過去
すみません。投稿が遅れました。
それそれは可愛い赤ん坊が生まれた。村の中では盛大な騒ぎになり、感情の起伏が少ないエルフ達も祭をするぐらい喜んだ。それはエルフだけに止まらず、精霊達も森も風も自然が喜んだ。
次代の精霊王になれるかもしれない存在。
期待と喜びを受けて産まれてきた赤ん坊は、シーラと名付けられた。シーラは期待以上の成長を遂げた。精霊に愛され、美しい容姿と類いまれなる魔力を持って、共和国内に確固たる地位を気付き上げた。
もともと共和国は小さな国の集合体だったこともあり、シーラという絶対強者を得たエルフと、ことを構えようとするものはいなくなった。シーラは歳を重ねるごとにその強さを増していき、他国に名を轟かせるまでになった。
「人間達が帝国に屈したと言うの?」
「そういうことじゃ、して我々はどうしたものか……」
エルフの長老はこれからのことを考え、そして、その全てをシーラに託そうとしていた。
「私は戦います。エルフはエルフの尊厳を守らなけれならない」
「それでよいのか?」
「はい。全エルフに知らせてください。私達は戦うと」
彼女の決断は共和国に散らばる全てのエルフに伝えられた。それはエルフだけに留まらず、精霊種全てに伝わり、共和国に住まう精霊族と帝国の戦いが始まった。
それは一年だけの短いようで長い戦争だった。
帝国は強かった。巨人や魔人、魔物や傭兵、普通の人間もそうでない者も、人種など関係なく協力し合って戦ってきた。
精霊族も、それまで力を合わせて戦ったことなど無いはずなのに、ドワーフが、ノームが、シルフィーが、シーラの呼びかけに応えるように集まって力を合わせた。
「シーラ、我々は不利な状況にある。このままでは帝国に負けるのは目に見えておるぞ」
長老はまたも問いかける。
戦いが半年を過ぎ、一年に差し掛かる少し前。帝国の圧倒的な数の暴力に対して、森を失い。仲間を失い。食料を、武器を消耗していく中で、シーラは決断を迫られた。
「王国に助けを求めましょう」
「よいのか?他国に助けを求めても?」
「もう、それしか私達が生き残る道はない」
「わかった。では使者を立てよう。誰が良いか?」
「エルフの王族、シルフェネスの者に頼みましょう」
「うむ。王族が向かうのであれば、向こうも納得しよう」
シーラの考えを長老は受け、すぐにシルフェネスがいる集落に知らせが届いた。シルフェネスからはすぐさま、第一王女を使者として出すと書状が返ってきた。
「ご報告があります」
それはシルフェネスの者が使者として起った後に告げられた報告だった。
「ゴルドナ殿が!」
それはシーラと双璧を成す、ドワーフの英雄だった。帝国との戦争を決めたとき、シーラだけでは一年も戦うことはできなかった。
ドワーフが武器をつくり、戦士として戦ってくれたからこそ、ここまで長い戦いができたのだ。
「そうです。倒れました。敵の巨人族の長と一騎打ちの末、重傷を負ったと報告が来ております」
「重症?死んではいないのか?」
「死の報告は受けておりません」
「ならば、すぐに手当てを!」
「それが、手当てをしたくとも、敵の攻撃が続いています。シーラ様の結界があるからこそ、我々も報告に来れていますが、シーラ様の魔力が切れたときが我々の最後かと」
ドワーフの報告に、シーラはストンと心の中に落ち着くものがあった。それはある決断をさせるのに十分な意味を含んでいた。
「あい分かった。では、これよりエルフの長、シーラ・シエラルクは帝国に下る」
「なんと!正気なのか?」
長老もこれには驚きを隠せず、シーラを問い詰めた。
「はい。これしかゴルドナ殿を、皆を救える手はありません。今から王国と交渉をしても間に合わないでしょう」
シーラは自らの首と体を差し出す代わりに精霊族の自治を主張した。そんなシーラに対して、帝国が出した応えは、シーラを将軍として受け入れ、また精霊族を認めるという寛大なものだった。
「これでよかったのじゃ」
話を終えた長老はそっとお茶を飲む。シーラ・シエラルク話は創造よりも過酷で、そして一人の女性に背負わすには荷が重いものだった。
精霊族の命運を一身に受けた女性は、全ての責任を背負い、裏切りのハイエルフと呼ばれるようになる。
いつも読んで頂きありがとうござます。




