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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
騎士になるには兵士から
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故郷アイゼン

今回はちょっぴりしんみりです。

 アイゼンまでの道のりは、徒歩でだいたい一日半、馬車を使えば一日ぐらいかかる。

 今回は騎士であるガッツの配慮で、馬が使えることになった。ガッツが馬を急かせたことで半日ほどでアイゼンまでついてしまった。

 ちなみに乗馬スキルはなかったので、スキルポイントを使って乗馬スキルを修得した。

 修得したことで、なんとか一人で乗る事ができたのはよかったが、同じく馬に乗ったことがないというリンは、ルッツに乗せてもらい、恥ずかしそうにしていた。

 俺が初心者であり、ルッツが二人乗りだったこともあり、先頭はガッツ、次に二人乗りのルッツ、そして俺の順番で隊列を組んでいる。


「そんなへっぴり腰で馬に悪いと思わんのか!」


 初心者である俺にも容赦なく怒声が飛んでくる。

どうやらガッツの基準では、俺は軟弱な奴と言うレッテルが貼られたらしい。


 村に着く頃には乗馬スキルが3になっていた。騎士様はどうにも初心者を優しく指導する気はないらしい。

 自分なりに考え、悪戦苦闘しながらなんとかここまで辿りつた。それも借りた馬がよかったのだろう。

 騎士殿の悪辣なスピードにも振り落すことなく運んでくれたのだから。


「ついたな。まぁ今回は初心者がいたので、ゆっくり向かってきたが、次からは倍速で駆け抜けるぞ」


 どうやら気は遣ってくれていたらしい。


 それよりもアイゼンの街を見下ろせば、のどかな風景が広がっていた。辺境と言っても辺境伯が納める村なのだ。帝国からの侵略を退けるため、それなりに戦闘慣れした村人とそこそこ発展している村が広がっている。


「辺境と言ってもそれなりの町を形成しているではないか」


 王都の発展に比べれば慎ましいの一言に尽きるが、田舎とはこういうモノだと思う。王都住まいの三人には珍しいらしい。


「ガッツ様、村に入る前に小休憩をとりませんか、ここまでの旅でリン殿がお疲れの様です」


 ルッツの言葉にリンを見れば、確かに蒼い顔をしていた。馬酔いでもしたのだろう。ルッツは紳士を装い水を渡しているがリンは丁重にお断りしていた。


「うむ。では、一旦休憩とする」


 ルッツには甘いらしく。ガッツの宣言で休憩に入る。

改めてタオルと水を持って行ってやると辛そうに息を整えていた。


「大丈夫か?」

「すみません。ご迷惑おかけします。慣れない人の近くに居たので、緊張してしまって」


 どうやら馬酔いではなく、ルッツ酔いだったらしい。

二人乗りで神経をすり減らしてしんどかったようだ。


「ここからは距離がそれほどない。俺の馬に乗るか?大分慣れてきたからリン一人なら乗せてやれるぞ」

「本当ですか?お願いします」


 先程までのしんどそうな顔が一気に晴れ渡る。相当な人見知りなのだろう。もう少しリンを気遣ってやらなければならないなと思った。


「そろそろ出発するぞ」

「リンは私の方に乗せます。ご迷惑おかけしました」


 自分の補佐は自分で見るとアピールすることで、リンが言い出したと言わないようにしておく。どちらにも非がないようにだ。


「わかった。素人なのだ無理はするなよ」


 ガッツは興味無さそうに、ルッツは飄々とした雰囲気とはうってかわり鬼の形相で睨んできた。気付かないふりをしておく。


 アイゼンの村まではそこから半刻ほど走ることでついた。

リンは前に乗ってもらっているので、後ろから抱き締めるようなかたちになっている。

 大人しくしてくれているので、問題はないが、逆に固くなりすぎて落ちないかと心配になってしまった。


「到着だな」


 アイゼンの村と言っても大きな柵と門で覆われているので、入るためには門に呼びかける必要がある。


「王都エリクドリアより参った。騎士ガッツである。連れは供に王国に仕える者なり、ある調査のためアイゼンに参った。どうか門を開けてほしい」


 ガッツの声は相変わらず、怒鳴り声でうるさいほどデカい。


「王都から!!!しばし、待たれよ」


 一人の門兵が他の門兵に村長を呼んでこいと叫んでいる。

あれは誰だろう?村の奴なら知っているはずだけど。ここを出てからまだほんの二年ほどなのに何も変わっていない。

 ランスと供に冒険者になるために街に出て、随分と出世したものだ。


「これはこれはよくぞ御出で下さいました。私がアイゼンで村長をしておるものです」

「うむ。私は王都エリクドリア第一騎士団副団長ガッツである。此度はある調査のため、ここを訪れさせてもらった。スマンが一泊の宿を貸してはくれぬか?メシや水などは自身で賄うため所望せぬ、雨風が凌げればいいのだ」

「それは構いませんが……本当に何も用意しないで大丈夫なのですか?」

「ああ、我々は調査のために来たのだ。歓迎を求めてはいない」


 ガッツはどうやらお堅いらしい。本来の調査団というのは、村に着けば横暴な歓迎を求め、貧しい村をさらに困窮にしていくものだ。

 しかし、ガッツは自分達のことは自分達ですると村人のことを考える。悪い人ではないのだろう。


「わかりました。では、我が家をお使いください。手狭ではありますが、雨風は凌げますので」

「かたじけない」


 村長に招かれて中へと入って行く。

村に入るまえにフードをかぶっているので、相手にはわからないだろうが、俺から見れば見知った顔ばかりだ。

 王都から来た騎士を一目見ようと人が集まってきている。


「あっ!お前!」


 少し離れたところで俺を指差している男がいた。

歳は30台半ばぐらいの中年で、筋骨隆々として精力的なオッサンだ。


「ヨハンだろ!」

「うん?」


 俺の名前を呼んだことでガッツもその男に気付いたらしい。


「お主の知り合いか?」

「父親です」

「なっ!そうか、ここは貴殿の故郷か」

「はい」

「ヨハンさんのお父様!」


 ガッツは行って来いと片手を振り、リンはなぜか髪を整え出した。ルッツは我関せずと前を向いている。


「しばらく離れます」

「うむ。村長の家で待っているぞ」


 俺は馬を転身させ、父親の方に足を向ける。

リンも乗ったままでいいというので、供に乗せたままだ。


「お久しぶりです。父上」


 俺は礼儀正しく挨拶をした。


「お前、本当にヨハンか?どこかで頭でも打ったんじゃねぇか?それとも頭がおかしくなったのか?」


 オヤジはそんな俺を見て鼻をほじりながらアホにしてきた。

この男はいつもそうだ。アホなことを平気でやってのける。どこまでいっても知識3のヨハンの親だ。


「私は頭など打ってはおりませんよ。王都に行って勉強しただけです」

「はっ、アホがいくら勉強してもアホなだけだ」

「私はアホではありません」


 ヨハンの感情が一気に膨れ上がる。バカには反応しないくせにどうしてアホには反応するんだ。


「はっ、お前が何をしに帰ってきたか知らんが、村に迷惑をかけるんじゃないぞ」


 それだけ言うとヨハンの父は背を向けて歩き出した。


「あんたに何が分かる」


 俺から漏れた声はリンにだけ届いた。しかし、リンは何も言わずに顔を俯かせた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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