人材発掘
第三章突入です
共和国との戦争を終結させた王国側は、共和国から手に入れた三つの砦を新たな領地として三人の人間に与えた。
一つ目の砦を第二軍総大将アンダーソンへ。二つ目の砦を第三軍司令官セリーヌへ。二つ目の砦に関してはミリューゼの管轄ということになった。王様なりの娘への配慮だと考えられた。
そして最後の一つを平民出身者であり、第三軍魔法師団所属ヨハンに与えたことは様々な噂となって知れ渡った。
噂など気にしないヨハンは、二人の同行者を伴い自身が到着することになった砦であるガルガンディア要塞へと訪れた。
「この間までは、たくさん人がいたから気付かなかったけど、広いなここ」
「そうですね。なんだか広すぎて落ち着かないです」
一人目の同行者である。リンが返事をする。
リンは俺が貴族になって領地を統治すると伝えると……「お供します」その一言だけで、軍を辞めてついてきた。
しかも、自分の家族もガルガンディア要塞へ呼び寄せてくれるということで、リンが言っていた大家族がガルガンディア要塞へ引っ越してくるらしい。
俺も一応家族に伝えて、来てもらうように言っているが、返事はまだない。ガルガンディア要塞を拠点に街を作らなければならないが、周りに村はなく。森が広がっているだけだ。
どうしたものかと考えていると、もう一人の同行者が近寄ってきた。
「まぁ出だしとしてはこんなものでしょう」
もう一人の同行者である商人のヤコンが砦内の調査を終えて戻ってきた。
「収容人数三万といったところでしょうか?手付かずの森が広がっているので、領地を増やすのは簡単ですね。戦争後のお蔭で備蓄してある食料はかなり多めでしたし、今すぐ一万人を収容しても一年は持たせられるでしょうね。ただ、砦という形をとっているせいで畑や建物が少なすぎますね。寝泊りはできても生産性がある生活を送るのは大変です」
ヤコンの報告を聞きながら、やらなければならないことの多さに目が回りそうだ。
「とりあえず何から手をつければいいんだ?」
「まずは人材の確保でしょうね。誰か有力な人材が居れば取り立ててください」
「人材か……」
「それと、街を造るに当たり、どのような街にするつもりですか?」
「どのような街?」
「はい。街とは納める者の思想が反映されます。ヨハン殿がどんな街にしたいのか、それが大切だと思いますよ」
「色々あるんだな。それで?ヤコンは俺に仕えてくれるのか?」
「私は商人ですからね。仕えるという言い方は適切ではありません。交渉相手として協力すると思ってください。今のあなたは貴族になり立てで味方がいない。しかし、私はあなたを面白い人材だと思いますので、先行投資として協力させていただきます」
ヤコンのハッキリとした物言いが、俺は嫌いじゃない。
何よりガルガンディア要塞の領主になったときに、一番に声をかけてきてくれたのがヤコンなのだ。
信用するわけではないが、頼りになる相方ぐらいには考えている。
「とりあえずは人材だな。人材を増やす方法はどんな方法があるんだ?」
「そうですね……戦争難民や孤児を拾ってくるか、どこかの住民に移民してもらうか、奴隷を買うかですかね?」
ヤコンの言葉に俺は反応する。
「奴隷?」
「おや?興味を持たれましたか?」
「不潔です」
俺とヤコンのやり取りを聞いてリンが叫んだ。
「不潔なことなのか?」
「いえ、普通ですね。むしろ奴隷たちもマトモな仕事がもらえる方がありがたいでしょうな」
「不潔です!」
俺とヤコンのやり取りにリンが怒鳴る。
何をそんなに怒っているのか?この世界は奴隷商が商売として認められているのだ。
「とりあえず、それは一つの案だな。まずは、知り合いに声をかけてみるか」
「そうですね。私も協力すると決めたからにはそれなりに動かせてもらいますよ」
「リンもそれで頼むぞ」
「不潔です」
ご立腹のリンは聞いているのかわからなかったが、とりあえずの方針を決めて、俺達は行動に移ることにした。
俺は王都に戻って来ると一番に欲しい人材のところに顔を出す。
「いらっしゃいませ。ヨハンさん」
「お久しぶりです。アリスさん」
いつも訪れる図書館は、いつも通り静かな雰囲気とアリスの笑顔が出迎えてくれる。
「この度は貴族様になられたそうで、おめでとうございます」
「いえいえ。中身は全く変わっていませんから。むしろ知らないことばかりで戸惑うばかりですよ」
「それでも凄いです」
「はは、それでなんですが……アリスさんにお願いがあってきました」
「はい?」
俺はアリスの顔を見つめ、緊張が高まってくる。
アリスも俺の緊張が伝わったのか、顔を赤くして、興奮しているようだ。
「・・・」
息を飲み、心の中で覚悟を決める……
承諾してくれるのか不安があり、言葉が出てこない……
それでも意を決して言葉を発した。
「俺の城で司書になっていただけませんか!」
「はっ?」
「だから、俺の城で司書になっていただけませんか?」
「・・・ヨハンさん・・・」
俺は返事をもらえると身を乗り出して、アリスに近づく。
「バカーーー!!!」
アリスは叫ぶとともにビンタした。
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