出陣式
ランスに起こされるよりも早く目が覚めた。すでに装備の確認を終えた俺は気持ちが高ぶっていた。
「用意できたか?」
「いつでもいいぜ」
ランスも俺と同じように高ぶっているらしい。
万全の装備を整えて、何度もトイレと顔を洗いに行っている。
「そろそろ行こうぜ」
「そうだな。俺達の栄光は今日から始まるんだ」
「おうよ」
ランスと共に宿を出る。
兵士の宿舎に行くと、大勢の騎士と兵士が並んでいた。俺達も隊列に加わり時を待つ。
その隊列の前に銀色の鎧に身を包んだ金髪の美女が現れる。この国の王女であり、この第三軍の将軍を勤める。ミリューゼ様が壇上の上に立つ。
「志願し集まってくれた者よ。感謝する」
ミリューゼ様は、最初に志願兵に礼を述べた。
それだけで志願した者達は高揚し、士気が跳ね上がる。
「次にこの国のため戦ってくれる騎士達よ。私と共に戦ってくれること誇りに思う」
次に騎士達に向き、王女様から誇りと言われて、奮起しない騎士はいないだろう。
「今、この国は他国からの侵略により侵されようとしている。そんなこと誰が許せるものか、どうか我と共に脅威を退ける剣となってくれ」
ミリューゼ様の言葉に兵士たちが雄叫びを上げる。
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」
「いくぞー!出陣!」
ミリューゼ様の透き通る声が、出陣を宣言する。
先頭をミリューゼ様が白馬に乗って歩んでいく。その後ろを煌びやかな鎧を纏った騎士達が続く。それを歩兵である志願兵が二列になって、街を練り歩くのだ。
パレードのように街の中には歓声が上がり、一目姫将軍を見ようと人が集まり、俺が見られているわけでもないのに、見られているのは気持ちいい。
「なぁ、俺達ってかっこいいよな」
隣で歩くランスも同じように感じているようだ。
「ああ。頑張ろうぜ」
国のことなど考えてもいなかった。
それでもこうやって送り出されるのは気持ちがいい。頑張ろうという気持ちになれる。
「ヨハンさん!いってらっしゃい。私待ってますから」
アリスが出迎えに来てくれたらしい。ピンクの髪を揺らし必死に手を振ってくれている。
「おいおい、どこの子だよ」
「図書館の司書さんだ」
「ああ」
ランスは妙な風に納得したらしい。
「別に彼女を目的で通ってたわけじゃないぞ」
「はいはい」
「お前だって王女様に見惚れてたくせに」
「そっ、それは、あれだ。憧れ的な奴だ」
ランスに一矢報いたところで、図書館に通っていた成果は、戦場で見せればいいかと、それ以上追及しなかった。
「いよいよだな」
門が見えて来た。ミリューゼ様が出陣していく。
俺達もそれに習い、門を潜れば後は戦場へ赴くだけだ。
行軍は三日かかった。
三日の距離で行けてしまう場所で戦闘をしていると思えば近いのかもしれないが、元々隣国である共和国に行くのに五日で行けてしまうのだ。
三日と言えば、まだ共和国よりだろう。
「作戦は頭に入ってるか?」
先程大隊長が、末端の兵にまで作戦を知らせに来た。
現在先遣隊として戦っている第一軍が膠着状態にあるらしい。そのためミリューゼ様の軍は横っ面を叩き、戦場を膠着状態から優勢なモノに変えるという作戦だ。
「おうよ。俺達は横から、モンスター隊を討つんだろう」
共和国は、魔物を使役しているのだ。
共和国自体は小さな国だが、魔物を使役していることで兵の数を増やしている。
「そういうことだ。そこで指揮官でも倒せれば正規兵に取り立てもらえるってわけだ」
そうなのだ。ランスはここで敵の指揮官を倒すことで正規兵士へ取り立てもらえる。
「じゃあ、二人で大活躍と行きますか」
俺達は陽気にそんなことを言っているが、周りの雰囲気は重苦しく、同じ志願してやってきた若者たちは暗く沈んだ表情をしている。
彼らも何度が戦争を経験しているのだろう。
だからこそ、戦争を知らない俺達とは雰囲気が違うと思っていた。
戦場を目の前にして、そいつらの思いが分かった気がする。
丘の上から見る戦場は血と、砂煙と、死に包まれていた。大地には無数のモンスターや人の死体が野ざらしに放置されており、咽かえるような匂いに吐き気がする。
「こんなところに飛び込むのか」
俺は正直ビビった。
「なんだヨハン、ビビったのか?」
ランスの膝も震えていた。それでも茶化してくるこいつは大物だと思った。
「誰がビビってんだよ。お前の方こそビビってんじゃねぇか?」
「ああ、ビビってるよ。何が悪い」
ランスは正直だった。見栄を張った俺が恥ずかしくなる。
「それでも行かなくちゃな。俺達は騎士になるためにここにいるんだ。こういうところで活躍しなくてどこで活躍するんだ」
ランスの言葉にヨハンの心が奮い立つ。
「いくぞー!!!」
ミリューゼ様の号令が背中を押す。
騎士が駆け降り、それにつられるように志願兵たちも走り出す。
「いくぞ」
「おう」
俺もランスと共に戦場を翔る。手は震え、息が詰まる。こんなところに居たくない。それでもやらなくちゃ生きて行けないんだ。
俺は、ヨハンなんだ。
「死ねぇ」
敵の兵が迫り、俺は必死に斧を振るう。
斧は眩い閃光に放ち、敵を切り裂いた。
「うん?今のは!閃きか?」
閃き、戦闘中に技を思いつくこと。
今のスラッシュと呼ばれる技で、どの武器でも最初に覚える技だ。
「凄いじゃん」
「お前もできるだろ」
「まぁな」
俺が敵を倒したことで、ランスに余裕が出てきた。ランスもスキルでスラッシュを使い、敵を倒していく。二人で背中を預け合い、戦場を駆け抜ける。
俺達は強い。他の志願兵よりも冒険者として鍛えてきた実績が敵兵のモンスター達をなぎ倒す。
「ぐっ!」
ランスが敵の攻撃を受けた。
「大丈夫か」
「こんなの平気だ」
「バカ、化膿したらどうするんだ。ヒール」
「お前……そんな魔法どうやって覚えたんだ?」
「図書館の成果だ」
本当は図書館は関係ないが、その方が説明しやすい。
「俺も行こうかな図書館……」
「アリスさんはやらんぞ」
バカな軽口を叩きながらも、敵を倒し、二人で互いを補いながら戦い続ける。
「なんだ貴様らは!」
俺達はいつの間にか敵の中枢に来ていたらしい。
指揮官らしき男が、俺達二人を怒鳴りつける。
「どうやら、俺達いい感じらしいな」
「だな」
俺の言葉にランスもニヤリと笑う。
「「死ね~~」」
俺とランスの声が重なり、指揮官へ二人の武器が振り下ろされる。
「おっと、そうはいかないぜ」
そんな二人の攻撃を大剣で受け止めた奴がいた。相手は漆黒の鎧に身を包んだ騎士だった。
「黒騎士殿」
「指揮官殿、これは一つ貸しだぜ」
「かたじけない」
指揮官が黒騎士を置いて逃げていく。
「ランスっ!追え!」
「でも、こいつはお前一人じゃ」
「いいから行け!」
「わかった」
俺の怒声にランスが走り出す。
「おっと、行かせないぜ」
黒騎士が邪魔してくるのはお見通しだ。俺はウォーターカッターで黒騎士を攻撃する。俺の魔法にランスも驚いていたが、上手く黒騎士を抜けたらしい。
「魔法も使える兵士か、面白いな」
黒騎士が俺を見て笑う。
あまりの威圧にちょっとチビった。
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