六羽
セリーヌ様の一喝に、ニヤニヤしていた二人も次の方の言葉には従わずにはいられないらしい。
「カンナ、アクア。セリーヌの言うことももっともだ。今は会議中だぞ」
ミリューゼ様から叱られれば、二人も肩を落とさずにはいられない。
少しは大人しくなったところで、セリーヌ様が、俺と隣に座る甲冑を纏っている女性に視線を向けた。
「ごめんなさいね。あなた達の自己紹介もまだだったわね。静かになったし、自己紹介してもらえるかしら」
セリーヌの言葉に甲冑が立ち上がる。
「かしこまりました。私はトリスタント伯爵家のヒリル・トリスタントと申します。今まではカンナ様の下で、騎士師団副団長をさせていただきました。また、カンナ様に代わり、団長を務めさせていただくことになりました。至らぬ点もあると思いますが、どうかよろしくお願いします」
非の打ちどころがないとは彼女のことを言うのではないだろうか。
毅然とした態度で、自己紹介を終えた彼女は一礼して席に着く。
「次はあなたね」
セリーヌはトリスタントに頷き、視線を俺に向ける。
「はい。第三魔法師団副団長をしています。ヨハンです。ジェルミー団長の代理で参加しました」
俺は当たり障りない自己紹介で席に座ろうとした。
「へぇ~お前がマルゲリータを失脚させたやつか」
俺が座ろうとすると元騎士団長であるカンナが茶々を入れてくる。
その瞬間にマルゲリータの方がビクっと震えたのが見えた。
「ええ。そうなります」
俺は悪びれることもなく。カンナを見据えて宣言する。
するとカンナは獰猛な目になり、さらに口を尖らせるて口笛を吹く。
「いいねぇ~喧嘩なら買うよ」
「いえ、別に喧嘩を売るつもりはありません」
獰猛な目になってから、一気に闘気が膨れ上がる。
親父に会っていなければ、この闘気で俺は怖気づいていただろう。
「へぇ~今のも耐えるか」
カンナはますます嬉しそうな顔をして、ニヤニヤと笑い出す。
「カンナ止めないか。ヨハンは私が見込んで魔法師団に推薦したのだ」
そんなカンナを窘めたのはミリューゼ様だった。
他のメンバーが止めなかったのは、それなりに俺に思うところがあるのだろう。
「はっ」
ミリューゼ様から声がかかると、すぐに闘気が納まり、その場の雰囲気も和らいだ気がする。
「それじゃあ今度はこちらの番ですね」
雰囲気が和らいだのを感じ、セリーヌが言葉を引き継ぐ。
「まずは私から、私は近衛騎士団団長をしております。セリーヌ・オディヌスです。オディヌス公爵家の長女として生まれ、王女様とは幼馴染の関係で育ちました」
「あ~はいはい。セリーヌの話は長いからな。次は私だ。私は近衛騎士団特攻隊長 カンナ・ゼイナールだ。親父は第一軍で将軍をしている」
カンナさんの自己紹介はそれだけだったが、分かりやすかった。第一軍の将軍と言えば、軍の元帥であり一番偉い人だ。
「次はわたくしですね。わたくしは聖グリット教会でシスターをしております。アクアです。王女様とは子供の頃からのお友達ですよ」
アクアは聖グリット教では聖女と呼ばれており、またその父親は教皇をしている。
聖グリット教は国が推進する宗教であり、繁栄と作物を司る女神さまだ。
「では、拙者の番。拙者は近衛隊隠密部隊 サクラ・アズミ」
肩書きと名前だけを名乗ると座ってしまったサクラは、元々が東洋出身者で、この国に来て忍者をしている。
彼女が四人目の攻略者であり、ランスとは戦場でしか出会えない。
戦場で傷ついたサクラをランスが何度か救うのだ。
「最後は私です。マルゲリータ・オディヌスです。セリーヌ姉様とは姉妹です」
先程のカンナとのやり取りもあり、マルゲリータはあまり元気がないようだった。
プライドが高そうなマルゲリータにしては珍しいが、どうやら姉や王女様の前では猫を被っているらしい。
「最後ですか?」
俺はマルゲリータの言葉を疑問に思って言葉を発してしまった。
「何っ!」
鬼の形相で睨んでくるマルゲリータをスルーして、俺はセリーヌ様を見る。
「六羽なのに、五人しかいませんよ」
「最後の一人は自己紹介する必要がないからよ」
そんな俺の質問に対して、マルゲリータが素っ気なく答える。
「そうですか……」
俺の態度にセリーヌが仕方ない子供を見るような目で、視線を王女様に向ける。
「レイレ。自己紹介して」
王女様の言葉に王女様の横で、給仕をしていたメイドが俺達の方を見る。
「はい。ミリューゼ様。私はミリューゼ様付きのメイドをしておりますレイレと申します。六羽とは言われておりますが、私は単なるメイドですので」
レイレは礼儀正しく頭を下げて給仕へと戻っていった。
俺は六羽の全てを知らなかったので、六人目がメイドと言うことに驚きながらも、なんだがアリだなと納得してしまった。
「これで全て自己紹介は終わったわね。では、任務の話をしましょうか?」
セリーヌから聞いた任務は大きく三つに分けられる。
・第一軍、第二軍の補給路を確保
・ゲリラ部隊への奇襲作戦
・共和国の砦を攻略する
「以上の任務を各隊で分散して行ってもらいます。また主力部隊は王都の守護もありますので、軍としての行動は制限があることをお伝えしておきます」
セリーヌの言葉は安易に追加で兵士は送れないぞということを告げているのだ。
「面白そうじゃねぇか。私は砦攻略をするぜ」
カンナが楽しそうに拳をぶつけ合う。
「いえ、カンナにはゲリラ部隊の撃破お願いします。あなたの武力が生かせるのは敵との戦いでしょう。サクラに情報を集めてもらい、敵を倒してきてください」
「まぁそれもありか、閉じこもっている奴を待つのは私の性に合わないしな」
どうやらある程度は何をするのか決まっているらしい。
「では、補給はわたくしね」
アクアの言葉にセリーヌは頷く。
「ええ、怪我人も多く出ていると思いますのでアクア様にお願いします。マルゲリータをつけますので、私兵と信者の人でどうにかお願いします」
「まぁ怪我人の手当と食料を運ぶだけだからね。大丈夫だよ」
「姉さん私は!」
「あなたには私兵の指揮とアクア様の護衛をお願いします」
マルゲリータは何かを言おうとしたが、有無を言わぬようにセリーヌが言葉を遮る。
「いいですね」
「はい……」
マルゲリータも反論はないようで返事を返した。
「最後に騎士師団から1万、魔法師団から3000を出撃させて砦を攻略してきてください。総大将は私が勤めます。副官にトリスタントさんにお願いします」
「かしこまりました」
「では、以上で解散とします」
俺には何も言われなかったが、このまま報告すればいいかと立ち上がる。
「ヨハンさん、ちょっといいですか?」
立ち去ろうとした俺にセリーヌが呼び止める。
他の六羽は会議が終わると立ち去って行った。
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