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閑話 アリルーア草原の戦い 1

本日から数話閑話を挟みます。

その後に第四章の後篇に入ります

 八魔将の一人となり、本当に騎士になった黒騎士率いる帝国軍はアリルーア草原に陣を引き、第二軍が守護する砦と交戦を開始した。

 ヨハンが守護するガルガンディアよりも西にある草原では最多戦力による戦いが始まろうとしていた。


 王国の将は、第二軍を預かるミゲール・アンダーソン侯爵である。彼は王国内でも三指に入る策士であると同時に、槍を持たせれば敵なしと言われるほどの戦人である。

 

「戦況を説明せよ」

「はっ、現在黒騎士と思われる帝国兵が5万、元々共和国の傭兵をしていた者達です」

「そうか、名のある者はいるか?」

「傭兵時代に名前を馳せたものであれば、氷結魔法のヒュドラ、爆弾頭のバクジー、殺戮婦人のキラーでしょうか?」

「そいつらは要注意人物に入れておけ、俺は籠城などという策は取らん」

「ではっ、どうするので?」

「第二軍の将たちを集めろ。祭の始まりだ」



 ミゲールの横で報告を伝えていたのは、第二軍の副総大将であり、ミゲールの副官を務めるライスだった。


「かしこまりました」


 ライスの号令により、第二軍の将軍と軍師が集められる。総勢20人もいる第二軍の将たちは元々家柄が由緒正しき貴族である。


「よくぞ集まってくれた。敵の数は5万、もしかすればまだまだ増援されるかもしれない。そのため我々も総力戦を強い得られる。心してかかってほしい」


 ミゲールの声に集まっていた。面々もやる気に満ちた顔を見せる。


「ミゲール様さえ居れば私達は安心して戦いに赴ける。なぜならば勝利が約束されているからだ」


 ライスの言葉に将軍達も楽しみだと笑い合う。


 第二軍は三つある軍の中で一番人が多い。貴族である彼等を頂点にして、その小間使いや下働きも共に第二軍に配属されるため、貴族の私兵がどうしても増える。私兵が手柄を上げれば、それは貴族である彼らの手柄となるのだ。


「そうだ。今回も君達に勝利と、勲章をプレゼントしよう。今回のターゲットは四人だ、傭兵たちを指揮していることだろう。また、黒騎士の首を取った者は勲章以外に王へ直訴して褒賞を与えることも約束しよう」


 ミゲールの言葉に、若い将軍達などは目をギラギラと輝かせる。若い者達は貴族としての教養と同時に様々な訓練を受けて育っている。そんな彼らはスリルと血が騒ぐような躍動を楽しみにしている節があった。ミゲールはそういう若者たちを焚きつけるのが上手い。


「ミゲール様!一番槍はこのチャハーンへ!」

「いやいや、このパッスタへ」

「何を言っている。お前達よりも俺の方が向いている決まっているではないか。我こそが一番槍に相応しい。そうですよねミゲール様」


 体格のいい若手貴族が二人を押し退けてミゲールに直訴する。


「トッカツか、確かに貴様の武力は我が隊でも指折りだ。一番槍任せても良いか?」

「もちろんでございます」


 二メートルに届きそうなトッカツは膝を突いてミゲールを見る。膝をついていても、目線はほとんど変わらないというほどの大男なのだ。


「ならば、トッカツに一番槍任せよう。チャハーンとパッスタはトッカツの左右を固めよ」

「「はっ!」」


 二人は不満をもらすことなく、ミゲールの言葉を受け入れた。トッカツの実力を認めている上に、ミゲールからの命令であれば逆らう意味を持たない。それほどまでにミゲールのことを信頼しているのだ。


「ならば、見事一番槍果たして見せよ」

「承知!」


 トッカツは任を受け、すぐさま会議室を後にした。チャハーンとパッスタもそれに続く。第二軍は現在4万弱の兵を有している。そのほとんどが貴族の私兵ではあるが、王国へ褒賞をもらうことで貴族として土地や金貨を得ることができるのだ。そうすれば格が上がり、他の者を見下すことができる。

 貴族はプライドが高く、格を競う人種なのだ。


「若者だかりで大丈夫ですかな?」


 この場で一番の高齢者であり、ミゲールの懐刀と呼ばれる。ボルシチが声を上げる。幾度も続いた共和国の戦いを第一軍総大将である元帥と共に戦い抜いた男なのだ。元々第二軍の総大将であったが、歳を理由にミゲールにその席を譲った。歳と言ってもその知力と戦闘能力は今も健在であり、またミゲールの師でもあるので、ミゲールとしては心強い相談役と言える。


「相手の出方を見るのには丁度いいでしょう。ですが、それだけで終わらせる気はありませんよ。ここは草原で両軍の総戦力が激突しても大丈夫な広さがあるんです。思い切りやらせてもらいますよ」

「ふむ。前回は攻防戦でしたが、今回は防衛線。余裕と言うところですかな?」

「いや、相手の方が数が多い以上は油断はしない。だが、攻撃を仕掛ける者にはどうしても隙ができる。それを責めさせていただく」

「ふむ。合格ですな」


 ボルシチはそれ以上口を開くことはなかった。


「では、マーボー、ホー」


 ミゲールは二人の貴族の名前を呼ぶ。


「二人は部隊を率いて、敵の背後に回り、輜重兵を狙え」

「なるほど、食料を奪うのですな」

「腹が減って戦える者はいないからな」


 戦の常套手段ではあるが、最も効果的な手段とも言える。


「かしこまりました」


 マーボーとホーもそれぞれの軍師を連れて席を立った。


 会議に集まった者が半分ほどになったところで、それぞれの持ち場の維持と敵の視察を申し付けて解散となった。

 

 王国と帝国の総力をかけた戦いが始まろうとしていた。




いつも読んで頂きありがとうございます。

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