表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/240

英雄ランス

反逆者編の最終話です。


閑話を挟み、最終章へ入っていきたいと思います。

 ヨハンはランスに憧れていた。それは記憶の中で、何度もヨハンはランスの背中を追いかけている映像を見るからだ。いつか横に並び、ランスから認められる日を求め続けた。それはこんな形ではない。ランスが騎士となり、横に並んで騎士になっている自分を想像している。


「ヨハーン!」


 英雄となったランスは圧倒的に強く、もしもここに聖剣があったなら、ヨハンは絶対に勝てないと思った。つけ入るスキがあるとすれば、聖剣がここにないということだ。


「ランス!」


 ランスが持つ剣は、ヨハンの斧とぶつかる度に、刃こぼれしていく。飾られている剣も、悪い剣ではない。名剣と呼んでもいいほどの剣だ。しかし魔力で何とか維持しているが、それでも聖剣に比べれば大したことはない。大してヨハンはアイテムボックスに数千の武器を貯蔵している。斧が折れても、槍が折れても、武器はある。


「ハァハァハァ」


 互いの息が切れても、武器をぶつけ合う。魔力や魔法はヨハンが上、武器の技とスピードはランスが上。互いの短所を突いて、互いの長所でかばい合う。


「この化け物が」


 ヨハンは自分がチート行為をしていることを理解している。それなのに、ランスは素でこの強さなのだ。主人公補正とはチート以上に厄介な化け物を作り出す。


「ヨハン」

「俺の名前を呼ぶことしかできないのか?」

「……楽しいな」


 それは一瞬見せた、昔のランスの顔だった。すぐに狂ったような瞳に戻ったが、ランスはこの戦いを楽しんでいるのだ。本気で楽しんで、本気でヨハンを殺しにきている。


「バカが……」


 ヨハンはランスへの想いを隠そうとも思わない。英雄と戦うことなど無いと思っていた。思っていたはずなのに、子供の頃の記憶が蘇って来て、本来のヨハンがランスとの戦いを望む。


「俺も楽しいよ。お前と戦えて、俺はお前を倒したい」


 それは紛れもなくヨハン自身の言葉だった。


「ヨハーン!」


 ランスが青白い光を放つ。それはランスだけが持つ勇者の力であり、ヨハンは白い魔力を放出する。青と白の魔力がぶつかり合うように武器を交差させる。

 それは純粋な武器のぶつかり合い。交差した二人の武器は粉々に砕け散り、ヨハンが倒れる。


「ガハッ!反則だろ」


 ランスの方が一瞬早く、ヨハンを斬り終えた。ユラユラとした足取りでランスはヨハンに近づいていく。折れた剣の破片を拾い、ヨハンにトドメを刺すため近づいてくる。

 ヨハンも魔法を放とうと思うが、上手く魔力が練れない。一番慣れた魔法を使うため、自身の胸に手を当てる。それはヨハンが一番よく使ってきた回復魔法だった。白く優しい光はヨハンの体を癒していく。


 ヨハンが回復するよりも早く、ランスの刃がヨハンに振り下ろされる。


「ヨハン」


 一瞬ランスの表情が元に戻ったような気がした。ヨハンはランスの刃を受け止め魔力をランスに叩き込む。それは何の属性も持たないただの魔力の塊であり、ランスの体に衝撃波となって伝わっていくだけだ。


「ランス」


 それでもランスの意識を奪うには十分な威力があったらしい。とっさの事だったが、ヨハンは新たな魔法を手に入れ、ランスを退けることができた。亜空間を解除して、ランスをベッドに眠らせる。


「今度会いに来るときは普通に話せるといいな」


 ヨハンはランスに眠りの魔法をかける。気絶しているランスが、すぐに起きないようにするためだ。さらにランスの傷を癒すために回復魔法も施しておく。


「俺にできるのはここまでだ。あとは自力で上がってこい」


 ランスに聞こえてはいない。聞こえてはいないが、ヨハンの言葉にランスが頷いたような気がした。


「聖剣は借りていく。必ず返しに来るからな」


 そういってヨハンはその場を後にした。ただ、これがランスと今生の別れになることをヨハンは予見できなかった。ヨハンが聖剣を奪い、城から抜け出すころ、ランスの眠る部屋に珍しい来客がやってきた。


「マルゲリータから、ヨハンの侵入を聞いたときは驚きましたが、これは好都合ですね」


 もう何年もランスの部屋に来ていないミリューゼが、眠るランスの横に立つ。その目には明らかな狂気が宿っていた。握るはランスとの戦いによって砕けた斧の破片。ミリューゼは破片をランスの胸に突き刺した。


「あなたたちもどうかしら?」


 ミリューゼ以外に二人の女性がその場にいた。一人はマルゲリータの報告を伝えた宰相セリーヌ・オディンヌ。もう一人は、精霊王国連合の様子を報告しに来ていた聖女アクアだ。


「私たちは共犯ね」

「そうなりますね」


 聖女アクアがランスの胸に違う破片を突き立て、同じくセリーヌもランスを突き刺す。ランスの体は度重なる毒薬と、ヨハンとの戦闘で弱っていた。魔力や体力が弱っていなければ、破片ごときでやられる彼ではない。それでも彼は大量の出血により、その命を散らすことになった。


 即位して五年で、ランスは死んだ。


 世界に宣言される。ランス王が殺されたことを。そして殺したのは反逆者ヨハンであり、王国はヨハンを匿う精霊王国連合に弔いを告げる宣戦布告を言い渡した。

 

 それは新たに即位した女王ミリューゼによるものだった。


 ヨハンにとって世界を巻き込む、最後の戦いが始まろうとしていた。 

いつも読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ