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ケイテの執着

__警備兵に案内され、前回国王と再開した部屋に着く。


デシールはケイテと出会わないよう、早めに話を終わらせる気でいた。


しかし扉の先で待っていたのは、国王ではなくケイテだった。


「待っていたわデシール」


戸惑うデシールを気にせず、ケイテは右手を差し出した。


目上の女性に対して敬意を込めて、手の甲にキスをした。


ケイテはうっとりと口づけされた部分を見つめた後、そこをぺろりと舐めた。


デシールの知っている風習と少し違ったが、ここは何も言わず話を進めることにした。


「えっと、国王様は……」


「私がデシールを担当することになったの。だからお父様やギルドを通す必要はないわ」


「普通はギルドを通して依頼を受けるんだ。ケイテも忙しいと思うから次からは……」


「私からお父様にお願いしたのよ」


彼女はデシールに会うためだけに、この仕事を自ら志願した。


デシールは困り果てる。距離を取ろうと思った相手が、全力で追いかけてきたのだ。


「報酬は私が直接渡すわ。依頼や報告も同じよ」


そう話すケイテは笑顔だった。その表情に、なぜか恐怖を感じた。


「さて……二人きりになりたいの。あなた達は出て行ってちょうだい」


その一声で護衛兵が部屋から出て行く。


「待って。護衛を付けないのは僕を信用し過ぎだ。貴族ですらない部外者と、2人きりになるのは危険だよ」


「どうして?デシールなら安心でしょ」


「いや、僕だって男なんだけど」


発言をしてから、それが失言だったことに気が付く。


「もしかして襲ってくれるの……?」


ケイテは顔を赤らめ少し俯く。


そのやりとりを聞いても、護衛兵は表情一つ変えずに部屋を出て行った。


護衛兵達の間では、デシールについて一切口を出してはいけないという暗黙のルールがある。


かつてケイテのデシールに対する執着について指摘した者がいた。そしてその人物はもう王国にはいなかった。


「報酬を渡すからこっちへ来て?……早く」


言葉ではそう言っているが、自分からデシールに歩み寄って来る。


「ちょっと待って。やっぱり毎回わざわざケイテがやらなくても……」


嫌な予感がしたので話を済ませようと本題に入るも、ケイテはそれに答えない。


歩み寄る彼女は、デシールの前で立ち止まる。


「しゃがんで?」


「え?いいけど」


突然の問い掛けに理由も分からず従う。


すると唇に柔らかいものが押し当てられる。


「……ちゅ……ん……あん……」


ケイテは強引にキスをしていた。


喘ぎ声のような声をあげながら激しく口内をかき回される。


他人の唾液など気持ちが悪いはずだが、ケイテは甘い蜜を舐めるかのごとく夢中になっている。


その異常な光景に耐えられず、彼女を引き剥がした。


「もう! まだ途中なのに」


「僕の話聞いてよ」


「聞く必要なさそうだったから」


依頼の担当をギルドに変えて欲しいというデシールの要望は、一切聞く気がないらしい。


「ねぇデシールは背が高いの。しゃがんでくれないとキスができないわ」


胸を押し付けながらおねだりをするケイテ。


「2人っきりなんだから照れないで。この前のキスは凄く素敵だったわ。もうあれがないと生きていけない」


このままでは埒が明かないと思い、仕方なく口付けをする。


軽く唇同士を重ねて終わらせるつもりだったが、ケイテがそうさせてくれなかった。


「……ろれ……ぁん……」


彼女の甘い声が漏れる。


(これは……やばい……)


ケイテの美貌は、王国に住む人々の間でも頻繁に話題に上がる程だった。


そんな彼女の顔が間近にあり、体を密着させながら息を荒げている。


このままだと理性が持たないので、結局また引き剥がすことになった。


ケイテはまだ続けたそうにしている。


彼女が落ち着かないと話にならない。


「座りながら落ち着いて話さない?」


ケイテは未だ体を密着させながら答える。


「えー……もっとこうしていたいのに……。まぁいいわ。テラスでお話しましょうか」




__庭に移動した2人は、中央にあるテラスに座った。


「……ケイテ、あっちにも椅子があるんだけど」


「ここがいいの」


彼女はデシールの膝に座っている。


「いや降りてよ。なんだか緊張する」


「どうして緊張するの?」


その答えを知っていて、あえて質問しているようだった。


「いや、それは……」


「誰を膝に乗せても、緊張する訳じゃないんでしょ?」


ケイテの頭がすぐ近くにある。女性特有の甘い香りが鼻を刺激する。


「分かっててやってるでしょ。君は魅力的なんだから、男をからかうのはよくない」


「魅力的……」


ケイテはうつむいて何かを呟く。デシールの方向を向いていないので表情を見ることはできないが、彼女の耳が赤くなっているのは確認できた。


デシールは感じたことをストレートに伝えたが、それなりに恥ずかしい発言だったと気付き後悔した。


「ねぇ、私のこと好き?」


「う、うん、好きだよ」


「ふふっ、知ってるわ」


なんとも楽しそうである。一方デシールは少し気疲れしていた。


「デシールは今、私以外に女性の知り合いはいるの?」


「一応1人だけいる」


それはアニスのことだった。


「いるのね……」


その場の空気が凍りつく。


「年はいくつ?」


「知らないけど……うーん、僕より凄く年上だよ。下手をすれは50以上年上かも」


アニスはドラゴンなのであまり歳を取らないため、実際の年齢が分からなかった。


「そう……ならいいんだけど」


ケイテの頭には老婆の姿が浮かんでいた。


「もしも若い女性と知り合っても、あまり仲良くしちゃ駄目だから」


「え、どうして?」


「分かるでしょ……」


察してほしいと言わんばかりだが、彼には全く理解できなかった。


「こめん。分からないよ」


「女の子と話したかったら私の所に来ればいいの。その時間を削ってまで他の女と会話する意味なんてないから」


説明を聞いたところで理解できるはずもなかった。


「ケイテだって男の人と話すことくらいあるでしょ」


「仕事で嫌々あるくらいよ。私はデシールがいればそれでいいの」


それを聞いて唖然とする。


昔のケイテを思い出す。他の人間を拒絶してデシールだけを求めた彼女を。


(まさか……今も異性を拒絶しているの?嘘でしょ?)


「ケイテ、それは駄目だ。もう昔とは違うんだ。君ほどの女の子が、異性との接点が少ないのはもったいなすぎる」


「そうよね。これからは接する機会が増えるわ」


そう言って振り向いたケイテは、満面の笑みを浮かべている。


「これからはデシールがこうやって来てくれるもの」


うっとりとデシールを眺める彼女を見て、ますます事態が悪くなっていることに気が付く。


「ケイテ、やっぱり僕達が頻繁に会うのは良くない。依頼はギルドを通そう」


「だーめ」


デシールと接触していることで、ケイテの気分が高まり甘えるような口調になっていた。


「だから、僕達はそもそも身分が違いすぎるんだから、本来ならこうやって会うことすら問題があるんだ」


「ねぇ……」


膝に乗っていたケイテが一度立ち上がり、今度はデシールの方向に体を向け座り直した。


先程よりもケイテの顔がずっと近くなる。


「どうしてそんなこと言うの? もしかして焦らせようとしてる? あんまり私を焦らせると……」


ケイテはじっとデシールの目を見つめる。


「襲うわよ」


とこまでも真剣な顔で彼女はそう言い放った。


「う……ごめん」


デシールは結局負けてしまった。


実際ケイテから何かされても、力ずくで引き剥がすことは可能だろう。


しかし、彼女の気迫に負けてしまった。彼女の言葉は脅しではなく本気だったのだ。


こうして抵抗はあえなく失敗に終わり、今後は依頼の受注から報告まで、全てケイテを通すことになってしまった。


その後は戦った魔物や、山での生活について話した。


ケイテが満足し、解放された頃にはだいぶ時間が経っていた。


今後は毎回これが続くのかと思うと、気持ちが億劫になるデシールだった。




__報酬を受け取り王宮を出たデシールは、アニスと合流した。


「遅かったな」


「ごめんちょっと色々あって。後これ報酬」


「なかなかの額だな。聞いていたより少し多くないか?」


「うん。なんかおまけしてくれたみたい」


報酬の増加はケイテからの計らいだったが、なにを要求されるか分かったものではないので今後は拒否する予定である。


「これなら王宮の依頼だけで生活できるな」


王宮の依頼だけに絞ると、生活が大きく変わる。


住居なども考えなければならないので、それについては帰ってからじっくり話し合うことにした。


帰宅の途中、突然アニスが立ち止まる。


「またか」


「アニス?どうしたの?」


「ちょっといいか?」


アニスはデシールに近づき体の匂いを嗅いだ。


「え、もしかして変な匂いする?」


「いや……違う。なんでもない」


そう言って再び歩き出す。


デシールには全く意味が分からない。


アニスが気にしたのは体臭ではなく、彼の体にまとわりつく香水の香りだった。それはケイテが使っていたものだった。


(前回も王国から戻ったデシールから、香水の匂いがしたな……)


ドラゴンは犬並みとは言わないまでも、人間より少し鼻が利く。


しかしケイテは前回と違う香水を使っていたので、この時のアニスはまだデシールが特定の誰かと会っているという推測にはいたらなかった。

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