第九話 花津夜五月の不機嫌
第九話 花津夜五月の不機嫌
「あ~、うぜぇ」
「あ、花津夜さんおはよう!」
「あ゛あ゛?」
「ひぃっ! ちょ、ちょっと、花津夜さんそんなに睨まないでよ」
「ああ、八張か。睨んでねぇよ、生まれつきこういう目つきだ」
「そ、そうなんだ」
「まあ、ご機嫌かっていったらそうでもねぇけどな」
「何かあったの?」
「ああ、さっき猫がいたから撫でてやろうと思って近づいてったんだ。ほら、私って動物好きじゃんか」
「そうなんだ。なんていうか意外」
「何か言ったか?」
「だななんて思ってませんし、何も言ってませんよ!!」
「そうか。で、近づいていったんだけど、声をかけたら猫のくせに脱兎のごとく逃げやがってよ」
「ち、ちなみにどんなふうに声をかけたんですか」
「あ? どんなって………『おい、ちょっとこっち来いよ、撫でてやっからぁ?』って」
「怖い! 表情も加わってさらに怖い!」
「んだとコラ? 私の渾身の笑顔が怖いだって? それはちょっと、女子に対して失礼なんじゃねぇのか」
「果たして、同級生の男子の首元を掴んで超至近距離でドスのきいた言葉を発する人を怖いと思わない人がいるのだろうかかかかかかか、ち、ちょ、ギブ! ギブだから!」
「情けねーな。女子に首を絞められて関節技をかけられたぐらいで泣きに入るとは」
「花津夜さん、力強すぎるよ………」
「よお! マケルに花津夜! なに朝から密着してイチャイチャしてんだ、羨ましいぞこのー」
「違うよ、イマイチ。別に俺達はそんなんじゃ」
「あ゛あ゛? テメェ、相馬コラ。私とこいつがそんなんに見えんのか、ゴラァッ!! あんましナメた口利いてっと、全身の骨を砕いてすりつぶしてジンベイザメのえさにしてやんぞコラァッ!!!」
「ひぃっ! え、何これ、殺気がマジぱねぇんすけど。冗談のつもりなのにマジモンの殺気が迸ってるんですけど!」
「ね、ねえ! 殺るのはイマイチだけだよね! 僕は関係ないモンね!」
「面倒だ……。二人とも、骨すら残さず、かっ消す!」
「ぎゃー!! 花津夜さんが激おこでいらっしゃる!」
「ヤバイぞマジこれ! 捕まったら殺られる………っ!」
「ていうか、あの一言ってそんなに嫌だったの!? それはそれで俺も傷つくんだけど!」
「逃がさん!」
「「誰か助けて!!」」
一般的に屈辱的であったり、苦痛を伴う仕打ちに対して、しばしば「我々の業界ではご褒美です」というフレーズを目にしますが、「業界」と言うからにはそういった嗜好が就労につながる職業や業種が存在すると言うことなのでしょうか。
What a wonderful world.(なんて素晴らしき世界なのでしょう)