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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
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シェーラ

 ヨハンはランス王国と精霊王国連合が対峙する戦場へとやってきた。それは双子高山を挟むように行われていると思っていたが、ヨハンの目には双子高山が存在しなかった。ヨハンが作り出した第一ダンジョン事態が消滅してなくなっていたのだ。


「シェーラ!」


 精霊王国連合の本陣を訪れたヨハンは、総大将を務めるシェーラを訪ねた。シーラにエルフの里を任されるようになり、彼女は精霊王国の評議会の代表を務めるまでになっていた。今回の戦いでもシェーラは総大将を任されている。出会った頃は幼かった彼女も、今では立派なエルフの女性として、その美貌は美しく成長を遂げている。


「ヨハン様、来てくださったのでね」


 シェーラは部下のエルフに指示を出し終え、ヨハンを出迎えた。言葉足らずで、口数が少ない彼女も大人になることでしっかりとして物言いをするようになったものだとヨハンは感心してしまう。


「ああ、状況はどうなってる?俺にできることはあるか?」

「助かります」

「うん。だが、その前に教えてくれないか。双子高山にあった第一ダンジョンはどこにいったんだ?」


 ダンジョンが消滅してしまっているのだ。こんなことが本当にできるのか、ヨハンは現状を知ろうとした。


「すみません。私達にもわからないのです。私達が戦場を選びここに来た時には、すでに双子高山はなくなり、ただの野原になっておりました」

「では、アスナたちは?」

「それも……わかりません」


 シェーラは敵が何らかの方法で、ダンジョンを消滅させたと言いたいのだ。そのため、アスナはすでに敵により何らかの処置をされた後だと考えるの早いと言うことだ。


「そうか、すまない。辛いことを聞いたな」

「いえ」

「とにかく今はどうすればいい?」

「現状は睨み合いが続いています。そのため、情報がほしいところです」

「フリードは?」

「姿が見えません」


 ヨハンはフリードが聖女を調べていることはわかっている。まだ帰ってきていないということは、もしかしたらフリードに何かあったのかもしれないと不安に思うが、確かめる術が今はない。総大将はシェーラなのだ。隠密が得意だと言っても彼女がここから離れるわけにはいかない。


「わかった。俺がいこう」

「いいのですか?」

「まぁやることがあった方が気が楽だからな」

「気が楽?」


 親友の死とリンの失踪、ジャイガントとサクの死を連続して経験したヨハンは自分で思っているよりも精神に異常を来たしていた。シェーラはいつもと違うヨハンのことを変だと思った。


「ヨハン様、少しよろしいでしょうか?」

「うん?どうかしたか?」


 シェーラは真剣な表情で、ヨハンをシェーラが使っている天幕へといざなった。会議を行っている天幕では他の者の目もあるので、ここに移動したのだ。


「ここに座ってください」


 シェーラに促され、椅子へと腰を下ろす。座ったヨハンの顔はシェーラの胸が目の前にあった。


「うっぷ」


 シェーラの胸を見ていると、シェーラはいきなりヨハンの頭を抱きしめた。シェーラの行動を理解できないでいたヨハンはどうしたらいいのか、わからなくてジッと待っていた。


「ヨハン様、何があったのかわかりません。わかりませんが、あなたは一人で全て背負い込み過ぎます。初めてあなたと会い、私が助けを求めたとき、あなたは我が一族が助かると言ってくれた。そしてあなたの言ったとおり私の一族は助かり、私たちが安心して暮らせる場所をあなたが用意してくれた」


 シェーラと入ったお風呂のことを思い出す。あのときよりも少し膨らんだ胸は柔らかく、甘く優しい匂いがヨハンを包み込む。それは女性特有の匂いで、ヨハンはドキッと胸が脈打つのを感じた。


「あのときから、あなたは一人でたくさんの背負ってきた。ガルガンディアの地と民、エルフやドワーフなどの他種族の人権、王国を守るための食糧確保や策略などさまざまなことをあなたは実現してきた。あなた自身は休まず、精霊や魔族が暮らせる国まで造ってしまった。無理をしてませんか?リン殿にちゃんと甘えていますか?もしも……リン殿がいないのなら、今だけでも私の胸で甘えるのはダメですか?」


 リンはヨハンを心配しているのだ。心配しているからこそ、辛そうにしているヨハンを見ていられなかったのだ。


「シェーラ、ありがとう。でも、俺は大丈夫だ」


 ヨハンはシェーラの腰に手を回して、体を離そうとする。しかし、シェーラは離れまいと強くヨハンを抱きしめた。


「私では話し相手にもなれませんか?」


 シェーラはヨハンを抱きしめたまま、耳元で囁くように優しく語りかけた。


「……はぁ~」


 間を置いてヨハンは息を吐く。それは思考の時間、シェーラに自分の思いを語るのか、それとも何も話さず何も告げないか、その答えをヨハンは思考し結論を出した。


「友が死んだんだ。子供の頃からずっと一緒に生きていた友が死んだ」

「……」


 シェーラはランスのことだとわかっても何も言わなかった。


「リンの行方がわからない」

「えっ」


 シェーラもリンの名前が出ると少し抱き絞める力を緩めた。それでも離れることはなかった。


「ガルガンディアの地で消息を断ったようなんだ。フリードが他の仕事とともに探してくれているはずだ」

「……そうですか」

「冥王との戦いで……ジャイガントが死んだ」

「ジャイガント殿が!」


 ジャイガントの死は、まだ死霊王と魔族たちしか知らないことだ。それを口することでシェーラにも動揺を感じられたが、ヨハンはやめることなく続きを語る。


「冥王に操られたサクをこの手で殺した」


 シェーラもサクのことはよく知っている。そしてサクがヨハンのことを好きだったこと、ヨハンもサクを大切にしていたことをだからこそ、ヨハンがどれほど辛い思いをしたのか理解できた。だからこそヨハンを抱きしめる力がさらに強くなった。


「シェーラ?」

「ヨハン様、ごめんなさい」


 彼女は涙を流していた。それはヨハンの心を思って流れ出した涙だった。


「ありがとう」


 ヨハンのために涙を流すシェーラに、ヨハンは離すために回していた手をゆっくりと腰へと回して抱きしめた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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