第二十四話 芥川直木の文芸
第二十四話 芥川直木の文芸
「ちょっといい? そこの少年 マケル君」
「ん? 灰宮か、何か用?」
「もう一度 考え直して くれません?」
「ああ、部活への勧誘の件か。俳句同好会だっけ、あれって結局部員集まったのか?」
「申請は してみたけれど 集まらず 宙に立ち消える 我が部なりけり」
「ああ、ダメだったんだ…。でもそれなら、何で俺を勧誘しようと?」
「実はだな 活動内容 被ってる 文芸部へと 入部しけり」
「へぇ、文芸部なんてあったんだ」
「彼はそう言つた。からすの艶羽のような黒髪の男子である。だが、彼の溌溂とした物言いは私の心を尖つた金属片のように抉つた。少年がこの学舎に入学してからすでに半年が過ぎようとしてゐるのであるが、彼は我が部の存在を今の今まで認識していなかつたのである。そのことは彼を責めるべきなのではない、私の活動が至らぬのだ、私は窓硝子に映る自分の陰気な顔を眺めながら独りごちた。」
「え、誰この人? 突然現れて急に変な語り口調で喋り始めたんだけど!?」
「この人は 現部長の 芥川 下の名は直木 芥川直木」
「あっ、部長さん!? この人が!?」
「はじめまして。私は彼に右手を差し出した。無論、これは握手を求めてゐるのだ。握手とは万国共通の挨拶なのだといふ。しかし目の前の少年は戸惑ってゐるようである。彼が握手というものを知らないはずはない。ならばこれはいつたいどうしたことか。」
「いや、部長さんの口調に困惑してるだけなんすけど……」
「マケル君 これにはとっとと 慣れなさい」
「これって……。一応先輩だろ?」
「我が部では 自由な表現 活動のため 対等関係が 原則なのよ」
「ふーん」
「他にはね 一年生では 好江ちゃん とかがうちの 部員だよ」
「ああ、あの腐女子か……」
「もしよかつたら、君も文芸部に入らないか? 私は彼に陰気な顔を向けた。笑顔を作ろうとして顔を歪めてみるが、どうにも難しい。私は笑顔の作り方を忘れてしまつたようだ。」
「なにこのひとこわいんだけど」
「怖くない 怖いと言えば 怖いけど すこし頭が 変なだけ」
「灰宮が言うなよ!」
「そうかそうか。私はゆつくり首を縦に振つた。彼には私の話し方が馴染めぬようであつた。しかし私はこれ以外の手立てを知らぬ。私は目前に黒い靄がかかるのを感じた」
「なにこのひと!? 怖いんだけど!? 普通の会話できないの、この人!?」
「部長はな 直前に読んだ 小説に 多大な影響 受けるのである」
「あっ、じゃあこの喋り方はたまたまで、普段はもっとまともだってこと?」
「影響を 受けて喋る 時以外 黙して本読み 何も語らず」
「つまり、普段は極端に無口で、何かに影響を受けた時だけ変な喋り方するってことかよ! めんどくせーにもほどがあるな!」
純文学という言葉がありますが、純文学のどのへんが“純”なのか、私には理解しかねますね。私も一般教養レベルの諸文豪の小説は一通り読んできましたが、明治期から昭和にかけての文学って暗い話が多いじゃないですか。完全な偏見で言わせて貰えば、純文学は暗文学と呼ぶのが妥当だろうと。
純文学は普段見慣れない語調で書かれているので、読んでて逆に新鮮な気分になるため、嫌いではないのですが、私のような娯楽小説至上主義から言わせて貰えば、読んでて楽しい気持ちにならない小説は総じて劣っている、と私は思うのです。
ところで私は、ブーメランを投げるのが得意です。




