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帝国潜入

 帝国と王国の国境はあっさりと通過することができた。要因として、現在も精霊族が帝国の民であること、俺とリンが冒険者であることだった。

 精霊族の面々は報告と捕虜を帝国内に搬送するために伝令として扱われた。シェーラもココナも見た目は少女なので、普通の兵士からすれば伝令とみなしても仕方ないことあろう。

 シルに関しては眼中に入らないし、モグがこの隊の隊長のように振る舞っている。


「またお前か、今度は何しに帰ってきたんだ?」

「国境兵さん、ご苦労さんです。今回は各精霊族への報告をするための報告と、ここにいる王国の捕虜を二人連れてまいった次第ですわ。シエラルク様から、国に送るように言われてきたんです」

「なるほどな。まだガキのように見えるが?」

「そうやろな。でも、こいつらは元々冒険者やったようでな。森で行軍中に見つけて確保したんですわ。そろそろガルガンディアで戦いが始まるさかい、邪魔なこいつらは本国行きっちゅう訳ですわ」

「なるほどな」


 モグの口の上手さに感心しつつ、国境兵を騙せたことにホッとする。


「それにしても王国はこんな子供まで戦わせようとしているのか?本当に滅んだ方がいいんじゃないか?」


 国境兵の何気ない言葉に、俺はイラッとする。ここで暴れるメリットが何もないが、ヨハン元々の性格が俺の感情を引っ張り出そうとする。


「もう行ってもええですか?」

「ああ、かまわんぞ」


 そんな俺の心境を察したのか、モグが国境兵に言って、急いでその場を後にした。


「殺気を抑えなはれ。さっきの奴らがアホやったからよかったもんの。あんさんが只者やないってばれてまうやろ」


 モグは俺の殺気に対して、慌てて諌めるが、俺も自分がバカなことをしている自覚はあるので、言われる前に殺気は消している。胸の辺りに違和感が残ったような気がしたが、気のせいだろう。


「もう、出してない」

「ハァ~そんなんでこの先も大丈夫かいな」


 帝国に入った事で、若干興奮していたらしい。上手く感情を抑えることができなかった。


「それにしてもこのメンバーは何なんやろな」


 俺の気持ちを汲んでか、モグが話題を変える。


「何が何なんだ?」

「ダンディーな、おらは置いておいて。ガキが四人って、どう考えてもおかしいやろ」

「私もいるよ~」


 シルがアピールしているが、モグは溜息を吐いた。


「だから何が言いたいんだよ」

「せやな。ここからはおらがリーダーや、ええな?」


 三本しかない指で自分を指して、ポーズを付ける。


「そうだな。それでいい」


 俺はモグの言葉にあっさりと返事をして歩き出す。


「ほへ?ええんか?ホンマやな。男に二言は許さんで!」

「はいはい。それでいいさ」

「皆も問題ないな?」


 俺がリンや他のメンバーを見れば、俺の言葉に反論する者はいなかった。


「これからはお前がリーダーだ。じゃあ頼むぞモグリーダー」

「おっおう」


 モグがリーダーに決定したので、俺達はスタスタと歩き出す。


「ちょっと待ちいいな。リーダーはおらやで、先頭はおらのもんや」


 モグが短い足でドスドスと先頭にかけていく。


 帝国領とはいえ、元々共和国だった場所は、帝国という雰囲気はなく。監視する者と監視される者に分かれたギスギスした雰囲気が流れていた。


「これが元共和国で、現帝国領か」

「そや、これが占領された国っちゅうことや。負けた者は全てを失い、勝った者は負けた者の反乱を恐れて監視する。これほど虚しいもんはないで」


 モグの言葉に、もしも王国が負けたときの事を考えさせられる。王国も次の共和国にさせないために、俺は俺の成すべきことが重大なことだと再確認する。


「まずは、街に近いドワーフのところにいこか?」

「いや、エルフ、もしくはノーム族に会いたい」

「なんでや!ドワーフが一番近いんやで、まずは近いところから行くのが常識やろ」

「説明が必要かリーダー?」

「ぬぐぐ、こないなときにリーダーいいなや」


 俺の言葉にモグはバカにされていると思ったのか、質問を重ねることはなかった。近くのドワーフは帰りでも会える。何より帝国から脱出する算段も考えるなら、近くよりも遠くを早めに終わらせたい。


「ほら、案内頼むぞリーダー。それに宿屋と飯屋の支払いもな。リーダーならできるだろ?」

「ホンマにこれがリーダーの仕事なんか?リーダー言うたら皆から尊敬されて、頼られる存在とちゃうんか?」


 俺の物言いにモグは疑問を浮かべる。


「だから頼ってるじゃないか。俺達じゃ道がわからない。帝国の通貨も持っていない。モグがいないと何もできないってな」

「そっそうか。もっと頼ったらええで」


 俺の言葉に気分を良くしたのか、モグが先頭きって歩き出した。


「ヨハン様……本当によろしいので?」

「どうかしたか?」

「いえ、なんだが不憫に思えてしまって」

「まぁ本人が気分良くしているんだ。いいだろ?」

「それはそうかもしれませんが」


 リンはモグを見て、可哀相な視線を向ける。おだてれば乗ってしまう。モグとは調子の良い奴である。

しかし、調子が良い方が扱いやすくて助かるので、俺としては助かる限りだ。


「何も間違ったことは言っていないさ。モグが頼りなのは事実だ。何より俺達の中ではモグが一番年上だということも間違いない」

「そう……ですか」


 リンは納得できないようだが、俺の言葉だということで納得するしかなかった。

 

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