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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
最終章 誰がために
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ランスの葬儀

本日から本編再開です


またこの話の最終章へと入っていきます。どうぞ最後までお付き合い頂ければ嬉しく思います。

 王都ランスは悲しみにくれていた。英雄ランスとしてその名を刻んだ稀代の王が亡くなったのだ。一般的な市民にはランスは英雄であり、貴族たちには色王として、そして王族たちには傀儡がいなくなったことで慌ただしくなっていた。様々な想いが籠った葬儀は、都市全体を包み込む祭りとなった。

 ランスを称える名目で武闘大会が開かれ、屋台が軒を連ねる。ここぞと稼ぎにきた商人たちが、ランス王国に集まり賑わいをさらに増長させる。


 この中に、どれほどの人間がランスの死を本当に悲しんだのか、葬儀を見つめる影は思った。きっと本当に悲しんでいるものは一割にも満たないのだろう。


「真相はわかったか?」


 男の声は震えていた。影の中に潜む部下は心中を察して、短く報告をする。


「どうやら、殺された模様です。殺した武器は反逆者ヨハンが残したと思われる帯剣の破片だったと言われております。ですが、本当は王の間に飾られていた剣ではないかと言われています。そしてその破片を使って王を討ったのは王妃ではないかと……」


 部下が報告し終えると、男は壁を叩きつけた。その背中は泣いているように感じた。表面上は涙を流していない。しかし、心では涙を流し、悔しさに震えていると感じたのだ。


「ヨハン様……」


 報告を終えたフリードは、ヨハンの様子を唯々見守ることしかできなかった。親友の死、それは計り知れない悲しみが生まれたことだろう。そして、この死をヨハンの仕業として罪を逃れた者がいるのだ。許せるはずがない。

 フリードもヨハンとランスが仲がいいことを知っている人物なのだ。ヨハンの気持ちを多少なりともわかることができる。


「フリード、今は一人にしてくれ」


 しかし、フリードではわかることはできても癒すことはできない。この場にリンがいてくれたらと思うが、悪いことは重なるというものだ。ガルガンディア地方に向かった、リンの行方が分からなくなっているのだ。

 ヨハンたちは聖剣を手に入れ、すぐにジャイガントたちの下に戻った。聖剣はあらゆる魔力を無効かできる。冥王の魔剣であれ、それは例外ではなく。聖剣の力によってジャイガントの呪いは失われ命が救われた。

 しかし、ジャイガントの命を救った直後、聖剣は光を失い、まるで役目を失ったように石の塊になってしまったのだ。怪訝に思ったヨハンは、なぜ聖剣が光を失ったのかを、フリードに調べさせた。そしてわかったことはランスの死だった。主を失った剣が、光を失い石化してしまったのだ。

 

 ランスが死んだのは、ヨハンと別れて数時間後のことだった。ヨハンはすぐにおかしいと思った。ランスは確かに頭がおかしくなっていた。しかし、傷の治療も施し、体力と魔力を回復させるために眠らせたはずなのだ。起きた時には多少なりとも元に戻っていると思っていた。

 それなのにランスは死んだという。おかしいことばかりだ。それを調べるためにヨハンは王都ランスに戻ってきた。そして、ヨハンが見た者は、祭りのように賑わうランスの葬儀だった。


「わかったっす。おいらたちは引き続き王都を調べるっす」

「いや、お前たちにはガルガンディア地方に行って、リンの捜索を頼みたい。何かあったのだろう」

「いいっすか?」

「ああ、リンを助けてくれ」


 ヨハンは本来であれば自分がいきたいのだろう。だが、この場でランスの見送りをしてあげたいのかもしれない。フリードはそれ以上質問することなく承諾した。


「わかったっす。ヨハン様も無理してはいけないっす」

「わかっている。リンを頼むぞ」

「かしこまりましたっす」


 フリードは音もなく姿を消す。年々、フリードの隠密スキルが高くなってきている。ヨハンは思考だけが様々なことに巡らされる。

 冥王は再度軍を進めてきたが、復活したジャイガントと死霊王が相手をしてくれいる。魔剣の事もあるので、今回は直接戦うのではなく、策を使って冥王の進軍を妨げていると死霊王から連絡を受けた。


「ランス、お前の無念は俺が晴らす」


 ヨハンは思考を巡らせるうちに感情の高ぶりを感じていた。それは石化した聖剣にも伝わったのか、ミシミシと石化した聖剣が音を立てる。


「お前は主を失っても、興味が無さそうだな」


 聖剣の冷たい感触にヨハンは怒りすら覚えた。投げつけ壊してしまおうかと思ったが、ジャイガントを救ってくれたことが頭を過り、聖剣を壁に立てかける。


「何をバカなことを考えているんだろうな。道具に当たっても仕方ないのに……」


 ヨハンは壁にもたれるように座り込み。頭を抱えて目を閉じた。どれぐらいの間そうしていたのか、わからないが外の騒ぎが随分と静かになった。ランスが外を見れば、夜も更け誰もいなくなっていた。


「祭りは終わりか?ランスの葬儀もこれで終わりだな」


 ヨハンはランス城を見つめた。そこに王女ミリューゼがいる。それだけで星を落としてやろうかと思ったが、ミリューゼ以外のランスの家族がいるのだと思い直し、魔法を発動しなかった。


「子供ばかり作りやがって」


 ランスのことを思って、ヨハンは笑うことができた。笑った瞬間、心が軽くなったような気がして、落ち込んでいく思考が少し浮上した。


「いきなり攻め込んでも、誰も得をしないな。とりあえずはリンを探そう」


 笑ったときにランスから自分のことをしろと言われたような気がした。ヨハンはリンを探すためフリードたちの後を追うことを決めた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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