女狐
会議室に二人きりになったところで、レイレが紅茶を入れてくれた。
セリーヌはレイレの紅茶を一口飲むと話を始めた。
「ありがとう。レイレ」
「いえ、当然のことをしたまでです。では、私はミリューゼ様の下に戻ります」
「ええ、ありがとう」
綺麗なお辞儀をするメイドさんは仕事を全うして去って行った。
「さて、ますは妹がお世話をかけたみたいでごめんなさい」
「いえ、自分は何も」
色々と嫌がらせやら面倒くさい思いをしたが、それをセリーヌにぶつけても仕方がない。
「そう……言ってもらえると助かるわ。歳の割に大人なのね」
まぁ二度目の人生ですからね。大人にもなりますよ。
「いえ、そんなことはありません」
「あの子は昔から頭が良い子だったの。魔法の才能にも恵まれていたし、親から可愛がられてもいてね。そんなときに出会った平民の子供達は、あの子をからかった。あの子は怒ってしまって魔法を暴走させてしまったの。とても大変な事件だったのよ」
セリーヌの言葉ではあまり大変そうには聞こえないが。
何故、身の上話を聞かされているのかわからない。何より、話が長くなりそうなので……
「本当に大丈夫です。マルゲリータ様には魔法師団の心を教えて頂きました」
「あら、そうなの?」
「はい。第三魔法師団が何を目的にして、何を目指いしているのか、心構えを教えていただきました」
「そう。まぁ、それならいいんだけど」
俺が話を切ったことは察してくれたらしい。セリーヌも話を変える。
「それで、あなたに残ってもらったのは、あなたには遊撃隊を率いてもらおうと思っているの」
「遊撃隊ですか?」
「そうよ。直接私が指示を出しますので、あなたには私の命令を遂行するために動いてほしいの」
「どうして俺なんですか?」
「当たり前の質問ね。まずは、あなたも先程会ったから分かると思うけど、私達の中でそういう任務を得意としているのはサクラなの。でも、サクラには今回、カンナのおもりを任せているから外せないし。かといって他のメンバーはそういうことに向いていないの」
俺は何を言いたいのか、段々とわかってきた。
「では、トリスタント様では?」
「そうね。彼女なら上手くやってくれると思うわ。彼女は長くカンナの下で働いてくれていたし。そのせいで苦労してくれているのよ。それに、戦略にも精通していて大軍を動かすことになれているの。まぁだからこそ勿体無い気がしたのよ。裏方をやらせるよりも表舞台の方があの子は役立つってね」
この人は合理主義な人なのだ。いかに効率がいいか、それを考えた上での結論を常に持っている。
何よりセリーヌの言葉はもっともである。俺がセリーヌの意図通りに大軍を動かすことなどできない。
「遊撃隊を指揮するのは構いません」
「良い判断ね。では、あなたには遊撃隊として500人を任せます。彼らを手足として使ってみなさい」
俺を試すような物言いに、セリーヌの意図を測りかねる。
「どうして、セリーヌ様は俺に?」
「あなたがミリューゼ様に見込まれた人だからよ。私はミリューゼ様の副官としてあなたを見極める必要があると考えています」
セリーヌも基本はマルゲリータと同じなのだ。彼女達六羽の中心にはミリューゼ様がいるのだ。
「そうですか。あなたもマルゲリータ様と同じなのですね」
「同じ?」
「いえ、遊撃隊の任務お受けします。俺でできるならですが」
「良い心がけね」
俺の返答に満足したセリーヌはレイレが入れた紅茶を飲みほして立ち上がる。
「出撃は三日後よ。500人の内、100人は魔法師団から、残り400人は騎士師団から配属します。行軍の間からあなたの指揮かになるので、そのつもりで、辞令は今日のうちに出しておくので、明日第三演習場に正午です」
「わかりました」
「もし連れて行きたい子がいるのなら、今受け付けるわ」
「では、魔法隊のリンを彼女を俺の補佐につけてください」
「魔法隊の子を?それは賛成しかねるわね」
「あの子には才能があるんです。多くの経験を積ませたくて」
「子供に人殺しをさせたいの?」
軽蔑するような目で俺を見るセリーヌに、俺は溜息を吐く。
「俺を見縊らないで頂きたい」
俺はむしろそんなセリーヌの視線をバカにした。
「どういう意味かしら?」
「あなたはリンを子供だと言った。だが、リンはすでに覚悟を決めている。軍人として、国を守る者として、覚悟を持った者をバカにしないで頂きたい。魔法隊も従士達も覚悟を持っている。そこに大人も子供も関係ない。あるのは強い意志だけです」
俺の言葉にセリーヌは驚いたように目を見開いた。
そして、数秒の間黙った後、ふぅ~と息を吐く。
「たしかにマルゲリータではあなたの相手をするのは荷が重いかもしれませんね。本当にあなたは14歳とは思えない。幾度か人生を経験した老獪のようで、その実自身を律する謙虚さを持っている。あなたは何もなのでしょうか?」
セリーヌが俺の瞳を覗き込むように顔を近づけてくる。
俺は綺麗なお姉さんに見つめられて素直に照れてしまう。
「ふふ。そうかと思えば年相応に照れるのですね」
俺の顔を見て楽しそうに笑った。
「あなたを見極めるのが楽しみね」
セリーヌは踵を返して会議室から出ていく。
「どうにも女狐と化かし合いをした気分だな」
セリーヌはまだまだ腹の底を見せていないのが、なお恐ろしい。
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