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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
騎士になるには兵士から
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嬉しい誤算

 王様の沙汰を受けた俺達は、多くの兵士たちに謝罪を受けた。

疑わしそうな顔をしている奴もいたが、ほとんどの者が自分達の非を認め、俺とランスを受け入れてくれたのだ。

 

 フリードは気ままな冒険家業が性に合っていると、兵士ではなく金貨十枚をもらっていた。

 リンは家族を養いたいという思いで仕官を選んだ。ある程度安定した給料をもらえる状況を選んだ。

 今回の任務は良いこと尽くしだが、マルゲリータには睨まれるかたちになって、うっとうしいことこの上ない。

 ちなみにマルゲリータは第三魔法師団団長の任を解かれ、ミリューゼ様付き近衛隊に専念することになった。


「言っただろ。良いことがあるって」


 王国には第一から第三までの三つの大きな軍が存在する。

それぞれに大将軍が居り、また手足となる将軍、参謀を抱えている。


 俺が所属している第三師団は大将軍に姫将軍の異名を持つミリューゼ様が居られ、その下の将軍に六羽の面々が続き、それぞれの騎士団、魔法団の団長が続く。

 従士隊は騎士団の小間使いであり、次期騎士に上がる者達だ。普通の兵士と分けられ、騎士教育のために世話役である従士として働くことになる。

 騎士を約束されたようなものだが、ほとんどが貴族の次男、三男で構成されているので、平民にはきわめて狭き門だと言われている。


 第一軍に所属となったランスと宿舎に向かって歩いていた。

第一から第三までの宿舎は少し離れているだけでほとんど変わりはない。


 俺の第三軍で大まかに説明しておくと、第三軍は王女様を将軍とした軍事団体であり、第三近衛師団、第三騎士師団、第三従士隊、第三魔法師団、第三魔法隊の五つの隊でできている。

 第一や第二も似たような構成らしいが、それぞれの特殊部隊が存在するらしい。

 第三部隊の特殊部隊は近衛師団であり、そこに務めているのが六羽と呼ばれる戦乙女たちだ。

 騎士団と魔法師団の団長は近衛騎士団の乙女が担当していたが、今回のことでマルゲリータが失脚したため、もう一人の方も身を引いたらしい。


「これが良い事か?なんだが釈然としないがな」

「そうか?人助けをして、王様に認められる。そのおかげで出世して騎士に近づいたんだ。良い事だろ?」

「それはそうだが、俺が理想としてる騎士が遠くなった気がする」

「どんな夢を抱いていたか知らんが出世するためには金がいる。貴族でもない俺達じゃ金がない。そんな俺達にできることは我武者羅に努力することじゃないのか?」

「そうだな。ヨハンの言うとおりだ」


 ランスは熱い奴だ。理想があり信念がある。汚れ役になるのは俺だけでいい。



「それに騎士に成れれば何でもいいじゃねぇか、安定した金は入るし、お前が大好きな修行もできるしな」


 最後の言葉にランスは釈然としない顔で歩いていた。

何を拘るのかと問いただしたくなるが、ランスの考えは俺にはわからない。

 ヨハンなら分かったのかもしれないが、すでに俺の中でヨハンは意志でしかない。


「とりあえず、今の環境で頑張るしかないんじゃないか?」

「まぁそうだな。俺が求める騎士も俺がかわらなければ問題ないだろ」


 ランスもなんとか折り合いをつけたらしい。


「それじゃ、次で会うのは戦場だな」

「そうだな。それぞれ忙しくなるから今回みたいな冒険者との副業もできなくなるだろうしな」


 まぁランスは特別任務とか遊撃隊として活躍することになるだろうがな。


 俺はこれからのランスの活躍を楽しみにしていた。


「ここ一旦別れだな」


 そういうとランスは握手を求めてきた。


「それじゃな、ヨハン」

「おう。頑張れよ」


 俺達は握手を交わし、それぞれの宿舎に向かうため背中を向けて歩き出した。


 宿舎に戻って来ると、相変わらず貴族の屋敷かと思う。

しかし、どこかいつもと雰囲気が違うと感じ恐る恐る扉を開いた。


「「「おかえりなさいませ、副長!」」」


 扉を開けると、緑色の法衣を纏った男女が声を揃えて俺を出迎えてくれた。

今まで顔も見たことがない奴ばかりだ。第三魔法師団に配属されて初めてこれだけの人を見たかもしれない。


「なっ、なんですか、これ?」


 俺が戸惑っていると、ジェルミーが中央の階段を下りてきた。


「良く帰った。ヨハン」


 そこには無表情で神経質そうだった顔はなく。笑顔である。ハッキリ言って似合わない。


「えっと、副長?」

「今は私が団長だ。我々のことを解放してくれてありがとう」


 ジェルミー新団長は目の前まで来ると、握手を求めてきた。


「えっと……どういう意味ですか?」


 何となく察しはできた。しかし、言葉にされなければわからないこともある。


「我々は元団長であるマルゲリータ殿にずっと不満を抱えていたのだ。しかし、彼女は伯爵家のご令嬢であり、王女様の側近だ。我々の口から直接何かをいうことは憚れた」


 ジェルミーの後ろで何人かの魔法師団のメンバーが頷いていた。


「まぁ我々には貴族としての立場がある手前できなかった。しかし、平民であるヨハンがそれを成してくれた。第三魔法師団に配属され、肩身の狭い思いをしていた貴族も平民も、これで自由に研究や魔法の実験が行える。本当にありがとう」


 どうやら、ヨハンが初日に指摘した点は誰もが思っていたことだった。

しかし、マルゲリータの抑圧があっため、あれほど面白くないミーティングが出来上がったと言うことだ。


「皆さん苦労してたんですね」


 俺の言葉に何度も頷き、感動を分かち合うように近くの者と抱き合う者までいた。


「ここにいるのは本当に魔法を愛し、研究したいと思っているものが多いのだ。まぁ私もその筆頭だがな」


 ジェルミーは本当に嬉しそうに片目をつぶる。

オッサンのウィンクなど嬉しくもないが、まぁ悪い気もしなかった。


「あの~俺って副長らしいんですが、皆さんそれでいいですか?」

「もちろんだ。誰もそれに意を唱える者はいない。皆自分のことが自由になればいいんだからな」


 嬉しそうなジェルミーの後ろで誰もが納得した顔をしていた。


「自由にしててもいいんですか?」


 俺の言葉にジェルミーも他の師団メンバーも笑顔になる。


「若いんだ。好きにしろ」


 ジェルミーはバンバンと俺の肩を叩き、またそれは他のメンバーも同じだったようで、子供の俺を頼りたいと言う人はいなかった。むしろ、俺よりも年上なんだから頼れと言いたそうな人ばかりだったのだ。


「ここっていい人ばっかりだったんですね」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべる。


「そうでもないさ。皆、自分のことで精いっぱいなんだ」


 ジェルミーはそれだけ言うと。


「さぁ解散だ。みんな自由を手に入れたからって無茶な研究はするなよ。国のためになる研究をしよう」

「「「はい」」」


 清々しい顔で、解散していった。


「ジェルミーさんは最初からこれが狙いですか?」

「いや、期待以上だ。本当は君がどこかで失敗して団長が失脚しれくれればもうけものぐらいだな。まさか大成功して失脚させられるとはな」


 ジェルミーは嬉しい誤算だと笑っていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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