第一話 八張マケルの入学
第一話 八張マケルの入学
「俺のクラスは……一組か。場所は、四階!? 上るのだるいな……」
「おい。お前、マケルか?」
「ん? 誰だ」
「『やっぱりまける』だろお前」
「俺の名前は八張マケルだ! で、お前は誰なんだ」
「覚えてないのか? 小学校の時よく一緒だったじゃないか」
「そう言えば、その顔に見覚えがあるな。もしかして『イマイチ』?」
「違う、相馬一だ。だが俺のことを完全に忘れてしまったわけではなかったようだな」
「昔はよくツルんだからな」
「その割にはすぐには思い出せなかったみたいだが。マケルもこの高校を受けたんだな」
「家から割と近いしな。それにしても、イマイチは最後に会った時よりずいぶん背が伸びたな」
「最後って小学校だろ、そりゃ伸びるわ。マケルはあんまり変わってねぇな。お前はあの頃から身長もいつも負けていたからな。『やっぱり、まける~~』ってよくからかったっけな……」
「なにしみじみ思い出してんだコラ。ある時期、この名前をつけた親をけっこう恨んだんだからな。あんまりイジんな」
「やっぱりまける~~~~!」
「人の話は聞きましょう!!」
「アイテッ。殴ることないだろー」
「うっせ。てかお前も同じクラスみたいだな。そろそろ時間だから、教室行くか」
「走っていこうぜ。どっちが早いかなァ~~~?」
「俺に決まってんだろが。こう見えても中学ではサッカー部だったんだぞ」
「へぇー、そうなのか。……ちなみに俺は、陸上で全国に行ったけどな。よ~~い、どん!」
「え? 嘘だろ」
「置いてくぜーーー」
「速っ」
「―――ふぅ。到着ー」
「……ハァハァ、ハァハァ。お、おまっ、早すぎだろ。なんだあの階段での切り返しは」
「中学生の時に遅刻しそうになって何度も階段を全力で駆け上ったからな。動きに無駄がないんだよ。それにしても、マケルは『やっぱりまける』だな~~」
「なんだと、この見た目も中身も『イマイチ』め」
「イマイチって呼ぶんじゃねぇ!」
「それならそっちこそ、『やっぱりまける』って言うなよ!」
「んだとコラ!」
「やんのかアァン!」
「……やめた。喧嘩なんかしても、『やっぱりまける』もん」
「自分でも認めてるじゃねぇか」
人はいくら敗北を重ねても、挑戦し続ける限り、真の敗北を喫することはないのだ。だから、紛争は今も絶えないんですねぇ。
相手の言い分を認めることから平和は始まるのです。
この「やっぱり、イマイチ、おせっかい。」はそういった尊い思想・言論とは一切関係のない、気楽に読める娯楽小説を目指しています。