表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
237/240

二冊目の聖典

この話もいよいよ大詰めです。この話を入れて、あと四話ほどで完結になりますので、どうぞ最後までお付き合い頂ければ嬉しく思います。



 部屋を出ると、部屋の中からフリードの嗚咽が聞こえてきた。それは小さく押し殺すような鳴き声だった。その声を聞きながら、部屋の前で待っているシェーラを見て、ヨハンは苦笑いをしてしまう。


「私は退かない」


 シェーラの瞳は、覚悟に満ちていた。その瞳には、絶対に退くことはないとヨハンに伝えていた。ヨハンは大きく息を吐き、口元には笑みを浮かべる。


「最後になると思うが、付き合ってくれるか?」

「もちろん」


 ヨハンは頷いた。ランスが殺され、ジャイガントが逝った。サクが願い。リンが生きるこの世界を守らなければならない。最後に見守る者が一人居てもいいかと思えた。何より、ヨハンの考えが正しければシェーラの存在は必要になってくるだろう。


「命はないぞ」

「あなたと共に最後を迎えるなら、リン以上になれる」


 シェーラがそんなことを言うと思っていなかったので、ヨハンは笑ってしまう。


「ありがとう」

「生涯の伴侶はリンに譲ったけど。ヨハン様の最後を共に迎える権利は、もう他の誰にも譲らない」


 それはシェーラが見せた女として意地なのかもしれない。


「お前はバカな女だな」

「そんなことはない。私は最初から一途なだけ」


 シェーラは初めて、ヨハンの腕に自らの腕を絡めた。その表情は感情の乏しいエルフとは思えないほど嬉しそうな表情をしていた。ヨハンもそれを振りほどこうとはしない。今の二人を見ても、リンは嫉妬もしてくれないだろう。

 

「そうか、なら最後の戦いを始めよう」


 ヨハンはシェーラと腕を絡めたまま、ターバンもせずに教会が管轄する地域を歩いた。もう何も隠すことはない。まるで恋人のように歩く二人は、瞬く間に教会の騎士たちによって取り囲まれる。

 教会に入るための長い階段の前に作られた広場で、数十人の騎士や兵士に囲まれたヨハンとシェーラの表情は笑っていた。


「ヨハン・ガルガンディアだな。聖女アクア様がお前をお呼びだ。我々についてきてもらおう」

「案外と舐められたもんだな。この程度の奴らで俺を捕まえられるとでも?」

「そうね。私だけでも倒せそうだわ」


 ヨハンとシェーラの言葉に、騎士たちは憤慨して武器を抜く。しかし、その動作すらヨハンからすればスローに動いているようにしか見えない。

 

「雷切り」


 それは指先ほどの稲妻を、空気中に走らせただけだ。それだけで武器を抜いた騎士たちは意識を奪われることになる。


「指一本もいらないな」


 ヨハンは無詠唱で今の魔法を使って見せた。騎士の周りに控えていた兵士たちは、その光景に後ずさり、二人の動向に警戒せずにはいられなかった。


「どうした?かかってこないのか?」


 ヨハンが一歩進めば、兵士たちは二歩下がる。警戒して恐れをなした者に、ヨハンが手を下すまでもない。


「その辺にしていただきましょうか」


 教会の入り口にある巨大な扉の前に、聖女アクアが降臨する。兵士たちは聖女に向けて頭を下げていき、ヨハンとシェーラだけが聖女を見上げるように立っていた。


「会うのはこれで何度目だ?アクア」

「聖女をつけていただけませんか?ここは公共の場です。信者の方たちも見ていますので」


 ヨハンの発言に、信者たちはヨハンを今にも射殺しそうな視線を向けてくる。


「俺は信者じゃないんだ。敬意払う必要はないだろ?」

「それはそうですね。では場所を変えるというのではいかがでしょうか?」

「教会に入るのは嫌だぜ。どんな罠が待っているかわからないからな」

「本当にあなたは厄介な人ですね。ここまで多くの人が私の前にひれ伏してきたというのに」

「俺がひれ伏すかどうかは、アクア次第だろ」


 アクアとしても、このままここで話していても問題はないのだが、余計な邪魔が途中で入ることが嫌だったので階段を降り始める。


「あなたの好きなところで話しましょう」

「了解」


 ヨハンはジャイガントと戦った時のように亜空間を作り出した。自分とアクア、それにシェーラを亜空間の中へと招待する。


「随分と殺風景な場所へ招待するのですね」

「ここなら誰の邪魔も入らないからな」

「そう、あなたの腕に巻き付いている虫はなんです?」

「私は虫じゃない。ヨハン様の最後の女」


 シェーラの言葉にアクアのこめかみがピクリと動いた。


「確かあなたにはリンという奥方がいたのでは?」

「ああ、お前によって浄化されたらしいがな」

「やはりあの男はあなたの下へ戻ったのですね」


 フリードがヨハンに情報を与えたことがわかったアクアは冷静さを取り戻したようだ。こめかみの動きが止まった。


「なぁ、教えてくれないか?お前が見つけた聖典は説明書と書いてあるんだろ?なら、俺のことが書いてあったのか?」


 ヨハンは自分のなかにある知識を呼び起こしていた。『騎士になりて王国を救う』の説明書に、ヨハンは登場しないはずなのだ。何よりヨハンという人物はあるキャラを攻略するときの回想シーンで出てくるだけで、ゲーム中にはほとんど存在しないはずなのだ。


「やはりあなたには意味がわかるのですね」


 アクアはヨハンの発言でどこか納得したような嬉しそうな表情になる。


「この説明書には、あなたのことは書かれていませんよ」

「ならどの聖典に書かれていたんだ?」

「本当に話が早いのですね」


 ヨハンとアクアの会話を、シェーラは理解できない。だが、ヨハンがアクアと対等に渡りあっていることに若干の安堵が生まれていた。もしかしたら、ヨハンは聖女に勝って二人で帰れるかもしれいない、そう思ってしまう。


「私が見つけた聖典は二冊です。説明書には、この世界本来の出来事が綴られていました。しかし、それは概要だけでした。では、もう一つにはどんなことが書かれていたか……この世界の分岐する歴史です」


 歴史という言葉に、ヨハンはやはりと思った。


「幾多も分岐する歴史、その中の一つにあなたのことが書かれていました」


 ヨハンは自分の推測が当たったことに内心舌打ちしたくなる。


「攻略本か」


 ヨハンの呟きにアクアは驚き、シェーラは何を言っているのかわからない顔をする。


「知っていたのですか?」

「いや、推測しただけだ。まぁあんたの反応から間違ってなかったみたいだな」

「そうです。私が見つけた聖典の名前は攻略本です。そして私はこの聖典を手に入れたことで、新たな力を手に入れた。この世界をあるべき姿に戻す力を、それは神の啓示なのです」


 アクアの表情から感情が消える。それはヨハンを浄化するためにアクアが別の人格へと変わったようだ。それを見たヨハンは、自らのステータスを開き、冥王を倒したことで得たスキルポイントを一つのスキルへと割り振った。

いつも読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ