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エルフの集落

 エルフの長老であり、シーラ・シエラルクを除く唯一のハイエルフである、マドルクが語るシーラ・シエラルクの話はエルフの罪だった。


「あんた達は!」

「若者よ。わかっておる。ワシらとて、全てを彼女に委ねたことに責任を感じておる」


 俺が言わんとしたことをマドルクはわかっていた。エルフの長老として、シーラ・シエラルクの父としてマドルクは息を吐いた。


「ここにはどういった用件で来られた?だいたい察しがついているがそなたの口から申してほしい。私もシーラほどではないが、ハイエルフとして精霊に愛されている身だ。精霊達が君達が何者なのか教えてくれてはいる」

「教えてくれた?」

「ああ。教えてはくれるかが、精霊の言葉は端的なものが多いため、君達を敵だと判断したのだ」

「なら、なんで出てきたんだ?」


 すき焼きを食べ終えた俺達は、マドルクの案内でエルフの集落へとやってきていた。そこでマドルクが語り出したのは、シーラの話だった。エルフは長寿種と呼ばれることもある。彼らの寿命は千を数える者もいるという。戦争に参加せず、集落に残っているのは、集落を出ることを許されていない若い者か、千という寿命が尽きそうな者達なのだ。


「精霊が言ったのだよ。美味しそうだとな。そなたが作り出す料理に精霊たちは興味を持った。そうでなければワシ自らそなたの下へいったりはせぬ」


 マドルクはこの場にいる者達の中では若いほうだが、シエラルクがいないときの長になる。もしもシーラに何か遭った場合、次代の世継ぎを育てる役目を負っているのだ。


「そうか、じゃあ俺達の要件や目的は知らないんだな?」

「わからぬ。だが、そなたらがシーラの敵であることは推測できるぞ」


 エルフは俺以外にシェーラやモグのことを見た。それでもハッキリと俺のことを敵だと言い切ったのだ。


「あんたの同胞がいてもか?」

「精霊が敵だと告げている。そこの娘はシルフェネスの者か?」

「はい。シェーラ・シルフェネスと申します」

「では、使者として向かった者か?」

「いえ、私は成人の儀を迎える前に旅をしていたところ、帝国と共和国の戦争が始まり、私なりに王国へ助けを求めにいったのです。お恥ずかしい話ですが、人に裏切られ酷い目に遭いました。しかし、彼がそんな私を助けてくれたのです」


 シェーラはいくつかの細かい話をマドルクに話した。それを聞くのが始めたなモグやココナは目を悲痛そうな顔になり、マドルクも苦しそうに息を吐いた。


「ふむ。そんな事情であったか……して、そなたはワシに何を望む?一食の恩、以外にも同胞を救ってくれた恩ができた。返せるのであれば返したいが」

「まずは、話を聞いてくれるだけでいいさ」

「話?それでよいのか?」

「ああ、俺達は王国の者だ」

「それはわかっておる。どうして国境兵がお前達を通したのかはわからぬが、精霊達がそなたをこの地の者でないと言っておる」

「そうか、ならば単刀直入に言うが。エルフたちを俺の納めるガルガンディアに移住させてほしい」


 俺の言葉に何を言われたのか、察することができないマドルクは一瞬間を置いて。


「……無理だな」

「何故だ!」

「ふむ。ここまで来てくれたことに感謝して、話そう。これは私達が生きる上で大切なことなのだ」


 マドルクは大きく息を吸いこみ語り出した。


「無理な理由は二つじゃ。まず、我々は精霊様に護られておる。それは何も魔法の助けや、生活だけではない。この森全てが精霊の住まう場所であり、我々はその加護の下で生きておるのだ。そのためこの森を護るのが我らの役目であり。その役目を放棄して、この地を離れることはできない。それは精霊を裏切ることであり、自分達の生きる意味を捨てるということだ」


 マドルクの拒絶の言葉はエルフとしての矜持を語るようのものだった。それはエルフの生き方であり、他の者が干渉できる範囲を超えていた。


「もう一つは、我らの長がシーラ・シエラルクであるからだ」

「あんたはまた!」


 俺が叫びそうになると、マドルクが手でそれを制した。


「何と言われようと、彼女の決断が我々を左右する。彼女が死ねと言えば、我らは喜んで死のう。彼女が必死に足掻けと言えば必死に生へしがみつこう。しかし、我々は元々死など恐れぬのだ。死せば地に帰り、精霊になれるのだ。これほど誇り高いことはない」


 ここにきて初めて俺は、シエラルクが首を縦に振らなかった理由が理解できた。シーラ・シエラルクだけは他のエルフとは違うのだ。他のエルフたちは旅をしようと、集落を変えようと森を変えようと問題ない。

 しかし、シエラルクはこの森そのものなのだ。シエラルクを手に入れたいのであれば、この森ごと手に入れなければならないということだ。


「そういうことか……」


 マドルクが語る二つの理由に納得してしまった。


 俺は決断しなくてはならない。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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