マルゲリータ
ヨハンはテレポートでリンを迎えに行き、フリードと合流する。三人とも勝手知ったる王都エリクドリアである。潜入といっても王国内にテレポートで飛ぶことができるので、行くだけならば問題はない。あとはどうやって城の宝物庫に潜入するかということだ。
「フリードは宝物庫の位置とか、わからないのか?」
「無茶言わないでほしいっす。さすがに自国の宝物庫を狙うほど、おいらは落ちぶれてなかったっす」
「そうか、落ちぶれてくれてれば、話は早かったのにな」
「ヒドイっす」
フリードがヨハンの言葉で傷ついている間に、ヨハンはリンを見る。
「リンはどうだ?何か手がかりは持ってないか?」
「私も将軍になって、すぐに出陣でしたので」
「そうか……なら、あいつに聞くしかないか……」
「誰に聞くんっすか?」
「それは城のことを熟知している奴に聞くしかないだろう」
「なんだが嫌な予感しかしないっす」
フリードの予感は当たっていた。ヨハンは、城の主に聞くと言い出した。
「そんなことできるっすか?」
「さぁな?ランスが教えてくれるかわらないが、聞いてみる価値はあると思う」
ヨハンはランスを今でも友人だと思っている。ジャイガントの件が解決すれば、ちゃんと返しに来ると言えば貸してくれるんじゃないかと思う。
「やってみるしかありませんね」
「え~、リン様も賛同するっすか」
ヨハンの気持ちを理解できるリンは、ヨハンの言葉に賛同した。フリードは賛同こそしないものの、反対もしないのはヨハンのことを信頼しているからだろう。
「とりあえず行ってくるか。フリードは冒険者ギルドで、ランス王国の情報収集を頼む。リンはガルガンディアに下していくから、少し調べてきてくれないか?」
「わかりました」
ヨハンはフリードの部下を後二人連れて、五人で転移した。ダルダに竜の山脈で待機してもらっているので、リンが呼べばすぐに駆け付けるようにした。そうすることで、リンを迎えに行かなくても逃走手段は確保できる。
「ご武運を」
ガルガンディアにリンを連れていき、ヨハンの背中にリンが祈るようにいう。リンもヨハンがランス王国の中枢に行くことが、危険であることは理解している。心配するなという方が無理がある。
「大丈夫だ。ただ友達に会いにいくだけだからな」
「はい。信じています。それでも、無事に戻ってきください」
「ああ、リンも無事に精霊王国連合で会おう」
「はい」
ヨハンはリンと分かれ、それぞれの調査のために動き始める。フリードたちと共にランス王国の王都エリクドリアにある。キュウエンの館へテレポートした。
「相変わらずお化け屋敷だな」
「なんすかここ。超怖いっす」
フリードを連れてきたのは始めてなので、驚いているようだ。
「俺とランスが泊まっていた宿だ」
「確かにそうみたいっすね」
フリードに促されて看板を見れば、ランス王が宿泊した宿として売り出していた。
「あの婆、よくやるよ」
当時のことを思い出して、ヨハンは苦笑いを浮かべる。あの時は、この幽霊屋敷が恐ろしく見えた。こんな物でも懐かしく思うほどに随分と時間が経ったのだ。
「ここに長いするのもあれ何で、おいらたちは行くっす」
「ああ、頼んだ」
「承知っす」
フリードたち三人がいなくなり、ヨハンは次のテレポート場所へ移動する。そこは第三魔法隊の宿舎であり、現在は誰もいなくなった場所である。ヨハンは隊長室転移した。
「あなたがどうして!」
誰もいないと思っていた場所には、一人の女性が立っていた。随分と女性らしく成長したマルゲリータだ。元々美少女ではあったが、今は少が取れて美女になっている。
「マルゲリータか、久しぶりだな」
「あなたはここにいる意味をわかっているのですか?」
挨拶よりも疑問が飛んでくるあたり、相変わらず理屈っぽい言い方をする。
「ああ、ちょっと所要があってな」
「所要ってバカですか?」
「久しぶりなのに、ご挨拶だな」
出会った頃は部下と上司、別れた時は立場が逆転していた。だからこそ、お互いの口調は対等に近いモノになってしまう。
「とにかく、衛兵に連絡します。あなたを捕まえますので」
「できると思っているのか?」
ヨハンの言葉にマルゲリータは悔しそうに奥歯を噛む。
「……無理でしょうね。あなたが使う魔法を、私は理解していない。テレポートなど普通の人間ができるものではありませんから」
「そうだろうな」
ヨハンもスキル習得がなければ、どうやって習得するのかわからない魔法の一つだ。
「それでも見過ごすことはできません」
「別にいいさ。ただ俺は親友に会いに来ただけだ」
「親友?ランス王のことですか?」
ヨハンの言葉にマルゲリータは嫌悪感を込めて言葉を発する。ヨハンもランスが色王と呼ばれているのは知っている。しかし、マルゲリータの嫌いっぷりはそれ以上のようだ。
「ああ、ちょっと聖剣を借りようと思って」
「やっぱりバカですか?聖剣を借すなど、できるはずがないじゃないですか。王国の宝ですよ」
「それでも必要だからな。冥王と戦うために」
「ふぅ~、私はあなたが嫌いでした」
マルゲリータが急に話を変えたので、ヨハンは内心驚くが素直に応えることにした。
「知ってる」
「ですが、姉と違い。あなたを敵だとは思っていませんでした。私から見た、あなたは嫉妬の対象でした」
マルゲリータの意外な発言に、ヨハンの方が驚いた顔をする。
「素晴らしい成長速度、私の思いつかない戦術、どんどんと活躍していく功績、どれをとっても私にはないものです。憧れにも似た気持ちになったこともあります。そんなあなたを嫉妬せずにはいられなかった。でも、私は気づいたんです。あなたは選ばれた人なのだと」
マルゲリータは発言に少し熱が籠る。そして彼女はアイテムボックスの中から書簡を取り出す。
「だから、これは貸しです」
ヨハンはマルゲリータの視線をまっすぐに見つめた。彼女が何を言いたのか、ヨハンには理解できなかった。だが、マルゲリータは笑顔になる。それはとても綺麗な笑い方で、もしもマルゲリータともっと違う形で出会っていれば、ヨハンは彼女いい関係が気づけたのではないかと思った。
「もしも、この国が危機になったとき、あなたがこの国を救ってください」
マルゲリータは何かの書簡をテーブルに置き、その隊長室から出ていこうとする。
「私があなたを見たことは、幻だと思っておきます。ですが、次に会うときは敵です」
そういって彼女は部屋から出ていった。ヨハンはマルゲリータの置いた書簡を見る。そこにはエリクドリア城の見取り図が記されていた。
マルゲリータがどういうつもりで、これを渡したのかわからない。わからないが、ヨハンはマルゲリータが去った扉に頭を下げた。
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