襲撃
村長宅に向かった俺達は話し辛く黙ったままだった。
リンの俯いた顔が見えないため、どんな顔をしているのかわからないが、気を遣わせてしまっと思い、冷静さを取り戻してきた。
「すまないな。変なところを見せちまって」
「いえ、聴いてもいいですか?」
「なんだ?」
「お父様と仲が悪いんですか?」
「いや、悪くはなかった。親父には色々な遊び方や戦い方、斧の使い方も親父から習った」
「じゃあ、どうして?」
「俺が親父を裏切っちまったんだ。ランスと一緒にこの村を飛び出したから怒ってるんだろうな」
俺の言葉にリンは考えるように黙り込んだ。
そのうちに村長宅について、馬を預ける。村長の息子で、前は俺をアホ呼ばわりしていた奴だ。
「ヨハン、出世したんだな」
「ああ、頼む」
俺は適当に相槌を打ち、馬を預けて中に入った。親
父のせいで気分が悪い。中に入ると村長とガッツが話していた。
「本当に問題はないか?」
「はい。今のところ噂程度の出来事と、村人同士の争いはたまにありますが、問題にするようなことはありません」
どうやらガッツが村長に事情聴取を行っていたらしい。
俺も混ざった方がいいだろうが、今はそんな気分に慣れない。
「すみません。ただいま戻りました」
「うむ。どうした、顔色が優れないようだが」
「いえ、初めての馬に疲れたのだと思います。少し休ませていただきます」
「うむ。本格的な調査は明日からだ。今晩は早めに休め」
ガッツも俺の顔色を気遣ってか、休むことを承諾してくれた。
俺はそのまま与えられた部屋のベッドに倒れ込むように眠りについた。
リンは心配そうに俺の背中を見送っていた。
「引くな!」
「キャー!!」
「どうなっているんだ!!!」
怒声や悲鳴が聞こえてきて、俺は覚醒した。
夢かと思いながらも、目が覚めても声を荒げている者がいる。
「ヨハンさん!襲撃です」
「襲撃?こんな村を襲撃する奴がいるのか?」
「それが……村人が他の村人を襲っているんです」
「何っ!」
俺はリンの言葉に驚きながらも、支度を整えて家を飛び出す。
村長宅前にはガッツとルッツの二人が武器を構えていた。
「何があったのですか?」
「わからぬ。我々も村人が上げる怒声や悲鳴に気付いて先程目を覚ましたのだ」
ガッツの返答に俺は周囲の状況を把握しようとするが、村人同士で武器をぶつけ合い殺し合いをしている。
「この村にはこんな風習があるのか?」
「ありませんよ」
どうなっているのかわからないが、状況を知りたい。
誰か真面に話ができる奴はいないのか、ふと親父の顔が浮かぶが、首を横に振りありえないと思い直した。
アホなヨハンの親なんだ。状況を聞いても説明できるはずがない。
「とりあえず村長を探しましょう。この状況を説明してもらわねば」
「そうだな。俺とリン殿、ルッツとお主で別れるぞ」
前衛後衛の組み合わせを考えての分け方だろう。しかし、この状況でリンから離れるのは危険だと感じだ。
「すみません。リンは俺が連れて行きます。連携も取れているので、その方が安全だと思います」
「しかし、前衛がおらんで大丈夫か?」
「俺は元々戦士です。前衛ですよ」
「うむ。確かに私とルッツも連携はとりやすい。わかった。その案を採用する」
二手に変われて村長を探す。
別れた瞬間に目が虚ろな男がリンに襲い掛かる。
「リン、危ない」
俺は咄嗟にリンを庇い斧を振るう。
男をとっさだったのでスマッシュを使ってしまった。
男を見ればすでに絶命しているようだ。
「すみません!」
リンは慌ててロッドを構えて態勢を整える。
この状況では一人の人間を探すのは困難だ。何よりどこから攻めて来られるのか、誰が敵なのかわからない。
「リン、俺の家に行くぞ。村長がどこにいるのか分からない以上。親父かお袋に状況を聞く」
「はい。お供します」
嫌々ではあるが、見知った人物に話を聞くしかない。リンと供に背中を預け合うように警戒しながら歩き始める。
俺が先導して歩くが、リンの見えていない範囲を見るためにいつも以上に警戒を強める。
「オヤジー!」
俺の家が見えてくると、オヤジが三人の男達に取り囲まれていた。
暗くて誰が誰やらわからない状況でも、親父の存在だけはわかった。
俺は必死に翔る。右手に炎の魔法を唱え、一人の男を灰にする。左手で手投げ斧を掴み、もう一人に投げつける。リンからも魔法を唱える声が聞こえてきた。
「来るんじゃねぇ!」
「キャー!」
オヤジの声が響くと同時に、リンから悲鳴が上がる。俺は一瞬迷った。迷って振り返り、手投げ斧をリンに襲い掛かっている奴に投げつける。
もう一度振り返ると、男を斧で真っ二つにしている親父がそこにいた。
「オヤジ……」
俺は呆気にとられて、呆然としてしまう。
「バカ息子!ここは戦場だ。ボケッとするな」
オヤジの叱咤で俺も意識を覚醒させる。
「うるせぇ!息子が親父の心配して何が悪い!」
「はっ。バカ息子に心配されるほど、俺はヤワじゃねぇよ」
そう言う親父は傷だらけだった。今まで家族を護って戦っていたのだろう。
親父の後ろに家が見える。お袋や弟たちは中にいるのだろう。
「いいから、黙れよ。ヒール」
俺はオヤジの傷口を回復させる。
「回復魔法が使えるようになったのか、そういえばさっきも炎の魔法を使っていたな」
あの状況で俺のことが見えていたらしい。
「王都で生きていくためだ」
「そうか……」
オヤジはそれ以上質問をしてこなかった。ただ黙って回復されるのを待っている。その間も村の方に視線を向けているのは、警戒を解いていないからだろう。
オヤジのこんなにも精悍な顔はヨハンの記憶にもなかった。
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