奴隷の力
久しぶりの夜投稿です。
森に入る少し前、開けた草原にはこちらを囲うように盗賊達が、30人ほど集まっていた。
もしかしたら隠れている者もいるかもしれないが、この程度ならば問題ないだろう。
奴隷たちの力を見る意味でも、丁度いい人数かもしれない。
「リン、全員に補助魔法」
「はい」
「ゴブリンは隊列を組んで三人一組で、オークは二人が前に、一人はウィッチの護衛。ウィッチ達は炎以外の魔法で敵を撃て」
ゴブリン達は名前が無いというので、トン、チン、カンと名付けた。
オークには名前があり、バイド、ギン、グーゴと名乗った。ウィッチ達にも名前があり、ブルー、レッド、グリーンというらしい。
それでもまとめて呼ぶときは種族でまとめる。奴隷たちに向けて指示を飛ばすにはその方が楽なのだ。この状況では、エリア魔法で全てを倒すこともできる。でも、今回はそれぞれがどれほど使えるのかを確かめたい。
「ご主人、私は?」
「シェーラは切り札だ。精霊魔法は使えるか?」
「使える。でも弓の方が得意」
「なら、まずは弓で援護してやってくれ。危なくなったら精霊魔法を使え」
「わかった」
全員が俺の指示に従って動き始める。30人近い盗賊たちも、訓練された兵士のように隊列を組みはずめた。ドドンの、手の者で間違いないだろう。傭兵か私兵を盗賊の格好をさせたといったところか。
「かかれ!!!」
盗賊の親玉らしき奴が号令を上げたので、俺も攻撃を開始する。
「ウィッチ、一斉に放て!」
彼女達が選んだのは石礫であるストーンエッジだ。大量の石が雨のように盗賊に襲い掛かる。運の悪い者は頭に直撃してそのまま永眠だ。一人か二人しかそんな効果は得られないが、目暗ましにはなる。盾や兜をしている者たちは礫を防ぎならが進むことになるのだ。
「オーク、今だ」
オークには鉄棒を持たせている。二対のオークが同時に振ることで迫ってきた相手を吹き飛ばす。俺は残った盾を持った奴らにサンダーをお見舞いする。開いた空間にゴブリン達に渡したショートボウを一斉に放つ。
「ゴブリン、シェーラ。弓を」
30人いた盗賊も半分ぐらいになり、やっと俺達がどういう相手かわかったようだ。警戒を強め、草むらに隠れていたであろう弓兵が現れる。放たれた弓はトンの肩に命中した。俺はすぐにヒールをかけてトンを回復する。
「ここからが本番だ」
俺の言葉に気持ちを引き締めたメンバーが構えなおす。リンが肉体強化と速度アップの補助魔法をオークとゴブリンにかけ終えて、ウィッチ達に合流する。ウィッチの指示はリンに任せ、俺は斧を抜く。
「オーク、ゴブリン、ついてこい」
盗賊へと突撃をかける。シェーラには援護を頼んだ。
俺は一直線に親玉の男を目指して草原を走る。雑魚はオークやゴブリンに相手をさせればいい。一対一では不利でも、ゴブリン達は三人一対、オークは二体一対だ。現れた弓兵にはシェーラとリンが対応してくれる。俺は堂々と親玉に向かう。
「舐めるなよ。ガキが俺に勝てると思っているのか」
親玉は、腕に自信があるらしく。シャムールと呼ばれる曲刀を抜いて待ち構える。しかし、待ち構えたことが悪手になるなど誰も考えないだろう。俺は全身に雷を走らせる。体内を走る神経線維の活動インパルスが加速する。反応速度が上がることで、指揮官が腕を振るう前に閃く。身体を断ち切る瞬間、身体を一刀両断する。
「こんなタイミングで思いつくなんてあんたも運がないね」
「なっ!」
指揮官は気付いたときには体が真っ二つに分かれていた。
「終わりだな」
振り返れば、傷付きながらも戦闘を終えた仲間達が立っていた。
奴隷たちは十分に役に立つ。俺にとって初めての私兵を手に入れたのだ。
「リン!馬車の調子を」
「はい」
「怪我した奴は俺のところに来い。たしたことない奴は死体を集めて燃やしてくれ」
30人近くの死体をこんなところに放置すれば、モンスターたちが無駄に集まってくる。
俺の領地ではないが、他人に迷惑をかけていいはずがない。もちろん証拠隠滅も兼ねて一人も逃がしていない。そのために最後は前に出たのだから。
「さぁて、後始末は終わったな」
「主人は惨いのね」
俺が全ての方を付けて、馬車に戻るとシェーラがそんなことを行ってきた。
「惨い?」
「だって、いくら報復で送られてきたからって全滅させなくてもいいんじゃないの?」
この妖艶な幼女エルフは、どうやらその雰囲気と賢さをもってしても世界と言うものを知らないらしい。もちろん元の世界で暮らしていた俺だって殺しなどしたくない。
だが、そんな綺麗ごとだけで、生きて行けるほどこの世界は甘くないのだ。
知能が3だったヨハンだってそれぐらいのことは知っていた。そして、ヨハンの記憶があったから、俺も嫌悪感を薄めることができた。
「報復だっととしても、それを許せば舐められる。ドドンが怒りに任せて傭兵を差し向けた。俺達の命を奪いに来たってことだ。なら、ドドンにも命をかけさせる。それが俺のやり方だ。そのためには一人として許さない。ドドンの手の者はな」
俺に垂れかかっていたシェーラは姿勢を正す。
「恐い人……でも……あなたなら……」
シェーラは独り言を呟くように考え始めた。俺はそんなシェーラをほったらかして、外を見る。
外は日が暮れ始め、夕暮れに照らされたガルガンディアの砦が見えてくる。新しい我が家に歓迎されているようで嬉しくなる。
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