冤罪
牢にぶち込まれた俺は、こんなシナリオが合ったかと考えるが、心当たりがない。
俺が関わっているせいで、何かシナリオに変化があったのだろうか。それにしても黒騎士とマルゲリータはどういう関係なのだろうか。
そんなことを考えながら一日幽閉され、次の日の昼にお呼びがかかった。
「出ろ。王が会われるそうだ」
「はっ?王様?」
「そうだ。異例の事態だがな」
兵士に連れられて、俺とランスは謁見の間へとやってきた。
すでに連れて来られていたフリードとリンは膝を突いて頭を垂れていた。
「第三魔法師団所属ヨハン、門兵ランス連れてまいりました」
兵士の声に王座に腰かけるナイスミドルが頷いた。俺達は王様の前へと連れて来られ片膝を突いている。他の兵士は侮蔑を含んだ目で俺達を見ていた。
謁見の間にはミリューゼ様や、他のお偉いさんらしき人達がズラリと並んでいる。
その中にマルゼリータもいたが、こっちを見ようともしない。
「面を上げよ」
王の声に俺達四人は顔を上げる。
威厳に満ちた王の顔が俺達を見下ろしていた。
「お前達が何故牢屋に捕まっていたか、わかっいるな」
王の問いにフリードとリンは本当にわからないと首を横に振る。ランスは何となくマルゲリータの発言からスパイ容疑がかかっているのを察して何も反応しなかった。俺は口の中が乾いてくるのがわかる。
「身に覚えのない疑いをかけられたからです」
そんな俺に変わってランスが言葉を返す。美女が近くに居なければ素晴らしい行動力をもっている奴だ。
「ほぅ~主は身に覚えがないと?」
「はい。私達は休暇を利用して冒険者の仕事をしていただけです。規則に反することはしていません」
王様は俺とランスをジッと見つめてきた。ランスは頭を下げ、俺もそれに習う。
「ふむ。主の言い分はわかった。では、主らに沙汰を言い渡す」
王の無情な言葉に、リンやフリードは処刑台を待つ囚人のようだ。
俺だってそうだ。まさかこんなところでバッドエンドを向かえることになるなど思ってもいない。
「第三魔法師団である、ヨハンは第三魔法師団副長の座につける。また現副長であるジェルミーには第三騎士団団長を任せる。また、門兵であったランスは第一騎士団従士隊への配属を命じる。よいな」
兵士である俺達には階級昇進が言い渡される。
「へっ、は、はい」
ランスは何とか声を裏返しながらも返事をした。
俺も殺されるのでなければなんでもいいと頷く。
「謹んでお受けいたします」
落ち着いてから渇いたのどで言葉を絞り出した。
「うむ。冒険者であるフリードとリンに関しては望むのであれば、兵士へ取り立てよう。望まぬ場合は相応の報酬を渡してやる」
王様の言葉が終ると、項垂れていたフリードとリンが顔を上げる。何を言われたのか理解できなかったという顔だ。
しかし、言葉の意味が分かってくると二人は泣きだした。まだまだ12歳のガキなのだ。助かったことが嬉しいのだろう。
しかし、王の沙汰に対して驚愕し憤慨する者がいた。
「お待ちください。王様!この者達はスパイなのですよ。どうして昇進なのですか。何より第三師団の団長は私です」
マルゲリータが王の前であることを忘れているのか、感情的な物言いで言葉を発する。
「慎め、マルゲリータ」
王が諌めるよりも早くミリューゼ様がマルゲリータの発言を止める。
それは礼儀を欠いたマルゲリータの行動にではなく。王へ逆らってはいけないという意思表示だった。
「しかし!」
「ミリューゼよ。マルゲリータの言い分も理解できる」
ミリューゼの制止を辞めさせ、王が直々にマルゲリータを見据える。
「皆もどうしてこやつらが昇進なのか納得できまいて説明する。こやつらは我が国に宣戦布告をしてきた獣人王国に内通していたと報告があった。そのため尋問の上、処刑されるはずだった」
王が言葉を切ったことで、参列していた兵士は侮蔑の顔を、文官達四人を睨み付けた。
「しかし、昨日の夜に獣人王国の王、キングダムより和平の申し出がなされた」
王の言葉にざわめきがおきる。
一度発した宣言を撤回するなど、恥のようなものだ。しかし、それを押して獣王の決断を変えさせるほどの出来事があったということだ。
「キングダムからの書状には、我が国に所属する彼の者達に礼を尽くし、戦争の終結を申し出たいというもだった。それがこの四人だ。この四人は休暇を利用し盗賊を討伐しただけでなく。魔族化してしまったオーガを倒し、獣王の姫君を救い出したのだ。それに感謝し、キングダムは戦争の終結と侘びとして、迷惑料を持ってきた。この意味が分かるな」
王の言葉が終わり、マルゲリータが苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「はい。異国の姫君を救い。起こるであろう戦争を未然に防ぎ、王国にに利益をもたらしました」
「そうだ。もう少し褒美を与えたいところだが、こやつらも未熟の身だ。それを鍛える環境を与えることが褒美であると考えた。何か間違いはあるか?」
「ありません」
マルゲリータはそれ以上何かを反論することなく。下がった。
これはマルゲリータだけでなく。この場で詳しい事情を知らない者すべてに対して発した言葉だった。
噂だけで判断し、俺達に侮蔑を向けた者への戒めでもあった。
「では、四人の沙汰を終える。異論のある者は他におらぬな。下がってよいぞ」
常識人であるミリューゼ様の父親は、素晴らしい見極めのできる人だった。
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