ご飯を食べよう
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一万三千人が集まり、隊列を組んでいる姿は壮観な光景だ。その中に混じる俺はどこか浮いているような気がしてくる。
それでも兵士を預かる指揮官として責任を果たす覚悟はできていた。
「皆さん、今回の作戦に失敗は許されません。私達の働きにより、敵の陣形は崩れ今の戦いができなくなる重要な任務です。心して挑んでください」
話の長いセリーヌが短く言葉を切り、一万三千人の人々を見る。
「では、王女様から一言お願いします」
セリーヌに代わり壇上にはミリューゼ様が経つ。
全員の顔を見るようにゆっくりと視線を巡らせて、最後に中央に集まっている騎士達に視線を止める。
「我が国は行く年月他国からの侵略に晒され、それを押し返してきた。それも全て国を思い戦ってくれた皆のお蔭だ。私は王族としてこれほど誇らしい民を持ったことを誇りに思う。此度私は国を護るために残らねばならぬことが悔しい、しかし、心は皆と供にあることわかってほしい。君達は私の誇りだ。生きて帰ってきて共にまた笑い合おう」
そういうとミリューゼ様は笑顔を見せてくれた。
それは男性であれば嬉しく舞い上がり、女性であっても見惚れてしまうほど美しい笑顔だった。
「ミリューゼ様の誇りを穢さぬために、我々は全力を尽くします」
ミリューゼの言葉を応えるセリーヌは片膝を突いて、ミリューゼの手の甲にキスをする。
「うむ。我が愛しき者達よ。出陣せよ!」
「「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」
ミリューゼ様が行う出陣式を終えて、隊列を組んで街を練り歩く。
兵士の気持ちを奮い立たせるにはこれが一番なのだそうだ。
まぁ二回目とも成れば、慣れた者で、一回の目にランスと興奮していた自分を思い出して恥ずかしくなる。
「凄いでね。ヨハンさん」
「リンは始めてだったな。確かに気持ちが奮い立つ感じだな」
「はい。ヨハンさんにお供します」
俺はリンの頭を撫でてやり、後ろを振り返れば、ミリーたち騎士が、従士に話しかけて同じようなことをしていた。
集まってからミリーに聞いたのだが、500人の全てが騎士と言うわけではないらしい。
半分が従士で騎士一人に従士一人が付いているそうだ。
それでも200人の騎士と供に戦うのだ心強いと思った。
魔法師団の者に聞くと、100名は全て魔法師団の者で間違いないらしい。
魔法隊からは参加しているが、それは2900人に組み込まれていて、優秀な魔導師と供にいるそうだ。
「まぁ一万三千全てが兵士って訳にはいかないしな」
そうなのだ。第三軍と言っても本当に軍に務めているのはこの中の三分の一ほどしかいない。
残りの三分の二は冒険者や志願兵であり、前の俺やランスみたいなものなのだ。
「行軍は何日続くんですか?」
「確か、俺達が目指しているのが、ガルガンディア要塞だからな。三日ほど歩いたところで拠点を置くんじゃないかな」
「三日ですか……ご飯とかってどうなるんでしょ?」
「うん?リンは食いしん坊だな。とりあえず昼は行軍しながら干し肉とか干し飯とかじゃないか?晩は何か作るだろうけど」
「じゃあ、ヨハンさんのご飯が食べられるんですね?」
「おいおい。俺は指揮官だぞ」
「でも、大量の食糧を買ってましたよね?」
リンの言葉に俺はキョトンとしてしまう。
確かに受け取りはリンにしていたが、ほとんどは見えないように樽に押し込まれている。
食料は傷んでほしくないので、全てアイテムボックスに納めた。そのせいでアイテムボックスがいっぱいになり、衣類は荷車に乗せて運ぶことになった。
「どうしてわかったんだ?」
「匂いです」
「お前は獣か」
「しっ失礼ですよ!レディーに向かって」
レディーでも食いしん坊には代わりないと思うが。どうやら食料の感知能力が高いらしい。
「これは必要な時に使おうと思っていただけなんだけどな」
リンの期待に満ちた顔を見れば作らずにはいられない。
「今晩だけだぞ」
「はい!!!」
一日目の行軍が休憩に入り、野営地にて早速料理に取り掛かる。
女性がほとんどだということも考えて暖かい物が好まれるだろうから、今日のメニューはクリームシチューだ。
野営地の隅で大き目のフライパンにバターを引いて鶏肉を焼いていく。そこに野菜を加えながら塩コショウで味を調える。
鍋には水と乳と小麦粉でホワイトソースを作り、焼いた野菜を食えてアクをとりながら煮込んでいく。肉の出汁を調整しながら味を調える。
「ほれ、完成だ」
食材は鶏肉、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーとシンプルなモノばかりだが、色合いは悪くないだろう。
「うわ~白いスープですね」
「クリームシチューだ。まぁ簡単に作ったから味の保証はないぞ」
「頂きます」
俺の言葉など全く聞いていない。リンは早速スプーンを口の中に放りこんでいる。
始めてあったときも食事をしてからリンはよく話すようになったと思い出しながら、俺はリンの食べる姿を見ているとミリーがやってきた。
「なんだかいい匂いがすると思ったら隊長さんかい」
「ミリーさん」
「ミリーでいいよ。私はあんたに負けたんだ。何よりあんたが上司だろ」
ミリーさんはそう言うと男前な笑顔で近づいてきた。
ミリーの後ろには一人の女の子が付き従っていた。
「ああ、この子かい?この子は私の従士でクリスって言うんだ。可愛がってあげてくれよ。あんたと同い年らしいから」
「クリスです。ミリー様の従士をしております」
「俺はヨハン、こっちのクリームシチューにがっついてるのが魔法隊のリンだ」
「リンメス」
口から物を出してから話しなさい。
そんなリンの態度など気にしないようだが、クリスは先程からクリームシチューの方ばかりを見て、視線が全く合わない。
「食べますか?」
クリスの視線に気づいていた俺は一緒にどうかと誘ってみた。
「いいのかい?」
「ええ、クリスさんもどうですか?」
「よろしいのですか!」
口からヨダレを溢しそうなほどガン見していたのだ。
無視するのも可哀相だろう。
「ええ、問題ありませんよ」
「助かるよ。さっきからいい匂いがして腹が減ってきてんだ。代わりににあたしからはワインをプレゼントするよ」
そういうと懐から赤ワインを取り出したミリーがニヤリと笑う。
戦場に酒を持って来るとは大胆なことだ。
「大胆ですね」
「これぐらいないとやってらないだろ」
「まぁ」
成人を迎えるのが12歳のこの国では酒を飲むのも自由だ。
「それにこのスープによく合うぜ」
すでにリンによって注がれ、クリームシチューを食べ始めていた。
「それにしてもこれは美味いね。レイレ様が作る料理と比べても良いぐらいだ」
「ミリーさんはレイレ様のご飯を食べたことがあるんですか?」
「ああ、あるよ。何度か戦場で出されたことがあるからね」
さすがはメイドだ。戦場でも家事全般は取り仕切っているのだろう。
「おっあそこにいるのはガーナだな」
そういうとミリーは近くを歩いていた騎士に呼びかける。
そこからはなぜかクリームシチューを囲んでの宴会に発展していった。
もちろん追加で作ったよ。500人全員とはいかないが、50人ぐらいは集まったからな。
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