裏切りのハイエルフ
お休みをいただきありがとうございます。
風邪だったみたいです。熱がまだあるので、少し投稿が遅れがちになるかと思います。ご心配かけてしまいすみません。
今回は一応長めに書かせて頂きました。
リンに警戒を頼み、俺は広場に落としたドワーフへと近づく。ドワーフのオッサンは正気を取り戻したらしく。白目をむいていた目には青い瞳が戻り、白いガイゼル髭を撫でていた。頭も真白なため、高齢であることはうかがえるが、ドワーフの寿命というモノがわからないので、一体いくつなのやら。
「意識が戻りましたか?」
「うむ。まだ頭にモヤがかかった感じはあるが、自身の意志で身体が動いているのは理解できる」
「やはり、操られていたのですか?」
「操られていた?まぁそうなのるのかもしれんな」
「そうなるとはどういう意味でしょうか?」
「ワシが言えることは、ここの門を叩いていたのはワシの意志じゃということだ。それはアヤツの力でそうなったのかもしれんが、ワシに迷いはなかった」
ドワーフの言っていることはイマイチわからない。操られている者特有の感覚があるのだろうか。
「ここがガルガンディアであることは分かっていたのですか?」
「もちろんじゃ。ワシ等はアヤツに命令されてここまできたからの」
「アヤツとは?」
「ふん、青白い顔をしたハイエルフの女じゃよ」
ドワーフは怒った顔をしているが、ハイエルフのことを語るときには優しい声色をしていた。
「帝国の八魔将ですね」
「ふん、アヤツは八魔将と呼ばれるほど偉くはないわい。単なる小娘が虚勢を張っているに過ぎん」
ハイエルフは長寿族でもある。それに対してドワーフも長生きではあるが、エルフほどではないはずだ。小娘というぐらいだからこのドワーフも相当な長寿なのだろう。
「相手がどんな相手なのか教えてもらえないですか?」
「ふん、助けてもらった恩義もあるしな。よかろう」
裏切りのハイエルフと呼ばれる女性の話は意外なものだった。ドワーフはドワーフ族の族長であり、名前をゴルドナと名乗った。
元々ドワーフとエルフは仲が良くないそうだ。それは住む場所の違いや、考え方の違いなど様々な要因があるが、何よりもそりが合わないと言うのが本音らしい。鉄や木を加工し自然を利用するドワーフ族、性格は大雑把でガサツな者が多いらしい。に対して、性格は繊細で細やかな気配りのできるエルフは、森や自然を愛し破壊するドワーフを忌み嫌う。互いに思想が違いすぎるのだ。
そんな二つの種族も、共通の敵である帝国が攻めてきたことで力を合わせ、他の精霊族を仲間に引き入れ決起した。自らの住む場所を護るため、ドワーフが武器を造り、エルフが相手を惑わし、精霊族皆で抵抗を続けた。しかし、帝国は人数でそれを圧倒するだけでなく、それを率いる将軍達も強かった。ゴルドナも将軍の一人である巨人族と戦ったが逃げるのが精いっぱいだったという。
「ワシがケガを負ったのが悪かった。ワシのケガを見たアヤツが言い出したのだ」
怒りと悲しみを含んだゴルドナの声に、その時の沈痛な気持ちがうかがえる。
「アヤツは帝国に下ると言い出したのだ。ワシはもちろん反対した。他のエルフたちや精霊族も反対したが。劣勢に立たされたことで、王国に救援を求めたばかりで、すぐにどうにかできる状況ではなかった」
エルフの第一位王女のことを言っているのだろう。
「そして時は間に合わなんだ。最前線で戦っていたワシが倒れたことで、精霊族は総崩れになってしもうた」
軍とはそういうものだ。司令官が倒れただけで機能を失う。ゴルドナが精霊族にとって重要な大将であったことが分かるというものだ。
「では、ハイエルフは意にそぐわぬ形で帝国に加担したのですね」
「そうじゃが、それもどうかの~アヤツが帝国配下になることで、ワシ等精霊族の自治権は確保された。人身御供ではあるが、アヤツは天帝にあってからどこかおかしいような気がするがのぅ」
「すいません。話を変えさせて頂きますが、ところどころあなたは操られてからの記憶があるようですが、操られても記憶はあったのですか?」
「ふむ。ワシは元々操られてはおらんよ」
「それは!」
「それはこういうことじゃ!」
俺が驚き飛び退くのと、ゴルドナが鎚を振るうのは同時だった。俺の右足からグシャッと嫌な音がする。粉砕した骨にヒールをかけて何とか対処するが、俺でなければ死んでいた。
「今のを避けるとはなかなかやるのう小僧」
「いきなりのウイうちは卑怯では?」
「戦場に卑怯などということはない。まぁワシを助けようとして中に引き入れたお主を殺すのは忍びないがの。じゃからある程度の情報は話してやった。じゃがここからは別じゃ。ワシはここの大将を倒してガルガンディアを落とす。それがアヤツのためであり精霊族全ての為になる」
ゴルドナはワザとハイエルフの幻惑に操られていたのだ。自らの歯止めを外すために……
「して小僧、ここの大将は誰じゃ。大将だけを殺すとしよう。これは主への恩義であり、それで戦いは終わる。先程話したとおりじゃ」
ゴルドナは間違いなく歴戦の勇者である。体には無数の傷があり、鎚を振るう力も門を破壊するほど強力である。他の者に託せるほど甘い相手ではない。
「大将は俺だ……」
「ほう……主がのう……まぁそうじゃろうな」
ゴルドナの目付きが変わり殺気が放たれる。
威圧など生易しいものではない。向けられた殺意だけで人を殺せるのではないだろうかと思うほど恐ろしい。
「逃げぬか。なかなかやりおるな」
「逃げない。俺が逃げたら皆に被害がでる」
「ふむ。主にも背負ぬものがあるか、ならば決着をつけねばならぬな」
「ああ」
俺は斧を抜く。ゴルドナも鎚を肩に担ぎ直す。
「改めて名乗らせてもらう。ドワーフ族が族長ゴルドナ、推して参る」
「エリクドリア王国ガルガンディア地方領主、ヨハン・ガルガンディアだ」
「うむ。大層な名前ではないか」
「自分でもそう思う」
俺は自分の名乗りに苦笑いしながら、全身に魔法強化をかけていく。
「いくぞ」
「ああ」
ゴルドナは優しかった。合図と共に互いに駆ける。俺の両手斧とゴルドナの鎚が激突する。
「パワーもあるか!」
ドワーフを見たときにスキル覧から剛腕を入手した。剛腕は現在の攻撃力に駆ける十倍のパワーを追加する。さらに魔力強化を入手して全ての身体機能を二倍に向上させた。それでもゴルドナとの力比べは互角だった。
「化け物爺が!」
高齢にあるはずのドワーフは鎚を軽々と振りまわし、俺とパワーが互角だと分かると楽しそうに笑いながら大きく飛びのいた。
「ワシの攻撃を受け止められただけで主も十分化け物じゃよ」
「こっちは一杯一杯だ」
「くははは。それでよい。全力を出せぬ者は死ぬだけじゃ」
ゴルドナは大きく鎚を振り上げ、地面へと深々と突き刺した。アースクエイクと呼ばれる魔法で、地割れを起こすのだ。
「なっ!」
「ドワーフが魔法を使えんとでも思ったか」
地割れのせいでバランスを崩した俺に、大ジャンプで加速したゴルドナが鎚を振り下ろす。俺は咄嗟に雷を体に纏わせる。
「消えた!」
「こっちにも奥の手ぐらいある」
俺は体に電気を流すことで、反射神経を強制的に早くする。
ゴルドナの動きが止まったようになり、俺は躊躇なく斧を振り下ろす。
「ぐっ!」
ゴルドナも身を翻して、躱すが俺の斧の方が速い。剛腕で強化した斧がゴルドナの左腕を引き裂く。
「ゴルドナ殿、降参することをお勧めする」
「掠り傷を負わしたぐらいで勝った気か?」
左腕から大量に出血しているゴルドナは、それでも痛みなど感じていないように強がる。
「なら遠慮なく」
俺はゴルドナが動きについてこれてないことを悟り、スピード重視でゴルドナに傷を負わせていく。
「ちまちまと嫌らしい奴じゃな!」
雄叫びを上げるようにゴルドナが怒り声を上げる。
「あなたが知っているか分かりませんが、血液とはどんな生きモノでも命を支える大切な物です」
「だからなんじゃというのだ」
「小さな傷でも、血を流し過ぎれば意識も飛ぶ」
俺がそういうとゴルドナの体がグラリと傾く。
「毒か?」
「毒なんて使いません。それはあなたの体から必要な血液が奪われたからですよ。あなたの身体を支えられなくなってきたのでしょうね」
俺が説明している間にもゴルドナの顔が青白く変色していく。
「ワシは負けんぞ」
「あなたが強者で、ここが私に地の利があったから取った手です。あなたは敵陣に単身乗り込んだ。それが敗因でしたね。自分の強さに驕ってしまった」
「負けん、負けんぞ」
ゴルドナの様子が変わり、身体が赤くなり始める。
「もう何もさせません」
俺はサクの言葉を思い出した。爆発、魔力を一気に外に放つことで生じる爆発。ゴルドナはそれをしようとしていると直感的に頭が動いた。
「銀世界」
俺は一気に温度を下げてゴルドナを氷漬けにする。
「負けた戦いで敗北を認めず自決はダメですよ」
氷漬けのゴルドナに話しかけるが、応えることはなかった。
氷の中で白目を剥いたゴルドナを解放し、解放するように商人たちに頼んで、リンの下へ戻った。
いつも読んで頂きありがとうございます。




