ガルガンディア防衛線 1
体調が落ち着くまでは投降を0時に固定させていただきます。
ご迷惑をおかけします。
ドワーフ族が味方になることが決まった。打つ手が限られていた状況から、ハイエルフに対抗するための手段を手に入れることができた。実際にどう使うのか、サクと話し合わなけれならない。
「それで、モグ。お前はどうするんだ?」
「おら、一人が味方することはできるで。ただ、ノーム族の全員は無理や。さっきも言うたが、おらの妹を人質にすることはできる。けどな、ノーム族は個々で動いとる。個人の意思で全員を動かすのは無理やで」
さっきのノーム族の娘というのは妹のことらしい。
「その妹はどこにいるんだ?」
モグラ顔の女性を想像して残念感を感じながら聞いてみる。
「おい。モモ、出といで」
モグが名前を呼ぶと、穴の中から小さな少女が顔を出した。アーモンドのような真っ黒な瞳と頭の上で結んだ短髪の髪。モグと似てるのは指と爪が三本だというところぐらいだろう。モグラ顔の残念少女ではなく、可愛らしい女の子がそこにいた。
「こいつがおらの妹で、モモいいます」
「モモです」
ペコリと音がしそうなほど可愛らしいお辞儀にリンが溜息をもらす。次の瞬間にはリンが叫んでいた。
「可愛いー!!!」
リンは、俺が止めるよりも早くモモを抱き上げていた。俺でもついていけない速度に誰もリンについていけなかった。
「なんや!なんなんやこの姉ちゃん!」
モグはいきなり隣にいた妹をかっさわれて慌てふためく。
「モグ、妹に感謝しろよ。ノーム族のモグを仲間とする。俺の為に働け」
「どういうことや?」
「リンが気に入った。それだけだ」
「なんや、この姉さんあんさんのこれかいな」
モグが三本しかない爪の一本をたてる。
「うるさい。とりあえず、うちの軍師に話にいくぞ。後、穴から霧がはいってくることはないのか?」
「それは大丈夫やで」
「根拠は?」
「根拠はあの方が言っとっわ。自分の出せる霧の範囲は都市一つ分ぐらいやと。しかも一度出してしまえば消さなければ範囲を変えることはできんてな」
ガルガンディアを覆えるなら十分な範囲だと思うが、モグの言っていることが本当のことなのかわからない。仲間に自分の能力を全て話しているとも思えない。
「なら念のために穴は塞いでおいてくれ」
「用心深い人やな」
「仲間を護るためだ」
「そう言われたらやるしかないな」
モグは文句を言いながらも、穴を塞ぎに行った。戻ってきたとき、二人のドワーフを連れて上がってきた。
「ドワーフを連れてきていいとは言ってないぞ」
「そない言いなや。兄さんが魔法をぶっ放すから、ほとんどが怪我人になってもうて、この二人だけ無事やったんやぞ。穴の中で生き埋めせいいうんか?」
「引き返せばいいだけだろ」
俺が放った魔法で、連れてきたドワーフ達はケガをしたらしい。残った二人と言われて見てみれば、一人は背が低いが、ちゃんとした大人だと分かる女性のドワーフと、もう一人はドワーフの見た目にしては若い印象を受ける髭のないドワーフだった。
「若いな」
「あんさんがいいなや。あんさんはおらから見てもガキやで」
「見た目はな。まぁいい、モグとドワーフ三人は俺についてきてくれ。リン、モモを丁重なところに案内しろ。大事な捕虜だ。後、ここの指揮をチンに頼んでおいてくれ」
「はい!」
モモを抱きしめる力は緩めず、俺への返事はしっかりとするリンに苦笑いを浮かべて、俺はサクの下へ四人を案内した。サクは俺の執務室で地図とにらめっこしていた。
「サク」
「ヨハン様、どうでしたか?」
門を叩く音が止んだことはわかっているので、サクが状況説明を求めた。俺は簡潔にゴルドナとの話をして、ドワーフ達が仲間になったことを述べた。
「そうでしたか、それで?こちらがそのドワーフたちですか」
「ああ、ゴルドナは治療中だから、今はベッドで寝ている。ゴルドナの代わりに、このハンチャがドワーフ代表だ」
「ハンチャです」
「サクです。あなた方を信用したわけではないですが、今は同盟関係と考えます」
「それで構いません。我々も族長を助けるために動くだけです」
ハンチャの言葉にサクが頷き、残りの二人のドワーフは黙って控えていた。
「それで……こっちがノーム族のモグだ。、自ら妹のモモを人質に差し出して仲間になってくれた」
「妹さんを!それは大変な覚悟ですね」
サクにとって家族を差し出すのは、かなりの覚悟だと思ったようだ。
「よろしゅうな」
「はい。よろしくお願いします」
軽いモグに対して、サクはどこか敬意を込めた返事をしていた。
「お膳立てはできた。策はあるか?」
俺の問いに、サクは少し沈黙してから口を開いた。
「あります。先程までの一か八かではなく。かなり効果的だと思います」
サクの話を聞いた俺達はそれならばなんとかなるのではないかと思えた。
「よし、現実的になってきたな。早速作戦に取り掛かろう」
「よろしいのですか?これには彼らを信用する必要があります」
「まぁ最後はとっておきの一手があるから大丈夫だ」
「とっておきの一手?そんなものが」
「ああ、俺を信じろ」
サクに対して、常に俺は優位でいなければならない。彼女は俺の軍師であると同時に、敵になる可能性が一番高い人物なのだから。
「ヨハン殿、我々は先程のサク殿の話し通り動けばいいのだな?」
ハンチャは作戦を聞いて、本当にできるだろうかと不安そうにしていた。
「ああ、頼む。俺はドワーフの力を信じる。何よりお前達のゴルドナ大将を思う気持ちに賭ける」
「そこまで……それほどまでに頼られては断りきれませんな」
ハンチャは感極まって目が潤んでいた。内心チョロイ奴だとほくそ笑む。
「チョロイ思てはるやろ?」
そんな俺にモグが耳打ちしてくる。
「悪いか?」
「悪いのは悪いけどな。これも戦場の習わしや。仕方ないことやろう。やけどな笑うのはちと早いんとちゃいますか?」
「どういう意味だ?」
「案外あんさんも甘ちゃんかもしれへんな」
俺がハンチャのことを笑ったようにモグに笑われてしまう。
「まぁええわ。おら、一応はモモを人質に取られとるからな。あんさんらの動きに付きおうたる。だけどあのお方はそないに甘ないで」
モグはそれだけいうと、「ふん」と鼻息荒く。執務室を出て行った。
「大丈夫なのでしょうか?」
「わからん。だが、アイツは裏切らないような気がするんだ」
「根拠がおありですか?」
「いや、俺の勘だ」
モグラ男の背中を見送るとドワーフ達も足早にかけて行った。俺はサクともう少し話をまとめると、ガンツとミリーにも作戦の内容を伝えて実行に移る。
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