閑話 ランスとサクラ
ランス本編、サクラルート出会い編です。
王国第一軍は共和国の傭兵を相手にゲリラ戦を強いられていた。
騎士である彼らは突然現れる傭兵たちに翻弄されるばかりで、後手後手に回っていた。
そんなときに、王国第三軍が加勢したことで一気に戦況が変わる。
王国第三軍のサクラは諜報活動を得意としており、共和国の動きを事前に察知するように情報を収集に努めた。
またサクラの情報を元にカンナが敵の中隊クラスを倒していくので、敵の数も減っていった。しかし、これに気付いた共和国もバカではない、誰を叩けばいいか心得ている。
調査をしていたサクラを捕まえるために、暗殺部隊をサクラに向けて放った。調査をしていたサクラはケガを負いながらなんとか暗殺者から逃げのび、第一軍と共和国が戦闘をしている場所まで逃げてきて力尽きた。
「おい!大丈夫か」
サクラは木にもたれ、足と肩に負った傷により意識が朦朧としていた。
そこに一人の兵士が声をかけてきたのだ。第三軍の者であれば警戒する必要もないのだが、第一軍は男性ばかりの軍である。味方であっても自分のような女性に慣れていない者が多い。
そのため、たまに暴走する者がいるので用心しなければならない。
「私に構うな」
サクラは兵士から離れるために立ち上がろうとするが、敵から受けた傷のせいで自分の動きを制限する。
倒れそうになったサクラの身体を兵士が支える。
「無理をするな。傷の手当てをするだけだ」
兵士は身体を支えながらも、顔は背けたままだ。
サクラも彼がどうして顔を背けているのかと自分の身を見れば、服は破け肩や足が露出していた。しかし、恥ずかしい場所は何も見えていなかった。
それでも兵士は恥ずかしそうにしているので、なんだか気が抜けた。
兵士は持っていた腰袋から綺麗な布を取り出して、布を破いて半分を水筒の水で濡らす。濡らした布で傷口を綺麗に拭いて、濡らしていない布で傷を縛る。
「手慣れてる」
「まぁ幼馴染がヤンチャな奴でよく手当してたからな」
サクラは顔を覆ってはいるが、動きやすさを重視するため薄い黒装束をまとっているだけだ。
彼にはそれが恥ずかしいらしく。兵士はサクラの方をなるべく見ないようにして、傷の手当てを終えると立ち上がった。
サクラは何かされるのではないかと、ビクッと反応するが、兵士は背中を向ける。
「傷の手当は終わった。熱もあるようだから水も置いておく。後は自分でなんとかできるな」
「……名前は?」
サクラは本来名を聞くことなどない。それでも傷の手当てをしてもらい、自分が警戒をしていることを悟って去ろうとしている兵士をそのままにするほど礼儀知らずになりたくないと思った。
「ランスだ。第一軍従士隊所属だ」
「ランス……ありがとう。私はサクラ。礼はする」
サクラは水筒を飲み、意識を覚醒させる。
傷口を縛られたことで、漏れていた血が止まり、渇いていた喉が潤ったことで自分が冷静でなかったことを悟った。
「そうか」
ランスはそれ以上何かも聞いてこなかった。口数の少ないランスの態度が、サクラには心地よかった。
他の兵士とランスは違うのだと思って、サクラは好感がもてた。
「いく」
サクラは短く別れを告げ、その場を後にした。
共和国と第一軍の戦闘はすでに集結しており、第一軍が勝利していた。
そのおかげで敵の暗殺者もサクラに追っ手をかけられず、サクラはカンナがいる本陣へと戻ることができた。
「なんだい、そのボロボロの布?」
カンナはサクラが腕に巻いている布を見て、そんな質問をしてきた。
「別に」
「ケガしたのかい?」
怪我をしたのは腕ではない。それでもこの布を持っていたいとサクラは思った。腕に巻いて肌身離さずいようと思ったのだ。
「大丈夫」
「あんたの報告は雄弁なのに、あんた自身は相変わらず端的だね」
カンナは頭を掻きながら、サクラの様子に困惑していた。
「必要ない」
サクラはしゃべる必要はないと、本陣を飛び出した。
すでに情報収集は最終段階に入っている。セリーヌがガルガンディア要塞を落としたと連絡もきた。近いうちに共和国は瓦解することだろう。
「はぁ~あたし達も引き上げ時だね。あまりでしゃばって第一軍に睨まれても困るからね」
「退く」
カンナの言葉に短く返事を返したサクラは、ランスに思いをはせながら戦場を後にした……
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