閑話 リンはお供します
第二章に入る前の閑話です。
私の家は大家族です。弟も妹もたくさんいて、ご飯を食べるのも一苦労です。
お父さんもお母さんも必死で働いていますが、いくら働いてもお金が足りません。
12歳になった私ができることは、両親を手伝って働くことだと思いました。
しかし、なかなかお金にならず、あまり生活の足しにならないと思った私は、昔から魔法の才能があったので、冒険者としての門を叩きました。
「とっ登録お願いします」
弟たちとはいっぱいお話できるのに、大人の人を見ると言葉が出てきません。
特に男の人は恐くて仕方ありません。それでも冒険者として登録したことで薬草採取や、お使いなどの任務をこなしているだけで、お手伝いをするよりもたくさんのお金をもらうことができました。
魔法の練習をしながらお金も稼げる。私にとってはとてもありがたい仕事でした。
それに、助けてくれる人もいるんです。
フリードと言って、私と同い年の、男の子なんです。彼は陽気に私に話しかけてくれます。
「魔法を使えるっすか?凄いっす」
彼はよく私を褒めてくれました。
彼のナイフ使いもスゴイと思いますが、彼は謙虚な人でした。
「ナイフ?まだまだっすよ。おいらが目指しているのはS級っすからね。まだまだ鍛えないと」
フリードには目標があって凄いなと思いました。
私は家族のためにお金を稼いでいるだけで、目的なんて何もありません。
私が使える魔法と、私ができる仕事で、家族が食べていけたらそれだけでいいと思っていました。
そんなときにフリードからある任務を一緒にやらないかと相談を受けました。
「向こうは見習いでもいいって言ってくれてるんすよ。しかも報酬もいいっす。戦闘は極力しなくてもいいって言ってるっす」
見習いでもいいとは確かに書いてあった。しかし、戦闘が少ないというのはフリードの嘘だった。
依頼は山賊退治であり、そのお手伝いを求めるものだった。
二人のC級冒険者のサポートをするのだ。いったいどんな人だろうかと恐くなった。
それでも報酬が、成功報酬の全てと書かれていて、私はびっくりした。
E級の私では到底手に入らない金額が、C級では得ることができるのだ。
もしそんなお金が手に入ったら、弟たちがお腹いっぱいご飯を食べられる。
私は金額の提示と、フリードが一緒であることを考慮して承諾した。
「こちらが、C級のランスさんっす」
フリードに紹介されたのは、私達よりも少し上のお兄さんだった。
大人の男の人ほど恐くはないけど、C級なだけあって体が大きくて緊張した。
「はっ初めまして、リンです」
「ああ、ランスだ。急な求人だったのに来てくれて助かる」
爽やかに笑うランスさんは、悪い人じゃないと安心できた。
しかし、もう一人仲間がいると言うので、三人で連れだって集合場所に行くと、不機嫌そうな顔で立っているランスと同い年くらいのヨハンさんに最初は恐そうだとドキドキした。
「ヨハン、仲間を連れてきたぞ」
ランスさんが声をかけても、その人は返事もしませんでした。
凄く怒っているようで、私は大丈夫だろうかと思っていました。ランスさんを一目見ただけで、その人が歩き出したので私たちもついて行きます。
それから二日ほど歩いて、ようやくその人が私達に話しかけてきました。
「それで何ができるんだ?」
「やっと話してくれるっすね。おいらはフリード、フリーって呼んでほしいっす。職業はシーフで探索が得意っす。鍵開けとかは特訓中なので、成功率が低いっす」
フリードが嬉しそうに自己紹介を始めた。私にも視線を向けられるので、必死に言葉を発する。
「わっわたしは……リンって……いいます。あの~その~魔法使いで……火の魔法が使えます……一応中級まで、あと風も」
ちゃんと言えたかわからない。それでもヨハンさんというお兄さんは、溜息を吐きながらも私達が同行することに同意してくれた。
そんな態度もあり、ヨハンさんを怒らせてはいけないと、私は恐くなってしまって委縮していた。
だけだ山に入り、山の道は険しくて、何度も帰りたいと思いました。そのたびにヨハンさんは無言で私を気遣ってくれました。
私が転びそうになると、腕を掴み支えてきなれ、進み難そうな道は斧で切り開いてくれるのです。
憎まれ口を言いながらも、この人は優しい人だと、段々と理解するようになってきました。
そして移動も二日目の晩になり、夕食の時間になりました。
持ってきたいのは硬い黒パンだけで、水筒に入れている水で流し込もうと思っていました。
しかし、ヨハンさんがどこから出しているのかわからない。調味料や食材を使って簡単なスープを作ってくれました。そのスープが美味しくて黒パンと一緒に食べたら黒パンに染み込んで本当に美味しいのです。
それが任務中毎晩食べられていつもより元気になったような気がします。
他にも乾麵スープに合わせたり、スープにトマトとトウガラシを加え、酸味と辛味を強くしたり、それはどれも食べたことがないほど美味しくて、弟妹たちにも食べさせてあげたいと思いました。
歩いていると私は足を踏み外してしまいました。
「リン!」
落ちていく私をヨハンさんは迷いなく、一緒に飛びこんで抱きしめてくれたのです。
落ちていく間もどこか私は安心していました。
落ちた先に居た山賊さん達を見て、ヨハンさんは私を庇ってくれました。
後ろに隠して、山賊さん達と話をしています。私が恐くて泣いてしまっていると、ヨハンさんがとんでもないこと行ってきました。
「魔法は使えるか?」
「ここでですか?」
「ああ、特大のファイアーボールを作ってくれ」
ファイアーボールの特大?どうやって作るの?わからない。魔法は唱えたらそれで終わりじゃないの?
「要はイメージだ」
とりあえず、ファイアーボールに魔力を注ぎ込む。大きくなーれ、大きくなーれ。
ヨハンさんが山賊さんと話している間に、私は巨大なファイアーボールを作ることができた。
でも、正直にいえばもう支えられない。暴走しちゃう。
「今だ!」
ヨハンさんの声でファイアーボールを手から放しても、遅くて進まない。やっぱり失敗したんだ。
「ぎゃはは、そんなものが当たると思ってるのか」
山賊さんの言うとおりです。こんな遅いファイアーボール意味がない。
私がそう思っていると、ヨハンさんは両手に魔法を発動させて私の魔法と合わせて山賊さん達に攻撃しました。
そんなことができるなんて知らなかった。
目の前で繰り広げられている出来事が信じられなくて、私が唖然としていると、フリードと一緒にランスさんが現れて山賊を倒してくれました。
その後はメイちゃんのお世話したり、スパイとして捕まったり大変でしたけど、任務を終えた私が思ったことは、ヨハンさんについて行こうと思いました。
優しくて、ご飯がおいしくて、魔法の使い方をたくさん知っていて、でも不器用なヨハンさんから目が離せないから。
「リン、行くぞ」
「お供します」
私はヨハンの行く所についてきます。
いつも読んで頂きありがとうございます。




