閑話 アリルーア草原の戦い 3
明日より第四章後編をお送りします。
黒騎士がトッカツ達と交戦している間に、ミゲールは鎧に身を包み戦場へと躍り出た。
「マーボーたちは上手くやっているようだな」
敵の後方から煙があがり、食料を燃やすことに成功したことがわかる。トッカツ達の裏で行われている作戦は成功したようだ。
「俺達は俺達の仕事をするぞ」
トッカツ達を主力とするならば、ミゲール達は誘導、牽制と言ったところだろう。紅い鎧に身を包み、派手な鎧が戦場を駆ければ目につくというものだ。
黒騎士が主力であるトッカツに向かっていくのをミゲールは確認した。紅騎士ミゲールは黒騎士の裏を斯くように敵の横っ面を叩きに出たのだ。
アリルーア砦は、ボルシチとランスに任せている。ミゲール楽しそうに戦場を駆ける。
「我が名は王国軍第二総大将ミゲール:アンダーソンである。手柄がほしい者は我を倒せてみせよ」
ミゲールの名乗りに傭兵達が我先にとミゲールの下に殺到する。
「おうおう。馬鹿どもがやってくるな」
ミゲールの周りにはミゲールを護る側近部隊が存在する。殺到する傭兵たちを側近部隊が返り討ちにしていると、巨大氷がミゲールの頭上に現れる。
「馬鹿共が、そんな挑発に乗ってどうする?」
戦場から少し離れた場所で勝ち誇るようにロッドを掲げる者がいた。男の作り出した氷がミゲールを襲う。
「舐められたものだ。王国の大将軍を舐めるなよ」
ミゲールは普通の槍を持っているだけだ。細くしなやか、ミゲールが使うために特注で作られているとはいえ、ある特殊な素材を使っている以外は普通の槍に変わりはない。
「反張」
ミゲールの言葉と共に、ミゲールとその側近たちが持っていた武器以外が宙に浮きあがる。無数の剣や槍が氷へと飛来する。巨大な氷の塊は飛来する武器たちによってヒビが入り砕け散った。
「なっ!」
氷を作り出した魔導師はその光景に驚き、何が起きたのかわからなかった。
「俺の前で武器や魔法が通じると思うなよ」
ミゲールが赤馬を走らせれば、氷の魔導師へと一気に駆け抜ける。
「クックソが!」
魔導師は小さな氷の礫をいくつも出現させてミゲールを襲う。先程の違う魔法を唱える。
「吸引」
魔法と共に近くに盾を持っていた者から奪い去り、氷の礫は全て盾によって阻まれる。
「何を!いったい何をしているというのだ!」
「死ぬお前に話すことはないだろう?」
氷の魔導師が答えを聞く前に、胴と頭は別れることになった。
「この……氷結魔法のヒュドラが……」
最後の言葉を残して、氷結魔法のヒュドラが命を散らした。
「おや?どうやら標的の一人だったらしいな」
ミゲールは氷結魔法のヒュドラを討ってた。ターゲットにしていた相手を倒しても、それほど嬉しそうでもなさそうにはなかった。それよりも黒騎士の動向が気になり主戦場に目を向ける。黒騎士が通った後に兵士が飛んでいるところを見れば、主力部隊と交戦の真っただ中のようだ。
「どうやら、トッカツ達は上手く行ったようだな。俺の目標はまだまだ先か、さすがに一回の作戦で上手く行くほど安くはないか」
主力部隊が崩れ出した。黒騎士が主力部隊の誰かを討ったか?状況が一変して黒騎士が蹂躙しているのが見えている。
「痛み分けか……俺達も敵を荒らして帰るとしますか」
中央は黒騎士が、左翼はミゲールがそれぞれ敵を蹂躙して一日目を終えた。帝国の将軍が二人、王国の将軍が三人死傷したが、多くの兵士が戦える状態で一日を終えた。
両軍の大将自体が無傷だったため、大勢に影響はなかったが、王国側の方が被害が大きかった。
「ミゲール様、無事にご帰還。お疲れ様です」
ライスに出迎えられて、ミゲールが槍を預ける。見た目は普通の槍ではあるが、特殊な合金で作られた槍はかなり重い。
「戦況はどうなっている?」
「残念ながら、トッカツ、パッスタ、チャハーンの三名が戦死。千ほどの兵士が死に、三千ほどが負傷して帰ってきました。しかし、主を失った私兵に価値があるかどうか……成果としては、敵将バグジーをトッカツが、敵将ヒュドラミゲール様が討ちとりました。敵の損傷は二千」
ライスの報告を聞きながら、ミゲールは鎧を脱ぐ。
「そうか、一戦目は本当に痛み分けだな」
「はい。若干ですが、こちらの方が被害が酷いので負けです」
ライスの言葉にミゲールは頭を掻く。
「若手を死なせてはなりませんぞ」
そんなミゲールにボルシチが言葉をかける。
「師匠……」
「若者の命を粗末にするもんじゃないぞ」
「粗末になどしておりません。彼等にはチャンスを与えただけですよ。ただ予想以上に相手が強かったことと、彼らが予想以上に使えなかっただけですよ」
ミゲールの言葉にボルシチは悲しそうな顔をする。
「ミゲール……」
「ライス!三人の私兵たちについてはバラバラに配置しろ。主の仇を討つために死にもの狂いで働けと言っておけ」
「はっ!」
ミゲールの熾烈な発言にボルシチもそれ以上何も言わなかった。
アリルーア草原の初日はこうして幕を下ろした。それから両国の長い長い睨み合いが続くことになる。
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