取引
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ガルガンディア要塞にて、アラクネとの戦いを終えた第三軍は、多くの犠牲を出すことになった。
トリスタント率いる先方隊はほぼ全滅となり、トリスタント自身も右腕の粉砕骨折に内臓損傷と大怪我を負っていたため、すぐに治療師たちよる治療が開始されたことで一命は取り留めた。
セリーヌに関しては魔法の使い過ぎによる消耗だけだったので、休めば落ち着くだろうということだ。
出兵の際に一万三千いた兵は、その兵数を八千まで数を減らしていた。むしろ八千も生き残れたことを喜ぶべきかもしれない。
セリーヌが休む本幕内に置かれたベッドで、セリーヌが目を覚ますと、サクが座っていた。
「状況報告を」
セリーヌの頭はクリアにだった。最後に何が起きたのかも十分にわかっている。
その上でサクが何をしたのか、改めてサクの口から聴かなければならないと問いかけた。
「はっ。現在ガルガンディア要塞の戦後処理をしております。すでに兵のほとんどはガルガンディア要塞に拠点を構えるために動いています」
「そう」
「トリスタント殿は、セリーヌ様との戦闘で負った傷により現在意識不明の重体です。他の主だった騎士達も満身創痍のため、現在はヨハン殿とミリー殿に現場の指揮を任せています」
ヨハンの名前を聞いたセリーヌは苦虫をかみつぶした顔になる。
「どうして彼を呼び戻したのか教えてもらえるかしら」
セリーヌの指示により、サクの策でヨハンを死地に追いやったはずだった。
しかし、サクはセリーヌの指示に反してヨハンを呼び戻し、あまつさえ現在は指揮まで任せているという。
「はい。私は最悪の事態を想定しました。私が考える最悪とはあなたを失うことです。どんな形にせよ。あなたが死んでしまうことがないように私は動きました。そのために仕える物は全て使う。それが私の流儀です。彼を使うことに私は躊躇などしません」
サクは自身がとった行動が間違っていないことを主張した。
それはセリーヌとて分かっている。分かっているが、心が納得できない。
「私が聞きたいのはそういうことではありません。私を助けるまでは納得しましょう。でも、どうして彼が今も指揮を執っているのかということです」
こんなことを聞いても仕方ないことはわかっている。それでもサクの口から聴かなければ納まらない。
「彼がそれに値するだけの価値と実力を持っていると私が判断したからです。あなたの思考を、私の策を彼はすでに理解していました。その上で私と取引をすることで彼は私達に力を貸しました」
取引と言う言葉に、それまで上を見ていたセリーヌが初めてサクを見る。
「取引とはどういうこと?」
「彼は私達の策を看破していました。だからこそ、私達に力を貸すことを拒みました」
サクの言葉でセリーヌはある程度の状況を理解できた。
ヨハンは自分が思っているよりも賢く狡猾だったということだ。
「そう、それで取引内容は?」
「内容は三つです」
・これから先、自分に手を出さないこと。
・また自分に拘わる部下や仲間に手を出さないこと。
・今回の手柄はセリーヌのモノとして自分の名を出さず、それとは別に報酬を払うこと。
「以上の三つが破られたとき、セリーヌ様及び、私の命をもらい受けるということです」
「そんなことができると!」
「彼にはそれができます。私達が彼を死地に赴いたことで、彼はここにいたときよりもずっと成長していました」
サクは気付いてしまった。
死地で生き抜くために、ヨハンは人々を癒す新たな魔法を覚え、誰も死なせないために作戦を考え、考えたことを実行するために誰よりも行動で示し続けたのだろう。
その結果、彼は著しい成長を遂げることになったのだ。
「信じられるとは言えないわね」
「彼のことを信じられなくても、私の先見の明を信じください」
「サクがそこまでいうほどなのね」
「はい。今の彼はセリーヌ様でも手に負えません」
サクのハッキリとした物言いがセリーヌは嫌いではない。
それがたとえ気にいらないことであっても軍師とはハッキリ物が言えなければ意味がない。
「わかったわ。彼のことは信じられない。だけど彼を起用しようと思ったあなたを信じます」
セリーヌはヨハンが気にいらない。しかし、トリスタントを失い。自分自身もすぐには動けない。サクは自分の指示が無ければ動かない。
そうなれば立場的には他の貴族騎士が指揮を執るが、指揮を執るべき騎士はほとんどがケガ人であり、また指揮を執れるほどの人材が残っていない。
「とりあえず、今の状況を報告させなさい。それが最低条件よ」
「わかりました」
サクは椅子から立ち上がり、ヨハンを呼ぶために本幕を出た。
「彼の評価を改めなければならないようね」
セリーヌは平民が嫌いである。
もちろんその根底になったのはマルゲリータの事件ではあるが、それとは別にセリーヌは使えぬ者が嫌いだ。
平民は貴族に比べ、考えが足りず、無駄にこちらに手間をかける者が多かったため、セリーヌは平民が使えないと思ってしまっていたのも事実である。
「使えるのなら、存分に使わせてもらうわ」
ヨハンが来るまでにセリーヌは気持ちを完全に立て直していた。
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