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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
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冥王の正体

 リンの行方を見つけることができないまま、ヨハンの時間は尽きようとしていた。フリードが聖女アクアを調べに行った後、冥王の動きを確認するため、ヨハンはジャイガントたちの下へと戻った。

 ジャイガントたちは冥王と対峙し、ヨハンが帰るまでの時間を稼いでくれていた。ヨハンは二人の姿を見て、どこか安堵している自分がいた。


「今、戻った」

「ヨハン殿か、聖剣の方はどうだったのだ?」


 挨拶もそこそこに、死霊王がヨハンがいなくなった理由について聞いてくる。


「聖剣はダメだった。英雄ランスが死んだことで聖剣も死んだ」

「そうか、これで冥王の魔剣に対抗できるものがなくなったな」


 死霊王が落胆しているのが、ヨハンにも伝わってくる。


「ガハハハ、よいではないか。元々聖剣など借り物に過ぎん。無い方が当たり前なのだ。これで本当の意味でリベンジができるというものだ」


 死霊王の落胆とは逆に、ジャイガントは大笑いを始めた。


「この命、一度奇跡によって蘇ったにすぎん。いつでも捨てる覚悟はできておる」


 覚悟に満ちた男の瞳が、ヨハンと死霊王を捉える。ジャイガントはその命を燃やして戦おうとしているのだ。


「そんなことはさせない。俺がここに戻ってきたのは報告もあるが、二人に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」


 死霊王が怪訝そうな顔をしてヨハンを見る。


「ああ、冥王とは俺が戦う。だから、ランス王国を止めてくれないだろうか?」

「ランス王国?英雄が居なくなったのであろう?それほど脅威とは思えぬが?」


 ヨハンの言葉に、ジャイガントが疑問を口にする。態々二人がいかなければならない相手ではないと言いたいのだろう。


「冥王は魔剣とその武力で普通に戦ってくる。しかし、ランス王国は不可解なんだ。どんな状況で、あのような光景を生み出せるのかわからない」


 ヨハンはガルガンディアの地で見たことを二人に話した。忽然と消えた住民たち、ガルガンディア城の面影が消した瓦礫の山、そして消えたリンの消息、様々なことがヨハンを混乱させた。だからこそ、武力で戦う冥王とは自分が戦い、精霊王国連合の者たちにはそれらの疑問について調べてほしいと思った。その方が人出も多く、確率が上がるだろう。その間、死霊王とジャイガントには、ランス王国の足止めを頼みたいのだ。


「ふむ、はいそうですかと聞くわけにはいかんな。我は冥王との再戦が残っておるからな。我は残るぞ」

「ジャイガント……」


 まさか断られるとは思っていなかったので、ジャイガントの言葉にヨハンは困った顔をする。


「ヨハン殿、つけ上がるなよ」


 困った顔をしたヨハンに、今度は死霊王が辛辣な言葉をかけてくる。


「一人でなんでもできると思うな。冥王は軍隊でやってくるのだぞ。一人で全て何とかできると思うなよ。冥王は手強い。確かにランス王国が手強そうなことはわかった。訳のわからない術を使ってくるかもしれないこともわかった。しかし、我々とて戦士だ。一度任された戦場は最後まで責任を取りたい。何よりエルフやドワーフは、そこまで弱くはないぞ。彼らも頼ってやるがいい」


 死霊王は子供に教えるように、もっと甘えていいのだとヨハンに語り掛けた。それは様々なことに思考を巡らせ、気持ちがいっぱいになっていたヨハンには衝撃的な言葉だった。


「一人でなんでもできると思うな……か。確かにそうだ。俺は何を思いあがっていたのか」


 死霊王の言葉は、ヨハンの痛いところを突いていた。まるで心臓が締め付けられる思いがした。


「ありがとう」


 二人の年長者は、ヨハンの様子に笑っていた。


「俺に力を貸してほしい。冥王を倒してランス王国と対峙する」

「その意気だ」

「冥王は我の獲物ぞ」

「ああ、そっちは任せる。俺は話さなければならない相手がいるようだ」


 ヨハンは冥王の下にいるであろうサクと話をしなければならない。死霊王と冥王の、策の出し合いは正直冥王側の勝利と言える。

 ジリジリとこちらの戦力が削られている。だからこそ、ヨハンも死霊王たちには、この場から引いてもらおうと思ったのだ。二人はそのことも理解した上で、決戦に臨む心構えがあることをヨハンに示したのだ。

 そしてここまで死霊王のを追い詰めた策を出している者こそ、ヨハンはサクではないかと思っていた。


「話さなければいけない相手?」

「ああ、サク。俺の軍師をしていた者が死霊王の下にいるはずなんだ」

「ヨハン殿の軍師?なるほど、それは手こずるはずだ」


 死霊王は、ヨハン軍の快進撃を知っているのだろう。何より黒騎士がヨハンの軍師に負けたことは、帝国領内でも有名な話なのだろう。


「サク殿か?」


 面識のあるジャイガントは名前を出して聞いてきた。


「ああ、サクがどうやら冥王に攫われたらしい。冥王の力で死人として蘇らせられているかもしれない」

「許せんな。ふむ、なるほど。あの仮面の女はサク殿か?」

「何か知っているのか?」

「冥王の横に控える仮面の女がいたのだ」


 ジャイガントの言葉に冥王も納得したように頷く。


「なるほど、アイツにもそんな感情があったのだな。冥王とは元は黒騎士と呼ばれていた男だ。負けた相手を味方につけたか、これで線が繋がったな」

「ちょっと待ってくれ。冥王が黒騎士?」


 ヨハンは知らなかった事実を死霊王の口からきいて、大きな声を出してしまう。


「なんだ?ヨハン殿は知らなかったのか?」


 ヨハンは黒騎士と聞いて、様々な苦汁を思い出す。しかもヨハンの代わりに、黒騎士を倒してくれたサクまで敵側にいる。ヨハンは身が震える思いがした。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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