閑話 エルフの王女とランス
王国領内の演習場の一つである。第十七演習場にて、訓練をしていた二つの部隊があった。
共和国との戦争で活躍を認められ、名誉騎士という称号を得て貴族に仲間入りした二人の青年が指揮を執る、第一騎士団第二十四中隊が訓練をしていた。
「なぁ、ランス。共和国との戦争も一年が経つけど、なんにも起きないな」
「それが一番じゃないか、ルッツだって戦いたいわけじゃないだろ?」
「そりゃ~戦争なんて無い方がいいけどさ。それでも俺達は騎士だぜ。騎士の務めっていたったら戦いだろ?」
二人は共和国との戦争で多くの村を救い。多くの人を救った。
それは王国の勝利をもたらした第二軍の働きを支え、王国の威信を守り抜いた。
「なら、俺が相手してやるからかかってこいよ」
「はぁ~お前も訓練バカだね」
そう言いながらも両手に剣を持ち、ランスに相対する姿を見れば、どっちも同じだろうと部下たちは笑ってしまう。
彼らも名誉騎士となり、平民の部下を持つようになった。二部隊合わせることで中隊と言えるが、まだまだこれからの成長が期待される。二部隊の隊長たちが剣を交えていると、演習場に闖入者が現れた。
金色の髪と白い肌をした美しき闖入者はエルフの女性だった。
「た、す、けて」
女性はボロボロの体と、弱り切った声で、剣を交えていた二人に近づこうとしていた。二人は緊急停止して、女性の前で動きを止める。
女性は力尽きるように、ランスの腕の中へと倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?」
「助けてください!」
女性はランスの声で起き上がり、ランスの胸に飛び込む勢いで叫んだ。
「助けてって何から?」
ランスが応えるよりも前に、ルッツが周囲を見ながら質問する。
「誰かに追われているわけではありません。エルフ族をエルフ族を助けてほしいのです。あの魔王から!」
沈痛な顔で、女性はランスの胸の中へ抱き着いた。抱き着き、何度も願うように助けを求めた。
「助けて……」
喉が枯れ、泣き腫らした瞳は、彼女の必死さが伝わってくる。ランスは助けを求める彼女の手を手放すことができなかった。
「何から君を救えばいいんだ?」
ランスの問いかけに女性は顔を上げる。女性の態度に呆然としていた部下や、周囲を見ていたルッツが、ランスの発言に驚いた顔をする。
「助けて……くれるのですか……?」
「何から救えばいいか教えてくれないか?」
ランスは女性の助けを求める手を掴んだ。
「ありがとう」
女性は帝国との戦いを語った。ここにヨハンがいたなら彼女見捨てるようにランスに言ったかもしれない。しかし、ランスの答えは、一つしかなかった。女性を連れ、王城へと赴いた。
王城には、第一軍の司令室があり、そこには王国軍最高司令長官でもある元帥がいる。ランスは直々に元帥の下を訪れ、女性の話をした。
時を同じくして王国に帝国からの宣戦布告が成されていた。それはエルフの一族が絶体絶命であり、ドワーフ一族が敗北したことを王国に知らせるには十分だった。
「極秘任務を与える」
王様から話を聞いていた元帥が出した答えは、ランスがエルフ一族を救出するというものだった。ランスの働き一つで、エルフの今後が決まる。また、王国から出される手立てはそれだけだった。王国も帝国の脅威に対して、攻めて来るとわかっている状況で、態々滅びを迎えそうなエルフを救えるほどの兵は出せないのだ。
「謹んでお受けします」
ランスは元帥の命令を嬉々として受けた。それは、身近らが危険にされされることもいとわない勇者の心構えであった。
ランスの勇気にルッツも感化され、共に赴いてくれることになった。ランスとルッツの二部隊により、エルフ一族の明暗を委ねられた。
「ランス、本当によかったのですか?」
エルフ族の里までの案内のため、共に歩く女性は申し訳なさと、心許ない兵力に不安を抱えていた。
すでに名乗りあったことで、彼女の名前がシェリルだと聞いていた。
「必ずあなたの一族を救って見せます」
数々の苦難を乗り越えたランスは、美人と話すことも克服しつつあった。
「あなたを信じます」
シェリルは潤んだ瞳でランスを見つめ、それに耐えらないないランスは顔を反らし天を仰ぐ。
「シェリルのために……」
ランスの言葉にシェリルはランスの胸に飛び込んだ。
「ありがとう」
騎士は王女を守り、彼女の一族を救った。
救われたエルフ達は森を求め、新たな住みかとしてガルガンディアの森に住むことになった。
ヨハンが築いたガルガンディアに新たな市民が増えたのだった。
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