1 シュヴェリーン王子の手紙
ゆっくり、まったりと連載していきたいと思います。
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シャンボール大平原をまっすぐ北に行った突き当りのところにあるスレタリアの谷を、あなた方はご存知だろうか。そこには私たちの住む国ハブルムールがある。岩肌の見える切り立った大きな崖の間に美しい緑の山野と、春になる頃には色とりどりの花たちを見ることができる。そんな美しい場所だ。そして私たちスレタリアの谷に住むものたちは、そこで田畑を耕し、木の実などを採集して生活している。
そしてそんな私たちはあなた方とはきっと友達になれるんじゃあないかと思っている。なんと言ったって背格好もよく似ているし、言葉をもって会話することができるからだ。つまり、何を考えるでもなく大きな木を根っこからむしり取って乱暴に振り回す凶暴な巨人や、恐ろしく鋭い爪と熱い炎の息を吹きかけてくる龍たちとは違って、平和をこよなく愛する心穏やかなものたちであると互いにわかっているはずだからだ。
だから私たちは、仲間の中でもっとも勇気ある青年であるモルネイをあなた方の元へ使者としてお送りした。あなた方が今読んでいるこの手紙を受け渡した本人こそがモルネイだ。
彼は私たちの中で誰よりも足が速く、そして静かに音を立てないで走ることができる。そして彼はとても背が低いので、目の悪い龍たちや、頭の悪い巨人をやり過ごすことができる。だからこそ巨人たちと巨大な龍たちが無意味な戦争を続けるシャンボール大平原を突っ切ってあなた方の元へこの手紙が届けられたのだ。そう、私たちはこの手紙があなた方の元へ届くことを全くもって疑っていない。
さて、上で申したように私たちはあなた方とこれから仲良くしていきたいと思っている。今まではお互いのことは知りつつもできる限り関わらないように過ごしてきた。それはもちろん、挨拶をするのにも龍と巨人たちの暴れる大平原を突っ切っていかなければならないし、互いに支え合わなくてもそれぞれに自給自足することができていたからだ。
私たちはあなた方も自分たちと同じ気持ちでいることを信じている。そう、少なくとも私たちはまだ友達じゃなかったとしても、敵同士でもなければ何の恨みもないはずだ。
しかし、今あなたがたに是非ともお知らせしたいことがあって、そして是非とも同時に、仲の良い友人としての絆を持ちたいと思って私たちの中でもっとも勇気のあるモルネイをあなたたちに送らせていただいた。
大変危険な道のりなのでモルネイに土産をもたせてやることはできなかったが、彼があなた方の元へたどり着くまでに歩んだ道のりが、そのまま良い土産話になるのではないかと思う。そしてそれを持って私たちからの友好の証とさせていただきたい。
ところでどうして急にこんなことを言い出してきたのだろうとあなた方は思っているだろう。きっとそうに違いない。だからどうか私たちの国に起こった顛末を聞いてほしい。それが私たちがあなた方と仲良くしたいと心から思っている理由になるからだ。
しかし勘違いしないでほしい。あなた方のところへ厄介ごとを持ち込もうと言うんではない。
もしかしたらこれまで話を聞いるうちに、私たちがえらく困っていて助けてほしいと言っているように聞こえたかもしれない。だがそうではない。決してそういった具合の話ではないことを先に誓っておこう。だから聞いてほしい。
私たちの国に、龍と巨人たちの恐ろしい戦争を、一度巻き込まれればあっという間に田畑が焼け付くされてしまい、家が押しつぶされてしまうあの戦争を、終わらせることができる勇者が生まれたことを。
これから先は、モルネイに聞いてもらいたい。彼は今言った勇者本人ではないが、勇者のことを非常によく知っている。だから、あなた方が気になるだろうことをことごとく話し伝えることができるだろう。
最後にもう一度、私たちはあなたがたへの友好を誓い、そして、あなた方が私たちの手を取ってくれることを願い、ここに強き絆が結ばれんことを。
ハブルムール王国王子 シュヴェリーン3世
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