狂人×魔人
王国の最果てに位置するシンドリアが存在を消した場所に、二人の人影が立っていた。
死んでしまった大地は空気も汚染しており、普通の人が立っていられるはずのない場所と成り果てた。しかし、汚染などまったく意に返さない二つの影が死した大地を見つめる。
「やはりつまらぬ結果になったな」
「そうですかね?私にはとても面白い見世物でしたが」
二人の内一人は、白い髪に青白い肌、赤い目をした魔人である。
もう一人はこの世界では珍しい黒髪に白衣を纏い、中には寄れたシャツとパンツを着たしまりのない中年オヤジだった。
「これほどの所業をつまらないと言ってしまうあなたの感性を疑いますよ。あなたが作り出すものは素晴らしいものばかりだ」
魔人が興奮気味に中年オヤジに詰め寄る。魔人も傍目には普通の人間と変わらない。むしろ顔が整った美少年と言ってもいい。しかし、纏う雰囲気が異常であり、また赤い目をしている者は等しく魔人として認識される。
「作ってしまえばつまらぬことだ。完成してしまえば、それには先がない。これほどつまらぬことはない」
中年オヤジの物言いに魔人は苦笑いを浮かべる。変人の考えることはわからない。
「我が父は誰もが認める変人であらせられる」
「ふん。それは褒め言葉か?」
「もちろんでございます。私を望むような体に変えてくれたのですから」
「ふん。恩義を感じるのであれば、もっと実験に付き合え」
「身体を切り刻まれるのは勘弁願いたいですね」
「不死者なのだ。問題あるまい?」
「不死者であろうと痛みは存在します」
「ふん、痛覚が残るなど失敗作めが?」
そういうと美少年の身体をべたべたと触りだす。青白い顔をした美少年と、無精髭を生やし白衣を着た中年オヤジという光景はなんとも、一部の女子が喜びそうな光景ではあるが、いかんせん中年オヤジは性欲を全く持っていない。また魔人である美少年も男よりも女性の柔肌の方が好きときている。
「痛覚があるほうが生きている感じが味わえるではありませんか」
「ふん。感情など余計なものが残ったのは無駄出しかないと思うがな。むしろ感情を持たず、暴れまわるだけの魔人になればよいものを」
美少年の身体を触るのを止めて、中年オヤジが辺りを見渡す。
「調査もこれで一通り終わりじゃな」
「態々私の進軍に付き合っていただいたのは実験のためだと思っていましたが、もうお帰りですか?」
「ふむ。お主の性能を見るのも悪くはないが、ワシも忙しいのだ。次の研究に取り掛からねばならぬからな」
「せっかちな方だ。だが、この私、ガルッパ・ベルリングを夜の魔人に変えてくれたのですからな。感謝していますよ。私はあなたの全てを許します」
魔人を生み出したのは、この冴えない中年オヤジなのだ。
中年オヤジの名前は、ゴウリという。魔導の研究者であり、また帝国内でも狂人と呼ばれる変わりものである。
しかし、彼が作り出した兵器は確実に相手を無力化して見せた。また彼が作り出した、あるアイテムによって人が魔人へと身体を変質させたのだ。
「ふん。貴様に許してもらわんでも、ワシはワシの自由にするだけだ」
白衣を翻し、男は死地の砂を袋に詰めて、その場から離れていった。すでに彼の頭の中には王国を攻撃したことも、ましてや魔人と会話していたことも頭の中にはない。
新たな実験材料が手に入ったことで、次なる研究へと頭をシフトしていた。
「傲慢な方だ」
魔人は死んだ大地のずっと向こうにある一つの目的地を見ていた。それは元々彼が住んでいた辺境の地であり、そしてこれから手に入れる土地である。
「兄さん、待っていてくださいね。あなたの血は誰よりもおいしいことでしょう」
不気味に笑うガルッパ・ベルリングは、そんな彼を見つめる者は誰もいない。彼の配下はすでに西から入り、王国へと進軍を開始している。命令など不要な不死者達に果たして、王国はどう対処するのか、魔人にはそんなことどうでもよかった。
♢
死地から土を持ち帰ったゴウリは、そこから新たな生命を誕生させる。それは吸血鬼のような不死者や、アラクネのような魔族化ではない。
まったくの生命が宿っていない物から、生命を宿した者を作ったのだ。
「くくく。まだまだ研究段階ではあるが、良きものができた」
何かの液体と混ざりあった泥の塊は、人間の女性へと形を整えていく。
生命を得たことで、泥は主が望む形を、とろうとしているのだ。
「まだまだ見苦しいが、こやつがどんな働きをするのか今から楽しみで仕方ないな」
狂人は壊れたように笑いだす。
「実験場はいくらでもある。これだから戦争はやめられん」
狂人は戦争を、ただの実験場ぐらいにしか思っていなかった。
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