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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
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ランス王国本陣潜入

 シェーラが泣き止むまで、二人は同じ天幕の中で抱き合っていた。それはあまり長い時間ではなかったが、それでも二人で過ごす時間は、ヨハンにとって気持ちが落ち着く時間となった。ずっと重くのしかかっていた心の中の重りが、少し軽くなったとヨハンは思えた。


「シェーラ、ありがとう」

「いえ、私の方こそ涙を見せてしまいすみません。辛いのはヨハン様なのに」

「いや、俺のための涙なんだ。嬉しく思う。ありがとう」


 ヨハンは泣き止んだシェーラの体を優しく離し、綺麗な金髪をゆっくりと撫でる。柔らかな感触が手のひらに帰ってきた。


「シェーラのお陰で落ち着くことができたよ。ちょっと自分に余裕がなかったみたいだ」

「お役に立てたならよかったです」


 シェーラに慰めてもらうことになるとは思っていなかった。自分の不甲斐なさと、彼女にかけた心配は仕事で取り戻そうと思う。


「ああ、今度は俺がシェーラの役に立つ番だ。ランス王国の現状を調べてくるよ。布陣と敵将の居場所ぐらいは掴んでくるからね」

「ご無理はなされませんよう」

「大丈夫さ。俺にはテレポートもあるからね」

「はい。ですが、何か嫌な予感がするのです。もう会えなくなるような」

「大袈裟だな」


 ヨハンはもう一度だけシェーラを強く抱きしめた。それは親愛の証であり、彼女への感謝の気持ちだった。最愛の人はリンに変わりはない。それでも彼女がいてくれて、本当にありがたいと思えた。


「どうか、ご無事で」

「ああ、必ず戻ってくるよ」


 ヨハンは簡単に装備を整え、精霊王国連合の本陣を後にした。アイテムボックスにある程度の道具は入っているし、冥王ほどの強者はもうこの世界にいない。

 ならば、偵察など軽いものだとヨハンは、シェーラのことを考えながらランス王国の本陣へと足を踏み込んだ。すでに気配断ちのスキルを発動しているので、同じ隠密行動を取る者でも容易にヨハンに気付くことができないようになっている。


「ランス王国の戦術は相変わらず、王道をいくか」


 ランス王国の指揮官を務めるのは、女王ミリューゼ本人だ。彼女は小細工をしないタイプだと、ヨハンは思っている。それは真面な性格と王者として育てられたからなのだろうと推測する。

 ランスが居ればもう少し遊撃を多くしたり、臨機応変に対応できる部隊を置いておくのだろうが、ランスはもういない。その辺はセリーヌが指揮をする影たちが代わりに行っているのだろう。


「さっそく調べさせてもらうか」


 戦争において一番重要なのは兵糧である。相手がどれほどの備蓄があり、いったい何日戦う気で来ているのかを見定めなければならない。さらに布陣を見て、どんな戦いを好むのかを判断する。そこから弱点を突くために必要なことは何かを考えるのだ。

 さらに重要なのが、戦いを終わらせるために総大将の居場所を知る必要がある。総大将を見つけることができればその場所を攻めて大将を討てれば、どんな困難な状況でも打開できる。


「食料は三カ月ほどか、この規模の遠征ではかなり少ない方だな」


 ミリューゼはランス王国の全兵力と言ってもいい十万の軍勢をつれてきている。それは精霊王国連合との戦いを終わらせるための兵力であることに間違いない。それに対する兵糧が三カ月分では随分と少なく感じる。何よりこの戦争の目的はランスの仇を討つことであり、その仇とはヨハン自身なのだ。こうやって潜入してはいるが、敵の目的である人物が目の前にいて、捕らえることができればこの戦いは終わるのではないかとヨハンは考えてしまう。


「自分が投降すれば、戦争は終わるか……そろそろ夜も老けてきたな」


 ヨハンは自分の考えを打ち消して首を振る。夜になれば見張りの交代がある。それ以外の兵士たちは、酒を飲み英気を養う時間となる。そうすれば紛れ込んだヨハンでも、気の緩んだ兵士たちから話を引き出しやすくなる。


「情報収集といきますか」


 兵士の一人を眠らせてランス王国を現す鎧を盗んだ。準備を終えて兵士たちが寝泊まりしているであろうテントへと入っていく。数十名がいっぺんに眠れるほど大きなテントでは、眠っている者もいたが、チラホラと酒を飲み談笑してる兵士がいる。


「お疲れ様です」


 ヨハンは若い兵士を装い、酒を飲んでいる兵士たちに近づいていく。


「おう、お疲れさん。まぁ疲れたといってもにらみ合いが続いてるんだ。疲れることもないだろ」


 受け答えをしてくれた男に見覚えがあった。ヨハンとランスが初めて志願兵となったとき受付にいたドリーという兵士だ。スマートな男だと思った人だ。


「この戦争はいつ終わるんでしょうね?」


 ヨハンは新兵らしい不安そうな声で、ドリーに問いかけた。ドリーはヨハンを心配するように優しい声になる。


「大丈夫さ。ミリューゼ様がいる。あの方はこの国は始まって以来の才女だ。俺たちが思いもよらない方法で仇敵ヨハンを見つけ出して、ランス王様の仇を討ってくださる」


 ドリーはランスを慕っていたのだろう。心のそこから憎い相手を語るようにヨハンの名を口にする。


「そうですね」


 ヨハンは曖昧に相槌を打ちながら、ミリューゼの居場所や布陣について説明を求めた。そこからいろいろな話をドリーから聞くことができた。ドリーは話すうちに酒が進み、眠ってしまったが、他の兵士たちが代わりに話してくれるので、必要な情報を集めることができた。

 彼らにはアイテムボックスから酒とつまみを提供した甲斐があったというものだ。


「早朝に仕掛けてみるか」


 ただ情報を集めるだけでは足らず、ヨハンはミリューゼに仕掛けてみる決意をして時を待った。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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