八魔将
本日より第四章始まりです
帝国からの宣戦布告が行われたことにより、王国は慌ただしくなっていた。主戦場となるであろう共和国方面には兵の配置が行われ、三つの砦にはそれぞれの王国側から作戦が伝えられた。
すでに第一の砦には第二軍将軍が、第二砦にはセリーヌ、マルゲリータの姉妹が滞在し一万以上の兵を引き連れているとも情報は来ている。
「現状の確認からしていきましょうか?」
しかし、王国からガルガンディア方面に派遣されたのはたった二千の増援だけだった。二千の内訳としては、第一軍より五百、第三軍より一千五百ということだった。
第一軍の指揮を執るのはガンツと呼ばれる志願兵になるときに受付をしてくれた男だった。ゴツイ顔と体が印象的で、第一軍で騎士として活躍している人物だが、ガルガンディアに飛ばされたことでも分かると思うが弱小貴族からの叩き上げだ。
ガンツ以外の第一軍は王都守護の任を預かっているらしい。他の領地では領主たちが慌ただしく私兵をかき集めているとも耳にしている。
第三軍から派遣されてきたメンバーは見慣れた顔ぶれだった。共和国との戦いで、それぞれが五百人隊の隊長となった、ミリー、ガーナ、マリルの三人だった。王国からはまだ、増援を送ると連絡を受けてはいるが、いつ到着するのは不明だ。
作戦会議室となった謁見の間には、ガルガンディアの主要メンバーとなったゴブリン達やオークなどの亜人に始まり、ヨルダン率いる鳥人族、ミリーたちの王国軍など様々な人種が集まっている。
「サク、頼む」
「はっ!」
帝国との戦争が始まれば、セリーヌの下に帰ると思っていたサクは、今もガルガンディアに滞在している。そのためセリーヌからまだ何か仕掛けてくるのではないだろうかと警戒を緩めることもできない。サク自身も何を考えているのか未だにわからない。
「まず敵の戦力について説明させていただきます。帝国が兵を割ける人口は約一千万。それに対して王国は百万ほどの兵力しかありません。実際の数だけで数だけで十倍はいます。また、一千万の帝国兵を指揮する優秀な将軍が揃っています。彼等将軍のことを総称して八魔将と呼ばれています。彼等には特に警戒が必要だと考えられます」
「八魔将?」
俺は聞いたことない単語にサクへ質問を返した。
「はい。八魔将です。本来は四天魔と呼ばれる四人の将軍達だったのですが、共和国を滅ぼした際に四人追加され八魔将となりました。すでに新鋭将軍達の情報も耳にしています」
「できる限りの情報を頼む」
「はい」
サクの説明によると八魔将とは、帝国が誇る将軍達であり、それぞれが軍隊を持っているという。また、一人一人で戦っても一騎当千の力を持ち、指揮を執っても優秀な者達であるという。
元々帝国を支えてきた四天魔
・帝国の守護を任され八魔将筆頭を務める帝国の盾、龍に跨千里をかける竜騎士
・魔導師団の団長を務め、帝国の知恵と呼ばれる宰相と軍師を兼任する死霊王
・帝国の矛であり、巨人族の精鋭を従える怪力無双の巨人族の王。
・魔導研究に明け暮れ、自身の作り出したキメラに囲まれている狂人
新鋭八魔将
・決まった軍隊は持たないが、その場にいる者を操ることができる魔人
・共和国を裏切り、自身の種族を売り渡したことで将軍となった裏切りのハイエルフ
・傭兵から帝国の騎士と成り上がり、共和国の傭兵たちを従えた黒き鎧に身を包んだ黒騎士
・信者を引き連れ自らを教祖とした軍団を率いる、魔物を従える力を持つ闇法師
八魔将の説明を終えたサクは集まったメンバーを見わたし、俺を最後に見る。
「それで?王国からはどんな命令がきているんだ?」
圧倒的なまでの帝国の戦力に対して俺はサクではなく。援軍の中で一番位の高いガンツに質問を投げかけた。
「王国からは死守せよとだけ聞いている」
ガンツは王国からの言葉を伝え、自身もそれがどういう意味を成しているのかわかっている。
それは時間を稼いで死ねと言っているのだ。何の策もない。丸投げ状態だ。
「そうですか……」
俺の言葉にガンツはそれ以上言葉を続けなかった。
「まずはここまで来て頂けたこと感謝する。兵の疲労もあることだろう。ガルガンディアは皆さんを受け入れるのには十分な広さがある。ガンツ殿は西へ、ミリー殿達は東の部屋を使ってください」
建物の案内をゴブリン達に任せ、俺は会議の解散を告げた。
兵達を労うように部屋を貸し与え、リンの家族とウィッチ達には食事の用意を頼んでいる。
彼等だけでは人でが足りないので、ゴブリンの中から手伝いが出来そうな器用な物を派遣している。
「サク、ガルガンディアが防衛できる期間はどれくらいだ?」
「敵の規模にもよりますが、一週間が良いところだと思います。全ゴブリンにはすでにガルガンディアに入るように告げてあります。オークたちも一年で三人から五十人まで増えましたから防衛には役立ちます」
「そうか……一週間か」
サクの言葉で俺は敵の影を見つめるように外を見る。外は日が落ちて、暗雲が立ちこめているように闇が広がっていた。
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