遭遇戦
帰りの道すがら、振り返りアイゼンの地を見る。短い間ではあったが、故郷へ帰った意味があった。
辺境伯との出会いは、伝説を垣間見れることになり、実在する伝説は存在感が半端なっかった。
そして化け物の存在。それは魔族化の片鱗なのかわからないが、まだ自分が知らない世界が存在することを思い知らされた。
最後に親父は凄かった。バカだバカだと思って居たが、親父は凄かった。大事なことなので二回言っておく。
あの丘で親父に見せられた力はこれからの俺にとって必要不可欠な力だ。
「色々ありましたね」
リンが俺と供に二人乗りをすると言ったので、リンは俺の前に乗っていた。
ルッツの顔が鬼のように見えたが、無視しておく。何を考えているのかわからないが、12歳の幼女に欲情して睨まないでほしい。
「ああ」
俺の短い返事にリンは満足そうな顔をしている。
何かを言わなくてもリンには気持ちが伝わったような気がして、気恥ずかしくなる。
半分ほど来たところで、乗馬スキルも4まで上がり、リンを乗せていても苦にならなくなった。
「一度小休憩としよう」
ガッツから休みを告げるのは珍しいと思いながら、すでに一刻ほど走っているので休憩はありがたい。
「ルッツ、ちょっと来てくれ」
ガッツが最後尾を走るルッツを呼び、ガッツが何かを警戒していることに気付いて探索を発動する。
左の目にオレンジ色の団体が映し出される。どうやら敵になりそうな団体が先を歩いているようだ。
「どう思う?」
「辺境伯様が仰られていた共和国では?」
「うむ。私もそう思う」
騎士ガッツはデカい声を小さくしているが、近くにいる俺達には丸聞こえだ。
ヒソヒソ話もデカいとは致命的である。
「ヨハン、ここより先に怪しい団体がいる。しばし様子を見ようと思うがよいか?」
「はい。ガッツ殿にお任せします」
「うむ。では小休憩をとりながら、一時様子を見る」
オレンジ色の点まで大分近くに来てしまっている。こちらが森でなければ向こうにも気づかれていただろう。
もし探索などのスキルを使われれば厄介だと思い、ガッツに進言してみる。
「向こうに探索のスキルを持っている奴がいてはこの位置ではばれてしまうのではないですか?」
「うむ。しかし、今動くのは危険だ」
ガッツの意見ももっともだが、辺境伯とあってからガッツの様子がおかしい。俺は自分の判断で、この位置は危険だと判断した。リンを連れ、馬を置いて密かに距離をとって身を隠す。
ガッツ達も俺の意見を取り入れてか、馬を森に隠して身を潜める。
俺がガッツ達から100メートル離れたところで、怒声が木霊す。
「キサマらそこで何をしている!」
それは団体から離れた位置で探索をしていた騎馬が、ガッツ達を見つけた声だった。
「止むおえん」
見つかったことに気付いたガッツは、探索兵を斬り捨て、馬で来た道を駆け抜けていく駆け出した。
一人が斬られたことに気付いた他の探索兵がガッツを追いかけていった。
残った団体さん達も森へと進路を変えて進軍をしてきた。
リンの口を塞ぎ気配断ちを発動する。身体を密着していれば、もう一人ぐらいは気配を消すことができる。
その間に考える。このままガッツをおとりにして団体が通り過ぎるのを待つか、それともガッツと供に応戦するか……
そんなことを考えながら視線を動かしていると、ガッツに置いて行かれたルッツが逃げ遅れて囲まれていた。
その瞬間に考えるを止めた。俺は跳び出して、魔法を発動する。
「サンダー!」
最速の魔法を使い、今にもルッツに斬りかかろうとしている奴を吹き飛ばす。
「お前!」
まさか俺に助けられると思っていなかったのだろう。ルッツは驚いた顔をしていた。
「いいから構えろ」
敵は三十人ほどの小隊だった。森の中なので、一本道でガッツを追いかけるため二列に並んだ隊列を組んでいる。
そこに隠れていたルッツを見つけた奴が襲い掛かってきたのだ。俺の行動に一斉に団体さんが向きを変える。
「ヤバいな」
俺は転身してくる団体さんに冷や汗を流すが、リンの魔法が発動した。
「ファイアーボール」
リンは俺が慌てる中、魔法準備をしていたのだ。この任務で成長したのは俺だけではないらしい。
ファイアーボールが団体に命中するが、進軍を止めることはできない。鉄で造られた盾が火の玉を払いのける。
リンの頼もしさに冷静さを取り戻した俺は、探索で相手の人数と場所を特定し、ある実験を開始する。
「リン、ルッツ、下がれ」
親父から教えてもらったのは能力は使いようだということだ。
それを実践するため、左目に探索を発動した状態で、左目に写る赤い点すべてに雷を落とすイメージを作り出す。
「サンダー!!!」
俺は精一杯の魔力を注ぎ、三十人全てに雷を叩きつけてやる。
鉄で造られた甲冑であろうと、雷を払いのけることはできない。むしろ鉄は雷の熱を吸収し、中の者を焼き切る。
「スッゲー……」
後ろからルッツの感嘆の声が聞こえたが、魔力を使い果たした。俺は勢力を使い果たし、膝を突いた。
「ヨハンさん!」
リンが慌てて俺を支える。
「大丈夫だ」
俺はリンに応えながら、左目で敵の残存を確認する。
「どうやら何とかなったらしいな」
とっさのこととはいえ、無茶をしたものだ。
「あっありがとう」
ルッツは照れくさそうに傍に来てお礼を告げた。
この任務の間、マトモに話す機会がなかったが、案外素直な奴だとヨハンはルッツを見直した。
「当たり前のことをしたまでだ」
俺は先程迷った自分を隠したくて、顔を背けながらそう告げるのがやっとだった。
「そうか、俺もお前のようにそう言える騎士になるよ」
そんな俺の照れ隠しを真に受けて、ルッツは誇らしげな顔で俺を見ていた。
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