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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
地方開拓をやってみよう
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風呂は話をするには丁度いい。

 サクの訪問を終えて、疲れた脳みそを癒すために、風呂に入る。

ガルガンディア要塞には元々大きな風呂が備え付けられていた。俺は独占するのではなく、銭湯として僅かな金銭を貰うことで一般に開放している。


 風呂に入る習慣のないこの国の人間は週に数回しか風呂に入らない。

何より、夜に入るのではなく。仕事を終える夕方ぐらいに日が完全に暮れたこの時間には誰もいない貸切だ。


 24時間風呂に入ることができるのも、管理が行き届いているからだ。

管理はトン、チン、カンが連れてきた新しいゴブリン達に任せている。彼らにも仕事が必要なのだ。 

空いた時間に清掃と湯の確認をしてもらい、昼は畑つくりをしてもらっているのだ。

 いくら食料に余裕があろうと、先の事を考えるなら畑は必要なのだ。


「策謀に計略か、戦場じゃなくても色々考えるもんだな。まぁ俺も来年までにある程度形は作っておかないとな」


 俺はこの先もゲームのシナリオとして知っている。帝国が攻めて来るのは共和国が滅んでから丁度一年後だ。

 そこで生き残るために、この砦を修復し住民を増やすことで私兵を作り上げる。


「来年に何かあるの?」

「ああ、多分帝国が攻めてくる」

「本当に?」

「ああ。俺は知ってるんだ……うん?」


 俺は貸切の筈の風呂で誰と会話をしてるのか……声のする方に目を向ければシェーラがいた。10歳ぐらいの少女が裸で俺の横にいる。


「何をしてるんだ?」

「お風呂に入ってる」


 俺だって精神は大人なのだ。絶世の美を持っていたとしても10歳の少女に欲情はしない。

決して胸を確認してツルペタだとか、白い肌がモチモチしてそうなのに赤みを帯びて綺麗だとか考えていない。


「そうか、ここは混浴じゃないから女風呂にいけよ」

「こんな時間誰もいない。どっちでも同じでしょ」

「違う。実際俺が入ってる」

「ご主人はご主人だから裸を見られてもいいじゃない」


 シェーラにはどうやら俺は男性ではないらしい。もしかして10歳の少女には羞恥心がないのだろうか。


「恥ずかしくはないのか?」

「恥ずかしい……けど仕方ない」


 どうやら羞恥心はあるらしい。


「恥ずかしいなら出て行けよ」

「無理、ここでしかできない話がある」

「うん?話?」

「そう。ご主人は他の人とどこか違う。普通の人族ではない。普通の魔法使いではない。普通の貴族ではない。普通のご主人ではない」


 俺はもしかしたら貶されているのだろう。


「お前の気持ちはよくわかった。お前は俺が嫌いなのか?」

「違う。そんな他の人と違うご主人だからお願いがある」

「お願い?」

「そう、私の全てを上げるから、エルフ族を助けてほしい」


 俺はシェーラの言葉に、記憶が蘇る。『エルフ族を助けてほしい』それは本編の主人公でありランスが消化するべきイベントなのだ。

 どうしてそのイベントが折れに転がり込んできたのか、それは多分俺がエルフの少女を助けてしまったからなのだろう。


「エルフ族?」

「私達は今危機にある。帝国の魔手が我々の森に伸びようとしている」


 そう、これは本来一年後に起こるべきイベントであり、王国と帝国が戦争を仕掛ける口実になるのだ。エルフの王女が王国へ助けを求めにくるのだ。王国は秘密裏にエルフ族を助けるためにランスを遣わす。


「シェーラ……お前はエルフの王族か?」

「……そう、私はエルフの王が娘、第三王女シェーラ・シルフェネス」


 俺は知らぬうちに厄介事を招き入れていた。


「断る」

「どうして?ここには森がある。そしてあなたは領主として変わっているから私達の自由を奪わない。私はあなたのような人を探していた」


 俺の否定にもめげることなく、シェーラは必死に訴える。


「ハァ~お前はバカか?」


 賢いと思っていたが、どうやら大人びようと頑張っていただけのようだ。


「いいか、もしも相手に何かをしてほしいなら、それに見合う対価を示すものだ」

「だから、私を……」

「価値はない!10歳の少女に価値はない」


 俺は必死に頭を振って否定する。

もちろん、これから未来を見据えればシェーラは物凄い可能性があることは理解できる。

 しかし、俺は光源氏ではない。子供を育てて嫁にする趣味はない。


「む~私は可愛い」


 湯船に顔を付けながら、シェーラがブ~垂れている。それでも俺の心は折れない。


「確かにお前は可愛いかもしれない。しかし、俺はロリコンじゃない」

「む~」

「それにな、時期を待て」


 俺は湯船に顔を付けてのぼせそうなシェーラに、仕方がないなと忠告してやる。


「時期?」

「そうだ。エルフ族は助かる。だが今じゃない」

「私達が助かる?」

「そうだ。お前は言ったな、帝国の魔の手と。そこから救い出すには俺一人の力じゃ足りない。王国が動かないと本当に救えはしない」


 俺の言葉を理解しようと、シェーラは湯船から顔を上げて考え込む。


「シェーラ、焦るな。まずはここで力をつけろ。一年後必ずエルフたちを救ってやる。今は俺もお前も力を、そして地盤を固める方が先決なんだ」


 俺が言葉を重ねると、シェーラは賢い頭を整理しているのだろう。

少女とは思えない悩ましい表情で、苦悩している。


「わかった……でも一年は待てない……帝国は今もエルフの森を攻略している」

「だったら、お前がこの地にエルフが住める場所を作ってやれ。エルフたちがこちらに来ても困らないように、それが出来たら助けに行こう」


 俺が動いたことで王国が動いてくれるかわからない。

シェーラの言葉を最後まで突っぱねることはできない。


「ありがとう」

「まだだだシェーラ。もう一つお前はやらないといけないことがある」

「夜伽?」

「違う!なんでそういう話になるんだ。お前にはエルフの森に住んでいる兄妹達に手紙を書いてもらう」

「手紙……」

「そうだ。ここで待っているから王国に助けを求めろと」

「わかった……書いてみる」


 俺は今できることを提案してやり、あとは相手次第だ。

シェーラのために仕事は増えたが、まぁこの世界に来た時点でやらなければならないことだと思えば割り切れる。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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