ガルガンディア防衛線 2
サクの策が実行に移され、ガルガンディアの中が慌ただしくなる。一人の少女に護られている状況を早くなんとかしたいと思う気持ちは、誰にでもあった。軍人も、民間人も、そして異種族であろうと気持ちは変わらない。
「シェーラの負担を減らしにいくぞ」
「「「ウオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
俺の言葉と同時にゴブリンとオークが雄叫びを上げる。それは遠くにいるハイエルフにも届くような大きな声で叫んだ。雄叫びに応じるようにドワーフがガルガンディア前からハイエルフのいるであろうゴブリン集落に向けて進軍を開始する。ノーム族はというと、モグの働きにより慌てふためいている。
「なっなにが起きたんや!」
「オッチャン。逃げなアカンで!ドワーフ共が裏切った!」
「なんでや!ゴルドナ殿がいたらそないなことならんやろ」
「そのゴルドナ殿が捕まってもうたんや」
「なんやて!」
モグはゴルドナが捕虜になった話を多くのノーム族へと話していった。それと同時に主戦力であったドワーフ族一万が寝返ったことで、三千ほどしかいないノーム族は慌てふためく。
「そないなことしたら帝国におるもんはどないなるんや」
ノーム族の一言にモグは奥歯を噛み締めた。そうなのだ。全ての者が家族全員で戦場に来ているわけではない。ピクニックではないのだ。戦えない老人や、身重な女性を連れてくる奴などいない。ノーム全員を掌握できないと言ったのもそこにあり、またハイエルフの恐ろしさもまたそこにある。
「そんなん知らんわ。アホなドワーフ共にでも聞けや」
ドワーフてと同じはずなのだ。全ての者が戦場に来ているわけではないはずだ。それでも彼等は故郷にいる家族よりも、この場で戦う者達と、大将であるゴルドナを迷いなく選んだ。
「とりあえずは、このことはあの方に伝えなあかんな」
「そうや。頼んだで、この場はおらに任せて、ノーム族皆であの方の下まで戻ってや」
「ああ、みんなに伝えるわ」
ノーム族のオッサンはモグの話を聞いて、ノーム族に撤退命令を出した。これにより、ドワーフと共に進軍してきたノーム族もガルガンディア要塞より去り、逆にドワーフ達の進軍が始まった。
「これでええんか?」
モグが作った穴の中で待っていた俺に声がかかる。
「ああ、上出来だ」
「おらは次の段階に入るで」
「ああ、俺もドワーフ達に指示を出しに行ってくる」
モグは穴を掘って先へと進んでいく。俺はモグに掘ってもらった穴を使って、ドワーフの下へと向かう。ドワーフ達の中に数名のゴブリン兵を紛れ込ませている。ゴブリン達の役目はあくまで、ドワーフ達の監視であり、戦闘を行うのはあくまでドワーフ達にやらせるように言って聞かせている。
「ハンチャ、状況はどうだ?」
俺が穴の中からハンチャに話しかける。
ハンチャは指示を出す立場にあるので、後方で俺の指示を待っている。先頭はドワーフ族の若者二人に任せている。ロリコン体型の女性はゴルドナの孫娘らしく、ドワーフ達の指揮も高くなり、男性の方もまだまだ若いが戦士として優秀だというので、先陣を任せた。
「今のところ、我々の裏切りは伝わっていないようだ。このまま進めばすぐに村に着くだろう」
「そうか、警戒していないなら奇襲と行こうか」
「よろしいのか?サク殿の策とは違うようだが」
サクの策は、ドワーフ達に派手に騒いでもらい、敵と交戦後、ドワーフ達が逃げながら敵をおびき寄せるというものだった。
「まぁまずは小手調べで三千ほどで向こうさんを攻めてくれないか?口上を述べるだけでいい」
「口上?」
「そうだ。こう言ってくれ」
俺はハンチャに口上の内容を告げた。
「ヨハン殿が大将だ。信じよう」
ハンチャが指示を出せば、右翼の三千がゴブリンの村へ向かって突撃をかけた。村には門も無ければ柵もない。障害物になる物が何もないのだ。ドワーフの突撃と共に多数の矢が降り注ぐ。
「貴様ら!何のつもりだ!」
村の方から叫び声が上げる。霧なので相手の姿は見えないが、防衛を担当していたエルフ族だろう。
「我々は王国へ亡命する。エルフの者達よ。貴様らは帝国へ恨みはないのか!我々は多くの仲間を殺され、土地を、誇りを、奪われた。お前達は悔しくないのか!」
ドワーフの叫びに叫び声をあげた相手が、引いたのがうかがえる。
「我々は新たな地で、新たな主と共に、新たな生活を送る。主らも来ぬか?」
ドワーフの叫びガルガンディアの森全てに響いているように俺には聞こえた。魂の叫びは、人の心を打つ。
「なっ何を言っておるか、帝国には自治権を貰い。お前達も家族が住んでいるではないか」
「何が自治権か、帝国の支配の下、帝国の望む物を作る。自由のない。誇りの無い仕事に何の意味がある。お主らも精霊族であれば、自由を愛する民だと言うのに誰かの支配の下でよいのか」
ドワーフの叫びに応える声はなかった。
「降伏するならば受け入れよう。抵抗するならばドワーフの戦士が相手をする。選ぶがいい」
ドワーフの戦士たちの威圧に、精霊族の者達が慌てている声が聞こえてくる。しかし、一本の矢が全ての言葉を消し去る。
矢は霧を切り裂くように風切音で「ピーーー!!!」と鳴り響いて、ドワーフ達の前に突き刺さった。
「我はエルフの戦士。裏切り者のドワーフの言葉など聞くものか、我の矢に恐れをなして逃げるがいい」
エルフの戦士を名乗った男は続けて矢を放つ。それに続くように多数の矢が降り注いだ。三千のドワーフ兵は盾を使い矢から身を護るが完全に動きを封じられた。
「次の一手だ。左翼から奇襲をかけろ」
俺はハンチャに命令させて、もう一つの三千を使う。
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