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再戦

 ヨハンが駆け付けた時には、ジャイガントは意識を取り戻していた。深々と傷付いた胸は、治癒魔法師たちによって何とか傷を塞がれているが、いくら治癒魔法をかけてもすぐに傷が開いてしまうのだ。


「ヨハン殿、どうなのだ?」

「治癒魔法をかけても、傷が治らない」

「どうなっておるのだ!」


 ヨハンの答えに、死霊王が叫び声をあげる。


「ウルボロスよ。そう騒ぐな。自分のことだ。自分で理解している」

「ネフェリト……」

「ヨハン、ハッキリ言ってくれ。我はどうなる?」

「このまま傷が塞がらず、血が流れ続ければいずれ出血多量で死ぬことになる」


 ヨハンは治癒魔法が効かないジャイガントを診察して、ジャイガントが何らかの呪いをかけられていることが理解できた。

 しかし、呪いの種類がわからない。何より魔剣による呪いならば、ヨハンでは解除のしようがない。


「魔剣の呪いか、どうすればいいんだ!」


 死霊王もヨハンと同じ結論に至ったようだ。しかし、魔剣の呪いは死霊王をもってしても、どうすることもできず、傍にあったテーブルを叩き壊す。


「一つだけ、方法があるかもしれない」

「何っ!ヨハン殿、ネフェリトは助かるのか?」

「わからない。わからないが、魔剣に対抗できる物が一つだけある」

「勿体ぶるな。いったいなんなのだ!」


 死霊王はヨハンの胸倉を掴み、凄い剣幕で詰め寄る。


「聖剣だ」

「何っ!聖剣だと……」


 死霊王も、ヨハンが何を言いたいのか理解したらしい。


「それは、意味が分かって言っているのか?ヨハン殿」

「ああ。俺がランス王国に忍び込んで聖剣を盗んでくる」

「そんなこと本当にできるわけがないだろう」


 ヨハンの言葉に、死霊王は悲鳴じみた叫び声をあげる。


「しかし、それしかジャイガントを助ける方法が思い浮かばない……」


 ヨハンも顔を俯かせ、漏らした声は弱々しいものだった。


「ガハハハ、呪いか。我が呪いによって命を失うか」


 死霊王とヨハンの様子を見たジャイガントは笑い出す。傷の痛みや流れる血を見れば、そんな余裕などないことは明白だというのに、ジャイガントはそれでも笑った。


「ヨハン。いや、ヨハン殿。頼みがある」


 ジャイガントの声のトーンが変わり、声に真剣さが増される。


「なんだ?」

「我と再戦してはくれまいか?」

「はっ?」

「ネフェリト!お前は何を言っているんだ」


 ジャイガントの申し出に、ヨハンも死霊王も驚きを隠せない。


「我は戦士だ。我が死ぬのは戦場でなくてはならぬ。こんな呪いで死ぬなど、我自身が納得できぬ。だからこそ、我は好敵手である貴殿と再戦してこの命を燃やしたい」

「しかし、聖剣があれば」

「それも絶対ではあるまい?何より、それまで我の命がもつ保証はない」


 ジャイガントは自身の死期が近いことを理解していた。


「バカなことを言うな。助かるかもしれない手があるのに、どうして死に急ぐ」

「お前こそバカなことを言うな。惨めに生きるよりも潔く戦いを求めることが、なぜわからん」


 死霊王の顔を、ジャイガントは困ったように見つめた。 


「わからぬ。わかりたくない」


 死霊王は駄々っ子のように顔を背け、ジャイガントの視線から逃れた。


「ジャイガント、本当にいいのか?」

「ヨハン殿、貴殿は何を言っておるのだ」

「そうだ。俺は戦士でありたい」


 死霊王の言葉は、二人に届かない。


「ならば表に出ろ」

「良かろう。ぐっ」


 ジャイガントが立とうとして、膝を崩した。ヨハンはジャイガントの様子に気づいていた。それでも、あえて振り返ることなく、外へと出てジャイガントを待った。


「ネフェリト、いくな」

「ウルボロス、もう何も言うな。戦士の気持ちが分からぬ、貴様ではないだろう」

「しかし」


 死霊王はそれでも食い下がろうとしたが、傷付いた体でヨハンの下へ向かおうとするジャイガントに、死霊王もそれ以上言っても無駄だと悟った。


「もう何も言わぬ。ただ、最後まで見届けさせてもらうぞ」

「好きにするがいい」


 ジャイガントはテントから這い出るように外に出た。胸の傷はまたも開き、血が流れ出す。その姿を見ながら外で待っていた。ヨハンはジャイガントの様子に何も言わず。ただジャイガントが立ち上がるのを待った。


「待たせたな。ヨハンよ」

「いつでも来るがいい」

「神の一撃を喰らえ」


 ジャイガントは力を振り絞り、武器を放った。ジャイガントから放たれた雷は、ヨハンに直撃した。ヨハンは防御もすることなく、雷を受けて消し炭となるはずだった。


「これがジャイガントか、あの最強と言われた巨人の力か」


 しかし、そこには傷一つ付いていないヨハンが立っていた。ヨハンがしたことは、自身の体に魔力を纏っただけだ。その魔力の鎧を貫通させることはジャイガントにはできなかった。


「眠れ、ジャイガントよ」


 ヨハンは紫電を発動する。最速の動きで、ジャイガントに向かう。押せば倒れてしまいそうなジャイガントに、容赦なく一撃を入れる。


「グォォォォォ」


 巨人の断末魔の悲鳴は小さく、ヨハンの一撃は確実にジャイガントの意識を刈り取った。死霊王は倒れたジャイガントに駆け寄り、ヨハンが死霊王に話しかけた。


「死霊王、俺は行く」

「どこにいくのだ?」

「ランス王国だ。聖剣を奪ってくる」

「しかし、ジャイガントはもう……」

「死霊王、なんとしても死なせるな。俺ができるのはジャイガントの意識を奪うことだけだった。後はジャイガントの生命力が持つか、俺が聖剣を持ってくるのが速いか。後の事は頼む」

「任されよう。ヨハン殿、我が友を救ってくれ」


 ヨハンはテレポートを発動させる。ヨハンの姿が消えると同時に死霊王は出来ることを全てやるべく天幕を張り直し、巨人の看病に専念した。しかし、冥王が再び動き出そうとしていた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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