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龍と巨人  作者: うたかたの語り人
3/9

3 世界の卵

モルネイの冒険譚が始まるまでには、まだもう少しかかりそうです。

 みなさまはご機嫌麗(きげんうるわ)しゅうお過ごしでしょうか。

 王様におかれましてはお顔艶かおつやも良く、すこやかなることよろこばしく思います。

 失礼ながら手紙からの紹介になりましたが、わたくしはハブルムール王国の民、モルネイと申します。


 さて、みなさま。わたくしはみなさまとハブルムールのものたちとを友好づけるためにまいったのであります。

 そのためには、わたくしめがどのようにしてこちらを訪れることになったのかという経緯いきさつと、その道のりで体験たいけんした冒険ぼうけんの日々について語らせていただきたいと思う限りです。

 しかしその前に、わたくしは、いえこの場にいるわたくしたち全員は、一つ確認かくにんしておかなければならないことがあると思うのです。


 それはそもそもなぜ、あのみにく巨人きよじんたちといかくるりゆうたちが、ああも激しく、何十年も何百年も、わたくしたちが生まれるずっとずっと前からあらそっているのか、ということです。

 みなさまはそれをご存知ぞんじかもしれないし、もしかしたらご存知ないかもしれません。そしてどちらであってもわたくしの知るものと少しちがっているのかもしれません。

 ですからわたくしはまず、ハブルムールに伝わるスレタリアのうたをみなさまにお届けしようと思います。

 よろしいでしょうか。では。



——


 それは遠い昔

 まだ太陽が朝と夜を覚えておらず

 あらゆる生き物たちが 長い長い夜を過ごしていた時のこと

 

 そこに大きな大きな丸い石が転がっていました

 いつからそこにあったのか 誰にもわかりません

 ただ たくさんの生き物たちが

 この地上で生活するようになったころには

 とっくに そこにあって当たり前のものでした


 それはとてもとても大きくて

 大人の巨人たちがたとえ千人集まったって それを持ち上げることはできません

 台風だの竜巻たつまきだのに巻き込まれて ゴロンゴロンと転がることはありました

 それでも 巨人たちがいくら押しても全くもってびくともしません


 その不思議ふしぎな石はとても美しく

 まるで翡翠ひすいのように 白と緑の綺麗きれいじった 神秘的しんぴてきな色をしていました


 ですから人々は その欠片かけらでも良いから

 自分のものにしたいと思うようになりました

 それで巨人たちや その他の生き物たちが

 石をぶつけるなり 大槌おおつちたたくなり

 あらゆることをためして それをこわそうとしました

 

 そうすると その綺麗でピカピカだった石の表面ひようめん

 無残むざんにボロボロになり 誰も見向きもしなくなりました


 それでも人々がその石につけた傷は 

 雨風あまかぜにさらされて何年も何年もかけて 次第に大きくなっていきました

 そしてそれはいつしか 石全体を真っ二つに分かつほどの 

 とても大きなヒビとなりました

 

 人々はこれにおどろいて それでも中がどうなっているのか とても気になりました

 これ以上ヒビが大きくなって 真っ二つにれた時

 中から何が出てくるのだろう そう思ったのだといいます


 そして それからさらに何百年もたった頃

 とうとう 不思議な石が分かたれる時がおとずれました

 中からキラキラとまばゆい光を放ち

 不思議なほど しずかに ゆっくりと 石は開いていきました



 その中からは 恐ろしい化け物も 

 人々を魅了みりようする 美しい石の破片はへんも 現れませんでした


 ただ そこには清らかな川が流れ

 緑豊かな山々と 色とりどりの花やちようたちが

 新しい世界として誕生たんじようしていたのです


 そして 多くの生き物たちが そこにうつり住みました

 まるで緑色の宝石のような 美しい世界に

 多くの人々は 幸せに包まれてらしました


 しかし うまいことばかりではありませんでした

 その世界は 大きな大きな体を持つ巨人たちが移り住むには

 いかにもせますぎたのです 


 それに怒った巨人たちと 他のあらゆる生き物たちが 喧嘩けんかを始めました

 そして 怒り出した巨人たちは あまりに強く あまりに乱暴らんぼうでした

 美しき楽園らくえんだったものは 巨人たちの手で破壊はかいくされてしまいました


 緑に茂っていた山は無残むざんげ落ち 人々の住む村々はほのおかれました


 それでも 巨人たちはあばれるのをやめませんでした

 巨人たは自分たちが他のどの種族しゆぞくよりも強いのを知り 

 弱い者たちをいじめることを あらゆるものを壊して回るのを

 楽しむようになっていたのです


 彼らの頭は それはそれは単純たんじゆんにできていますから

 それがとても楽しいことだと知れば 食べるときとるときをのぞいては

 ずうっとそれを続けるのです



 それでも巨人たちの暴虐ぼうぎやくは100年と長くは続きませんでした

 それはなぜか 

 恐ろしい巨人たちを 凌駕りようがするほどの強大な生き物が現れたからです


 彼らは高い高いシェリーフェンの空から 大きな大きなつばさをはためかせて

 竜巻を引き起こしながら 降り立ちました

 その大きな口は 巨人を丸呑まるのみにし 

 そのするどい爪は ダイアモンドでできた岩山をも切りきます


 彼らはヨロイトカゲのような とてもゴツゴツとした荒々(あらあら)しいうろこを持っていて

 その大きくて重い体をかせるために 

 胴体どうたいの何倍もある それは見事みごとな翼を持っていました


 彼らは自分たちのことを 龍と呼び 

 私たちや他の生き物 巨人たちや 花や木も

 皆まとめて あだと呼びました


 そんな彼らは 大地に降り立ち 

 壊れた楽園をみると 怒れ狂いました

 その楽園は 彼らが 自分たちの子供達のために 

 はるか昔に作り上げたものだったのです


 そう あの緑色の美しい綺麗な玉は

 龍たちがはるか大昔に作り出した 龍たちの楽園 新しい世界の卵だったのです

 生まれたばかりの卵だから まだまだとても小さかったのです

 そして いずれはとてもとても大きな世界になって

 龍たちが自分たちの子供を育てるための ゆりかごになるはずだったのです


——

 


 いかがだったでしょう。これがわたくしたちの語りいできた龍と巨人のお話です。

 このお話によって、なぜ龍たちがあんなにも巨人たちをきらっているのかわかっていただけたと思います。龍たちは自分たちが作り出した楽園を壊されて怒り、そして、あの知恵ちえを持たない巨人たちは、おそい来る龍たちにがむしゃらになって反抗はんこうしているというわけなのです。


 そしてこのお話が彼らのあらそいを止めるために、どのように役に立つのか。私たちのもとに現れた救世主きゆうせいしゆ、いやさ勇敢ゆうかんなる少年がその身に持つ不思議な力と合わせて、これからゆるりと語らせていただきたいと思うのです。

感想いただけると大変嬉しいです。

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