールの考えとは逆になるが、ほどよくケイテとは接触させたほうが良いと彼は考えた。


彼女の精神に異常をきたさぬように。


「とにかくだ。姫様に関しては、俺が上手いことやる」


自分から聞いたことだが、面倒なことに首を突っ込んでしまったと少し後悔するブラッドだった。


「ありがとうブラッド」


「おうよ」


そうして3人は酒場を後にする。


最後までアニスは、口数が少なく不機嫌なままだった。




__自宅に着いたデシールとアニス。


引っ越してから時間が経ち、我が家という認識が根付き始めていた。


部屋に入り玄関の戸を閉めた瞬間、アニスに両肩を掴まれ壁に押し付けられる。


「な、なに……?」


「なぜあの女のことを黙っていた」


デシールの過去についてアニスが言及したことはなかった。


しかしケイテのことを隠していたことが、彼女は無性に許せなかった。


「……王族のことを簡単には話せない」


「お前が女と会っていることなんて、ずっと前から知っていた。だがきっと事情があるのだろうと思った」


デシールの肩を掴むアニスの手に力が入る。


「だが調べてみれば案の定これだ。あの女と今まで何をしていた! なにを……!」


ケイテとデシールが、2人きりで何をしていたか。それをアニスは考えないようにしていた。


しかし、自分自身の発言がそれを想像させてしまった。


アニスの目から涙が溢れる。


「アニス……」


「君が王宮に残ると言った時、本当は怖かった。もしかしたら君がそのまま帰って来ないんじゃないかと想像してしまうんだ……」


デシールの胸に顔を埋めて泣くアニス。


デシールにとって彼女は、ひたすらに強い女性という印象だった。


それ故、一人の女性というよりは、姉や母といった存在だった。


しかし目の前で泣いている彼女の弱々しい姿に、胸を打たれてしまった。


この日初めて、デシールはアニスを女性として認識したのだ。


「大丈夫だよ。僕はどこにも行かないから」


「分かっている! だが……怖いんだ……。胸の奥が苦しい……こんなの初めてだ。私は……うぅ……どうしたら……!」


アニスはドラゴンとして孤独に暮らしていた。


そんな彼女が初めて抱える感情。


それをデシールはどう受けとめて良いのか分からない。どう声を掛けたら良いのかも。


とにかく安心させたい一心で、彼女を抱きしめた。


「……っ!」


すると彼女の震えは止まり、沈黙が部屋を支配した。


もうどれだけこうしているだろうか。アニスは安心しきった顔でデシールの腕の中に収まっていた。


この日はそのまま寝床についた。


普段はアニスの方がデシールを抱きかかえて眠っているが、今は逆になっている。


「……」


アニスは何も言わない。


彼に抱きしめられている。彼女はただそれだけで良かった。


あれほど憎かったケイテのことが、今だけはどうでも良く感じていた。

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