聖剣と魔剣 後編
黒と白の光が混ざり合うようにヨハンと冥王を包み込み、それは小爆発を生み出した。死霊王たちも包み込んだ光のエネルギーは、辺り一面に撒き散らされて荒野と化した戦場を包み込んだ。全てを飲み込むと輝きはゆっくりと収まっていった。
「いったい何が起きたんだ?」
死霊王が眩しい目を何度も擦りながら、ヨハンの姿を探す。しかし、冥王とヨハンがいるはずの場所には誰も存在しなかった。聖剣も魔剣も、ドレインチェーンも存在しなくなっていた。ただあるのはジャイガントが開けたものよりも、さらに大きな穴だけだった。巨大な穴は、二つの光の衝突の凄まじさを表すように深く広いものだった。
「ヨハン殿はどこだ!ヨハン殿を探すんだ」
死霊王は魔族たちに命令して、ヨハンの捜索を命じた。死霊王はヨハンの捜索をしたが、ヨハンを荒野と化した戦場で見つけることはできなかった。
では、どこにいるのか、ヨハンは死霊王と共に別の次元へ飛ばされていた。ヨハンが亜空間を作り出せるように、冥王もまた別の空間を支配している。その空間の名前は冥界。冥王が支配する世界であり、本来の冥王の体が存在する世界へヨハンは足を踏み入れていた。
「ようこそ、我が世界へ」
「ここが冥界?」
「そうだ。貴様は俺を通して、この世界にやってきた。貴様はやってくるべきではなかったな。貴様ほどの力があれば俺を除けば最強でいれたものを」
冥王の体は骸骨ではなく。黒騎士本来の鎧と体を持っていた。その手には赤黒い魔剣が握られている。
「俺は最強なんていらないさ。ただ、リンが生まれて、シーラや、ゴルドーや、みんなが暮らしている。そしてサクが愛した世界を救えればそれでいい」
「貴様は他人のために最強になるというのか?」
「それが必要なら、なるさ」
ヨハンは拳を握り、冥王に突き出す。
「くくく、なんともムカつく奴だ」
「そうかい?俺からすれば最初から最後まで俺の前に立ちはだかる、あんたの方がムカつくけどな」
黒騎士はヨハンの言葉に笑い、ヨハンは昔を思い出すように黒騎士と相見えた戦場を思い出す。二人が言葉を語り合う時間はもう終わりが近い。本当の決着をつけるため、ヨハンは右手に聖剣を、左手に戦斧を構える。使い慣れた斧を握ると、この構えが一番落ち着くと思えた。
「お前はやはり変わった戦い方をするみたいだな」
「俺は俺の戦い方をする。あんたが強いことは知っている。だけど、俺は負けるわけにはいかないんだ」
先手はヨハンの方から動いた。巨大な斧を振り上げ、黒騎士へ振り下ろす。黒騎士は魔剣で斧を受け止める。火花が散り、斧を受け止めた黒騎士に聖剣で下から上へと切り上げる。奇襲に奇策を巡らせる。
剣と剣の勝負では黒騎士に勝てはしない。だが、策や奇襲などを巡らせることは黒騎士よりも遙かに得意だ。なら得意な戦術へ巻き込んでしまえばいい。
「おっと」
「それで避けたつもりか?」
黒騎士が紙一重で聖剣を躱すが、ヨハンはサイコキネシスを使って鎖を放つ。ドレインチェーンのことを覚えている黒騎士は、鎖の動きに過分な反応を示した。魔剣を使い鎖を斬り捨てたのだ。
「冥王だったときのことが恐怖として残ったか?」
「ぬかせ!そんな小細工が俺に通じるか」
「そうかい、なら守り切れよ」
ドレインチェーンではない鎖も、アイテムボックスから出現させて、サイコキネシスで操る。そうすることで黒騎士はどれがドレインチェーンか分からないので、全ての鎖とヨハン自身の攻撃を防がなければならない。数はそれだけで武器になる。もしもドレインチェーンで黒騎士を捕まえられたら、冥界であろうとただで済むはずがない。
「舐めるなよ。ここがどこだか忘れたのか?」
ヨハンが鎖を操るように、黒騎士は魔剣を振り上げ、地面の中から死人たちを召還する。これは総力戦である。互いの全てをかけて、ヨハンと黒騎士がぶつかる最後の戦いなのだ。
死人がヨハンに群がり、ヨハンの鎖が死人たちを無力化していく。死人を無力化するためにドレインチェーンを使わなければならないため、どれが本物なのか隠しておくことができない。何より出し惜しみしている余裕を与えてはくれない。だから、ヨハンは一つだけ策を残しておいた。
「俺こそが冥界の王だ」
「お前が王なら、俺は侵略者でいい。お前を倒せるなら何にでもなってやる」
斧を振るい、鎖を操り、聖剣を突き刺す。ヨハンが黒騎士に向けて歩みを続け、黒騎士はふりかかる鎖を払いのけ死人を使う。二人が持てる力を使って、互いの全てをさらけ出す。全てのドレインチェーンが動かなくなり、全ての死人が地に戻った頃、黒騎士の鎧はボロボロになり、ヨハンの斧は折れて使えなくなっていた。
「最後の時のようだな」
「悠久にも思えたよ」
もう力など残っていない。それでもやらなければならないことはわかってる。
「二度とお前の顔を見ることはない」
「お前の顔は見たくないよ」
魔剣を振り上げる黒騎士、聖剣を突き刺すヨハン。全てを出し切った二人の刃は互いを貫く。先に膝をついたのはヨハンの方だった。やはり剣の勝負は黒騎士に分がある。
「どうだ!これで貴様の最後だ」
黒騎士が振り返り、ヨハンを見たとき、ヨハンの頭上には数千の武器が空中に浮いていた。その中にはジャイガントが使っていた。ミョルニルの姿もある。
「最後はお前だ」
ヨハンは片手をあげて振り下ろす。それだけで空中に浮いていた武器たちが黒騎士に向けて飛来する。数本を魔剣で弾いても、全てを躱すことはできない。
黒騎士の体へと刺さっていく武器たち、実態を持つ今の黒騎士には十分なダメージを与えるが、それでも倒しきれない。
いつの日もラスボスを倒すのは勇者の役目であり、それにふさわしい武器の役目だ。ヨハンは最後の力を振り絞り、聖剣を黒騎士の額へと突き刺した。
「本当にこれで終わりだ」
ヨハンは全ての力を振り絞り、黒騎士の全てを否定する。黒騎士は信じられないものを見るように驚いた顔をしていたが、すぐにヨハンの攻撃の意味を理解して目を閉じた。それは自らの滅びを悟ったようだった。
聖剣は再び白い光を発生させる。今度は黒騎士の抵抗する黒い光は存在せず、そのまま黒騎士の体だけを包み込み消滅させていく。
「俺の勝ちだ」
地に膝をついたヨハンは、冥界で意識を失った。
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