リンの両親
奴隷商館を出た俺達は12人なったことで、列を作って歩いた。
戦闘はもちろん俺で、隣にはヤコンがいる。
彼らを振り返ればエルフの少女以外は俺を主人として従ってくれるらしく、反抗的な目をしているものはいない。彼等を奴隷から解放してもいいのだが、これから領主を務める地方にも人はいる。何よりあれだけの交渉をして、逃げられたら間抜けさを露見するだけなので、ヤコンにやめた方がいいと釘を刺された。
反抗的だったエルフの少女も今は大人しくついてきてくれている。
「これからは、ああいうことは控えてくださいね」
「悪かったよ。なんだかあのドドンを見てると腹が立ってきて」
「わかりますが、私にも商人として横のつながりがあります。何よりドドンは商人ギルドでも力を持っている方ですから、報復に気を付けてください」
「そういうこともあるかな?」
「あるでしょうね。商人にもプライドがありますから、何より奴隷は主人が死ねば、その時に傍に居た者の物になりますから」
ヤコンの忠告に頷きつつ、連れて歩く奴隷たちを見る。
異種族をぞろぞろと連れて歩くと言うのも注目を集めつてしまうだろう。
「ヤコンのところで今日一日預かってくれないか?」
「それは構いませんが、どうされるおつもりで?」
「馬車と食料を買って今日中に立つよ」
「急きますね。10人以上が乗れる馬車となると大変だ」
「ヤコンのとこにある物を使わせてもらえればありがたい。早く出るのは、ドドンのこともあるからな。それにリンに怒られるのは馬車の中の方がマシだろ」
「ははは。さすがの新鋭貴族様も従者が恐いですか」
ヤコンに奴隷たちを頼み、俺はリンを探しに行く。
馬車と食料に関してもヤコンが用意してくれると言うことなので、支払いを済ませ、あとはリンに話をつければ問題ないだろう。
ついでに、ヤコンには奴隷たちを風呂に入れるのと、衣類を綺麗にしてもうように頼んでおいた。奴隷たちの自己紹介も終わっていないが、今は急いで行動した方がいいだろう。
リンは実家に行っていると言っていたので、リンの実家がある商人街に向かう。両親は商人として一応店を構えているらしい。
リンに言われた住所に着くと、そこには古びた宿屋が一軒あった。
ランスと止まったボロ屋敷よりもさらに酷い。大きい建物ではある。しかし、壁には蔦が巻き付き、ところどころヒビが入った壁から風が漏れている。扉は今にも壊れそうなボロボロの扉で押すとギィーと軋みながら開いた。看板が無ければ宿屋とはわからない建物だ。
「すみません~」
「はい!お客様ですか!」
俺が中に入るとすぐに揉み手をしたオッサンがニヤニヤした顔で出てきた。
「あ~違うんですが」
「けっ客じゃねぇのか、何だガキ。俺様の城に文句でもつけようってか?いいだろう相手になってやんよ」
なんだか物凄い変わりように唖然としてしまう。ここまで潔いと呆れの方が来るらしい。そんな二人のやり取りを聞いたのか、リンが現れる。
「父さん何してるの!お客様じゃなくても親切にしないと悪い噂が流れるでしょ!」
リンはどこかでやり取りを聞いていたらしい。父親が暴走しているとわかったので急いできたと言った感じだ。怒鳴りながら現れる。現れたリンは仕事着なのか、メイド服を着ていた。
「よう……」
「ヨハン様!!!」
ヨハン様?そんな風に呼ばれたことなんてない。
「あっいえ、お父さん。こちらは貴族の方よ」
「なにっ!貴族様だと!」
リンの言葉に表情を変える父親、俺は苦笑いを浮かべる。
「これはこれは貴族の方とはつゆ知らず申し訳ありません」
権力に屈する父親の姿にリンは呆れながら、俺の方を見る。
「申し訳ありません。ヨハンさん」
「いや、別にかまわないんだが、リンは家ではメイドなんだな」
俺の言葉にリンは自分がメイド服を着ているのに気付いたらしい。
「これが仕事着なんです」
顔を赤くしているリンは可愛いものだ。
「ウォッホン」
「あっ!」
リンの父親が、咳払いをして二人の雰囲気をぶち壊す。
「親の前でイチャイチャするのは止めて頂きたい。それでですが?貴族様が、家などになんのようでしょうか?」
貴族の肩書にビビりながらも、リンの前では父親としての威厳を保ちたいのか、話し方が定まっていない。
「リンを迎えに来ました」
「はっ?」
「リンから聞いていると思いますが、私は新しい領地の領主になりました。そこでリンには補佐として働いてもらうことになっています」
「ああ、平民から貴族になったというのはあんたのことか」
どうやら、俺の言葉で色々と合点がいったらしい。父親は先程の蔑むような目に戻り、リンを見る。
「リン、お前は人を見る目が無さ過ぎる。こんな情けない奴が立派に領主を務められるとは思えん」
「お父さん!なんてことを!ヨハン様はこの都市で魔法師団副団長を務めた人よ。それに共和国との戦争でだってガルガンディア要塞を一人で落としたんだから」
リンが興奮気味に俺についてを語るが、なんだが気恥ずかしくなる。
「さっきから何してるの?」
ホテルのカウンターからリンを大人にしたような人物が現れる。ハッキリ言って美人だ。痩せているから儚さそうに見えるが、瞳には強さが感じられた。
「お母さん。お父さんを止めてよ。さっきからバカなことばかり」
「あ・な・た……ちょっといいかしら。お客様、少し失礼します」
「はっはい」
俺は逆らえない威圧を放つリンの母に頷き返し、リンの父は耳を引っ張られて中へと入って行った。中で何をしているのか想像するのも恐いが、しばらく待っていると母親の方が現れた。
「改めまして、リンの母です」
「これはこれはご丁寧に、ヨハン・ガルガンディアです」
「まぁ貴族様なのね」
母の瞳が光ったような気がする。
「そうだよ。この間話したヨハン様だよ」
リンの呼び方はヨハン様固定されたらしい。
「ああ、あなたが……よくぞ御出で下さいました。今日はどういったご用件で」
「はい。ガルガンディアに戻るので、リンを迎えに来ました」
「そうでしたか、私共も家族でお世話になれるそうで、本当にありがとうございます」
「いえ、ガルガンディアには何もありません。ですが、これから旅人が訪れたりすると思うので宿屋をやっていただけるのはありがたいです」
リンの両親と家族にはガルガンディアに移動してから、宿屋をやってもらう予定なのだ。この場所でやるよりかはいくらか実入りもいいはずだ。
「本当に助かります。娘共々よろしくお願いします」
母親に深々と頭を下げられながら、俺も深々と頭を下げる。
「リン、何をぐずぐずしているの、ヨハン様を待たせてはダメじゃない」
「はい。すぐに用意してきます」
リンが奥に引っ込んだところで、母親の体が近づいてくる。
「娘もそろそろ年頃です。なんなら夜のお供にしてあげてください」
「えっ!」
実の母親からそんなことを言われると思わず絶句してしまう。
「ははは、冗談ですよね?」
俺が恐々聞くと、リンの母親は「ふふふ」と笑っただけだった。リンの母親には逆らってはいけないと、このとき思った。
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