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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
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聖剣と魔剣 中編

 全身から血を噴出したヨハンは、すぐさま体中に回復魔法をかけて治療する。さらに、自動回復も上乗せすることで自ら回復することをやめた。スピードでも、技でも、力でも、冥王の方が上なのだ。それは剣を交えるたびに理解できた。ヨハンが勝っているのは魔力と言いたいが、それに関しても回復魔法や、肉体強化に使うだけで、冥王に向けて魔法を放っても効果を得られるとは思えない。


「俺を倒すのではなかったのか?」


 冥王はヨハンを見て落胆したような声を出す。ここまで戦えているだけで、通常ではありえないことではあるのだが、ヨハンでは冥王を倒すのに一歩及ばない。


「ああ、倒すさ」


 本当の英雄であるランスだったなら聖剣を使い、冥王を倒せていたのかもしれない。ヨハンは紛いものなのかもしれない。いくら嘆いてもランスはもういない。ここにいるのはヨハンだけなのだ。聖剣が認めてくれたのも、サクにこの世界を託されたのもヨハンなのだ。ヨハンがやらなければ世界は滅んでしまうのだ。


「なら、やってみろ」


 冥王は動くことなく、赤いエネルギーを刃に変えて飛ばしてきた。飛ぶ斬撃を聖剣で受け止めるが、一撃一撃が重く、ヨハンは動くことができないままジリジリと後退させられる。

 

「最初の威勢はどうした?もう終わりか?」


 冥王の挑発に、ヨハンもどうすればいいのか思考を巡らせる。スキルポイントは使い切った。新たなスキルを習得することはもうできない。

 

「どうやら打つ手はないようだな」


 冥王はヨハンが動きを見せないことで、もう終わりなのだと悟った。決着をつけるため、魔剣に力を込める。


「ならば潔く死ぬがいい」


 先ほどまでの斬撃よりも大きな刃がヨハンに襲い掛かる。聖剣で何とか受け止めるが、一撃目で聖剣を弾かれ、二撃目でヨハンを捉える。死霊王は目を剥き出し、ヨハンの最後を見つめた。

 しかし、ヨハンに当たる寸前、刃が聖剣ではないものに受け止められる。それはヨハンがアイテムボックスから取り出した鎖だった。


「やっぱり慣れない武器を使うよりも慣れた武器で戦った方が良さそうだ」


 ヨハンは鎖を巧みに操り、弾かれた聖剣を自身の下へ引き寄せる。さらに取り出した鎖を使い、冥王に攻撃を仕掛け始めた。


「小賢しい小細工だな。こんな鎖がなんだというのだ」


 ヨハンが使うのは、シールチェーンのオリジナル版であるドレインチェーンである。相手の魔力を吸い出し、スキルの発動を停止する。さらに体の自由を奪い動けなくするのだ。冥王に効くのかとヨハンも半信半疑だったが、手応えは確実にあった。


「サイコキネシス」


 今まで魔剣以外は実態が掴めないでいたが、ドレインチェーンは冥王の腕に巻き付いた。さらにサイコキネシスで鎖の巻き付く強度をアップさせる。


「ぐううう」


 ドレインチェーンに捉えられた冥王は、何が起きているのか理解できなかった。突然ヨハンの戦闘スタイルが変わり、聖剣以外の武器で攻撃し始めたのだ。冥王が知らない戦い方をヨハンが始めたのだ。ヨハンがこれまでどんな戦い方をしてきたのか、ヨハンにとっては元通りの戦いに戻っただけだ。


「なぁ、確かに剣術も、力も、技もあんたが上だよ。でもな、俺には俺の戦い方があるんだぜ」


 現代の知識を持っていたからこそ、今まで生きて来られた。科学の知識も、ドレインチェーンや、サイコキネシスも、現代の知識があったから使うことができた。冥王に負けないモノがある。


「動けるか?動けないだろ?あんたは剣の攻撃も、魔法の攻撃も効かない。それはあんたの肉体が、この場に存在しないからだ。あんたの本来の肉体は冥界、死の世界にあるんだろ?でもな、ドレインチェーンにそんなことは関係ない。お前の本質を捕まえ、精神体であろうと存在を許さない」


 ヨハンの見解を聞いて、冥王はしばし驚いた顔をした。


「ははははははははははははははは」


 そして唐突に笑い出した。それは暗く冥王としての笑いではなく、戦いを楽しでいるときの、ジャイガントのような笑いだった。


「面白い、面白いぞ。ヨハン・ガルガンディア。貴様は聖剣に頼ることなく俺と戦おうというのか。やってみるがいい。この冥王を殺せるというならば見せて見せろ」


 冥王は一切怯むことなく、ヨハンをにらみつけた。ヨハンは目を閉じ、覚悟を決める時間を取る。ドレインチェーンで動きを封じた冥王は、ヨハンの様子をにらみつけながら見つめていた。


「いくぞ」

「来るがいい」


 スキルも、魔法も、アイテムも全部使って戦う。アイテムボックスにあるだけのドレインチェーンを取り出して、肉体強化以外のスキルや魔法を発動する。ヨハンの気配が消え、爆発や暴風が吹き荒れる。冥王に通じなくても、ドレインチェーンが冥王に巻き付く隙を作り出す。

 決めるのは一瞬、ドレインチェーンは冥王のスキルを封印して肉体を具現化する。いくらオリジナルのドレインチェーンであろうと、魔剣を完全に封じることはできない。

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、冥王を実体化させるだけだ。だが、その一瞬で十分なんだ


「聖剣よ。真なる力を俺に示せ」


 全てを出し切り、それでもやはり魔剣を倒すのはいつの時代でも聖剣の役目だ。ドレインチェーンが巻き付く隙間から聖剣を差し込む。青よりもさらに目映い白い光が聖剣から生まれ、冥王とヨハンを包み込む。

 

「こんなもので俺を倒せると思うなよ」


 白い光に対抗するように黒い光が冥王から生み出される。それは魔剣が放つ赤い光ではなく、冥王自身から生まれる黒い光だった。白と黒の光が混ざり合い、二人の姿は光の中へと消えていく。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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