閑話 勇者ランス
閑話をもう一話投稿したら第四章後篇をスタートします。
ランスは帝国からエルフの一団を救い出し、王国への亡命を成功させた。
しかし、エルフは一つの集落ではなく、いくつかに分かれて存在するため、ランスが救うことができたのは一部だとランス自身もわかっている。
「本当についてくるのか?」
「ええ、私も帝国と戦いたいから」
ランスたちの部隊には王国に亡命し、そのままランスの隊に任意で参加しているエルフ達がいた。エルフの王族であり、エルフ王国第一王女のシェリル・シルフェネスが部隊を率いてランスの隊に参加したのだ。
「そうか、なら頼りにさせてもらう。エルフの精霊魔法と弓の腕は頼りになるからな」
ランスは心強い味方を得たと喜んだ。現在ランスは第一軍総大将である。元帥閣下の命令により、セリーヌ砦に来ていた。第一軍本隊は半分が王都の守護を、もう半分はランスのように遊撃隊や調査達として様々な地域に赴いている。
「敵は巨人族、生半可な相手じゃないぞ」
砦からでも見える巨大な姿にランスの部隊は息を飲む。それはエルフたちも同じで、相手の脅威を理解しているのだ。
「勝算はあるのですか?」
「ない。出たとこ勝負だ。こんなときにアイツがいてくれたら助かるんだけどな」
「アイツ?」
俺の呟きにシェリルが反応する。
「俺の幼馴染でヨハンっていう奴がいるんだ。アイツはバカだけど、こういうピンチのときに変なことを思いつくのが上手いからな」
「頼りにされているのですね」
「ああ。だが、アイツも今は別の場所で頑張っているはずだ。俺も負けてられないな」
「はい。行きましょう。ランス」
シェリルとルッツを率いてランスが出撃すると、すぐさまサクラが部隊を率いてやってきた。
「勝手はダメ、偵察は私の仕事」
「サクラ殿!しかし……」
「いいから、任せて」
サクラはそれだけ言うと速度を上げて部隊丸ごと姿が見えなくなった。
「彼女は?」
「彼女はミリューゼ様直属部隊六羽のサクラさんだ。諜報部隊の部隊長をしているらしい。彼女の情報は戦場に置いて役に立つ。しかし、もっとも危険な場所に身を投じなければならないんだ」
サクラはランスのためにその身を危険にさらそうとしてくれているのだ。
「彼女にばかり負担をかけられないぞ。ルッツ!用意はいいな?」
「おうよ。皆でやれば恐くないだな」
「そうだ。デカい奴は格好の的だと教えてやろう」
俺はロープと強弓を用意した。十人の小隊を作り、配ったロープを持たせている。強弓に関してはエルフに頼んだ。命中率が一般兵よりも圧倒的に高いのだ。
「俺達が巨人を退けるぞ」
ルッツとランス、さらにサクラとシェリルのそれぞれの部隊を合して合計二千の兵が百人の巨人に挑もうとしていた。
「近づけばデカさがわかるな」
ルッツの声にランスも息を飲む。大木と言える木々たちよりもさらに頭一つ高い位置にいる巨人に、脅威を感じるなと言う方が無理がある。
「木々に隠れているが小さい巨人もいるぞ」
伝令の報告にランスが思考を巡らせていると、サクラが姿を現した。
「向こうに隠れながら戦える丁度いい場所がある」
平原ではなく森を指差すサクラに、俺は運河のことを思い出す。敵を足止めするのに川が使えないか。
「サクラさん、ありがとうございます」
「別に……仕事をしてるだけ」
サクラは照れたような顔で、ランスを誘導するように歩き出す。
ランスを気遣っているのが良くわかるゆっくりとした歩みに、笑みをつくり歩き出す。
「ランス!デレデレしすぎ」
シェリルに脇を突かれて悶絶する。
「シェリル?」
「ふん、知らないよ」
エルフとは思えない感情表現に唖然としながら、ランスが驚いていると、ルッツに頭をはたかれる。
「イッテ!」
「羨ましい奴」
ルッツはそれだけ言うと、ランスの前を歩いていく。部隊の仲間達もランスを見て笑う者や、羨ましそうに睨み付ける者など様々な視線を向けて通り過ぎた。
そんな部隊の雰囲気が嬉しくて、今から化け物相手に命のやり取りをするとは思えないほど、気持ちがリラックスしていく。
「巨人が相手だ!油断するなよ」
それは誰に向けて言ったのか、ランスは先頭まで歩き、サクラやシェリル、ルッツと肩を並べて巨人へと立ち向かう。
「いくぞ!」
ランスの部隊はロープで巨人の足を取り、強弓で牽制する。倒れた巨人を数人で一斉に攻撃する。その中でも一際輝く者がいた。シルバーの鎧に身を包んだその少年は何かを語ることはない。
少年は巨人に真正面から立ち向かう。
怯えていた兵士達も彼の姿に勇気をもらう。
「我らが隊長は勇者かもしれない」
誰かが言った。その言葉は部隊を奮い立たせ、また彼の側では美しい女性たちが舞い踊る。
黒装束に身を包み、地味な衣装とは打って変わって、派手な技で敵を攪乱させるシノビ。金髪と美しい白い肌で精霊魔法と弓で敵を牽制するエルフ。
そして彼と肩を並べ、白い鎧に身を包んだ美しき王女は槍を振り回し敵を薙ぎ払う。
「我らには勇者と女神がついている」
何も語ぬ勇者の背中は、兵士達に全て語っていた。
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