プロローグ②
「……ここ、どこ?」
まだぼんやりする目を開けて、大雅は呟いた。
(赤い空……と草原? さっきまで家に居たような……)
目をこすりながら半身を起こす。ほぼ同時に、草をかき分けるような音と、どこか聞き覚えのある声が耳に届く。
「一通り物色したぜ。大した物は無かったが、回復薬と魔法薬が二個ずつあった」
「ご苦労さん。ちょうどタイガも起きたトコだ」
兄では無い声に慌てて周囲を見回すと、真っ赤な夕焼けをバックに、見覚えのある革道着の背中が目に入った。
その向こうには黒っぽいコートを着た男の足があり、革道着の男が差し出した手の上に、それぞれ緑と橙の液体が入った小さな瓶が乗せられる。
更に向こうには、丈の長い草陰に埋もれるように、緑色の人のような姿も幾つかあった。
(草原にトカゲみたいな人がいっぱい倒れて……あ!)
大雅は、ようやく自分がどこに居るのかを思い出した。
(そうだ。僕、レアリーズの中でゲーム中だった。また気絶しちゃったんだ……)
コートの男を見上げると、赤い光に照らされた白金髪の間から、金色の瞳が呆れたように見下ろしていた。
「あの……勝手に魔法使って、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げると、男の眉間に深いシワが寄る。
しかし、何も言わずに背を向けて歩き出し、それを見た革道着の男が大雅を振り向いて苦笑した。
「そもそも、MPヒトケタしか無いお前にまで魔法使わせなきゃ勝てない――ってのが問題なんだよ。気にすんな」
バンバンと大雅の背中を叩いてから、革道着の男も立ち上がった。
二人の向かった先には、銀色の鎧に身を固めた人物が何かを探すように頭を巡らせている。
「あ――待って、ハル、モンクラウス。僕も――わっ!」
立ち上がって二人を追い掛けようとした大雅は、片足が何かに引っかかって前へ出ず、思い切り派手に転んでしまった。
「痛ったぁ……なんだよ、もう?」
体全体を打ち、痛みに顔をしかめながら足元を見る。
草にでも引っかけたかと思ったそこには、半透明の人影があった。波打つように色が変わるその人影は、カメレオンのような顔をしていて、大雅の足首をしっかり掴んで離さない。
その瞬間大雅は背筋がゾッとし、頭から背中を通って何かが抜き取られて行くような感覚に襲われた。
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「はな、せっ……!」
その小さな声に最初に気付いたのは、ハルだった。
振り返り、転んでいる少年を見つけてため息をつく。
「何やってんだ、アイツは……?」
モンクラウスも気付いて、笑いながら肩をすくめる。
「起きたばかりだし、足がもつれたんじゃないか?」
「――違う、そうじゃない!」
探索スキルを発動させていたグリンウッドだけが、焦ったように走り出す。
「足元にカメレーナが居る。アイツが何かしたんだ!」
「何だと――!?」
グリンウッドの緊迫した声に、二人も慌てて後を追う。
三人の足音を聞きながら、大雅の意識は再び暗闇に呑まれていた。