救援者
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「セリーヌ様!!!」
サクがセリーヌの名前を呼びながら、要塞内へと入ってきた。
手勢の軍を率い、セリーヌに襲い掛かるモンスターや操られている兵を払いのける。
サクの手勢達は全て、黒装束でその身を覆い隠した忍者たちだ。彼らは魔法とは違う力で敵を払い、その場からセリーヌを救い出した。
「サク!あなたが来ては、大勢を読む者がいなくなるではないですか!」
セリーヌは傷つき立っているのがやっとなぐらい、消耗をしいられていた。それを見たサクは何の迷いも無く。手を上げる。
「お願いします」
サクが手を振り下ろすと同時に、サクとセリーヌを護るように氷の結界が張られる。
まるで世界が銀世界になったように美しく。セリーヌは一瞬何が起きたかわからなかった。
しかし、すぐに思考を巡らせ、サクがこんな氷を作れるとは思えない。もちろんサクの配下にもそのようなモノがいるとはきいていない。
サクは踵を返し、セリーヌを連れてその場を離れる。
セリーヌのように、一騎で駆けて挟み撃ちに合うのならば、最初から前方も背後も戦いを想定すればいい。
サクはあらゆる最悪の事態を考えた。それに及んでいなかったが、それに近い状態であると判断したサクに迷いはない。
「はいよ」
セリーヌが嫌い。自身が遠ざけたヨハンを何の迷いもなく呼び戻し、何の遺恨も挟まず使う。
サクの考えをわかった上で、その申し出を受け入れた。
探索との応用で編み出した広範囲攻撃で敵を打ち払い、正気を失った者達の身体を氷つかせる。
「我らが大将は返してもらうぞ」
「貴様は誰だ!」
糸の上に乗り、こちらを見下ろしているアラクネに向かって俺は宣言してやる。
「誰だって、単なる魔導師だよ。蜘蛛の魔族さん」
「何をした?」
「簡単な話だ。糸に繋がれているなら糸を切ればいい。切る糸が見えずにわからないなら、糸に繋がれても動けなければいい」
言うは易しだが、簡単にできることではない。
解決策などないはずなのだ。糸が切れるはずがないとアラクネは自負している。
その矛盾への俺の答えは動けなければ障害にならないだ。
「そんなことができるはずがない!」
「できるはずがないって……原理さえ分かってしまえばそれほど難しいことじゃないさ」
「何っ!原理だと?」
蜘蛛の糸は確かに正気を失った兵士を操って見せた。しかし、糸の届かないところに行けば糸の操作は受けない。
また糸の届く範囲はアラクネが引いた糸で造られた巣の中だけである。それは要塞内限定ということだ。
これがサクと俺が出した答えだった。
「そこまで教えてやる意味はないだろ?」
アラクネは違和感を感じていた。
先程からヨハンを操ろうと糸で襲撃をかけ、ヨハンの体に触れようとするが、一向に操れる気配がない。
いくらヨハンが魔導師であり、自身の技を看破していようと、新たに捕まえる者にまで影響を与えられるとは思えない。
先程の忍者たちは動きによって糸を翻弄し、脱出を成功させたが、ヨハンは動いてすらいないのだ。
「いい加減に見えない糸で俺を攻撃するのを止めないか」
「何っ!」
糸は確かに見えていない。なのにどうしてこいつは私の攻撃がわかるのか。アラクネはますます混乱せずにはいられない。
「種明かしをする気はないって言っただろう。決着の時だ」
俺はいつも持っている斧を持ってきてはいない。それに代わる武器を持ってアラクネに相対する。
「単なる人間に何ができる!我こそが魔族化した者たちの母になるのじゃ」
アラクネは赤い六つの瞳を光らせて、禍々しいオーラを放ち始める。
オーガはランスと二人でやっと倒した。あの時よりも強くなっているとはいえ、正直ここまでするのに相当な魔力を消耗した。
「人間如きが魔族である我を倒せるはずがないわ!死ね!」
見えるようになった無数の糸が一つの束になり、俺へと迫ってくる。
「電光石火」
俺はその糸に動じることなく。身体全体に張り巡らせていた雷に命令を下す。
人の体は神経と呼ばれる電気信号で動いている。その電気信号に無理やり呼びかける。
自分では認識できないほどの速度を体に強制するのだ。
それはまるで雷が稲光するように、糸の束を切り裂き、俺の拳から放たれた雷はアラクネの心臓を停止させる。
「何をした?」
心臓を止めながらもアラクネは俺への質問を投げかけた。
すでに息ができなくなっているのだろう。苦しそうな表情で俺を睨み付ける。
「常に体に雷を流していただけだ。お前が糸を俺に触れさせる度に俺は雷の熱で焼き切っていたに過ぎない」
セリーヌが爆炎で自身を護ったように、最小の雷で自身を覆いつくしていたため、迫る糸に後出しでも対処できたのだ。
回復魔法ができる俺だから取るれ方法だ。
「器用な人間だ。ああ面白い」
アラクネは種が分かると、楽しそうにその身を倒した。それと同時に操られていた者達もバタバタと倒れて行った。
「任務完了だ」
ここまで戦い通しだったヨハンは相手が息絶えるのを確認して、しりもちをついた。
「もう魔力が空っぽだ」
レベルが上がったことで相当に魔力量が増えているが、それでも今回は全て使い切るつもりで無茶をした。
「隊長!」
「ヨハンさん」
ミリーとリンがこちらに向かってくるのを確認して俺は寝ることにした。
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