名乗り
少し短めです。
鳥人族に早朝という意識はなかった。奴隷という身分から必死で逃げてきたのだ。夜通し歩き続けてガルガンディアまでやってきときには夜が明けていた。大部屋を貸し与え、休みように言うとほとんどの者が眠りに就いた。
数人の見張りと、タカの顔をした鳥人だけは寝ることができずに大部屋の前で座っていた。
リンの両親に頼んで500人ほどの料理の用意もしてもらう。リンの兄弟姉妹たちが手伝ってくれるので、人出は十分に足りているようだ。ガルガンディアの厨房は料理と人であふれていた。
「人数が増えると活気が増したな」
「どうして、素直に受け入れたのですか?」
俺が厨房をのぞいていると、サクがそんなことを質問してきた。
「故郷に帰ってきたのに、戦わなければならないほど辛いことはないだろ?」
「……ここはすでに王国領です」
「そうだな。でも、彼らの故郷でもある」
「あなたは本当に15歳とは思えない人ですね」
今更年齢のことを言われてキョトンとしてしまう。精神年齢は元々15歳ではないのだ。今更15歳と言われても困ってしまう。
「そうかな。まぁたくさん本を読んでいるからな」
「本を読んでいるだけで、そこまでの気遣いが身に付くとは思えませんが」
サクが何を言いたいのか、何となく分かるが、態々自分から墓穴を掘る意味はない。
「そんなことよりも彼らとの交渉をどうするか考えてくれたか?」
「相手の出方次第ですが、いくつか考えました」
「そうか、サクも朝から起きているんだ。今日はゆっくり休め。話し合いは明日だ」
「はっ」
サクは俺から離れると部屋の方へと歩いて行った。鳥人達が目を覚ましたと聞いたので、リンやウィッチ達が料理を運んでいく。腹を満たし、十分に休んでから話し合いをする。腹が減ってイライラした状態で話をしても良い答えなど出るはずがない。
「さて、俺も今日の仕事終えて、早々に休むか」
シェーラは森の警戒のために、すでにガルガンディア要塞から出て行った。
チンにも警戒を解くように言っているので、カンはセリーヌ領地の監視に着いたままだ。
逆にトンの領地には共和国から鳥人族への追っ手がかかっていないか警戒を強めるように言ってある。
「少しいいだろうか?」
俺が執務室に戻ると、タカの顔をした鳥人が入ってきた。
「ああ、あんた達は客人だが、遠慮することはない」
「すまない」
先程までのギスギスした雰囲気ではなく。礼儀正しい青年と言ったこところだ。
「いや。それでどうしたんだ?」
「まずは、礼を言わせてくれ。我が一族の者を受け入れてくれたこと感謝する。女、子供には随分とキツイ強行軍だった。ガルガンディアを見た瞬間、安堵したものの、敵対行動をとられていたら正直きつかった」
「それについても同じだな。傷付く者が少ないと考えての行動だ。気にすることはない」
死に物狂いで攻め立てられれば被害が出ないとは言えない。
「うむ。それと名乗っていなかった非礼を詫びたい。私はガルーダ族が戦士ヨルダンだ」
「俺は名乗ったからいいか?」
「ああ、相手の名乗りを聞いたのに名乗っていなかったこちらが無礼であった」
軍人の礼儀正しさと戦士の誇りがヨルダンという男を作っているように思えた。
「いや。ちゃんと名乗ってもらったからいいさ。それにこのガルガンディアに余裕があったから受け入れることができた。もし、余裕が無ければ俺達も死に物狂いで戦っていただろうしな」
俺の言葉にヨルダンが胸の前に片手を上げる。握手を求められ、俺もそれに応じる。
「明日の話し合いがどのような者になるかわからないが、有意義であることを私は望む」
「そうだな。それが互いのために成ればいいな」
俺の言葉にヨルダンは頷き、部屋を出て行った。
「固い奴だな」
俺は真面目なヨルダンに苦笑いしながら、明日の話し合いについて考えていた。
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