冥王進軍開始
リンと再会したヨハンは、ジェルミーとの再会を果たした。それは同時にガルガンディアの地に起きた悲劇を知ることになり、ライスの死とサクが連れされたことを知らされる。
「ジェルミーが戻ってきてくれて嬉しく思う」
「ヨハン様、ご立派になられましたな」
ヨハンはジェルミーが生きて会いにきてくれたことを喜び、ジェルミーは青年として充実した肉体を手に入れつつあるヨハンを見て、眩しそうにしていた。
ジェルミーは苦労が絶えなかったのだろう。随分と老け込んでしまった。
「ジェルミーは少し歳を取ったな」
「はい。もう五十を超えます」
人族の寿命は五十ぐらいだと言われいる。長生きするものもたまにいるが、最新医療などがないこの世界では、延命治療や特定の病気に対しての特効薬がないのだ。
あるのはなんでも治せるというエリクサーと呼ばれる物だが、それも手に入れるためには相当な苦労をするらしい。
「これからはどうするつもりなんだ?」
「静かな余生を送りたいと思います。もう、何かをするのには疲れました」
「そうか、ランス王国からは追われる身となるだろうな。できるだけランス王国からは遠い土地でゆっくりできる街へ案内しよう」
「ありがたきことです」
神経質そうな表情は変わっていないが、昔のような腹黒さはどこか抜け落ち、本当に余生を楽しもうとしている老人がそこにはいた。
彼に今の現状を話せば、何かしら手伝ってくれるかもしれない。しかし、ヨハンはジェルミーに現状を話すことをやめた。彼には世話になりっぱなしなのだ。彼が静かな余生を望むのならば、邪魔するつもりはない。
「リンの話が正しいなら、かなりまずい状況になりそうだな」
ジェルミーとの話を終えたヨハンは、リンと二人きりになり、聖女の狙いについて話を聞かせてもらった。ヨハンも冥王領でフリードが調べてくれたこと、またローガンから聞いた嘆願書の話などを話すと、どこかリンは納得したような顔をした。
「そういうことだったのですね」
「ああ、聖女は民衆の支持を集めるように誘導している。イヤらしい手だが、効果は絶大だな」
「はい。ランス王国に、まさかこんな手を取ってくる人がいるとは思いませんでした。こちらとしては一番困るやり方ですね」
「そうだな。民衆は悪くない。悪くないだけに質が悪い」
これからの思惑について、再度検討する必要があると思った。
ヨハンたちが調査を開始して一カ月が経とうとしたとき、冥王領との国境沿いでは、ある動きが開始していた。
「あらら、これはかなりヤバいかもな」
「ふん、ヨハンと約束したのだ。ここは我々が守る他あるまい?」
「そうだな。まぁ余程の相手でない限り、大丈夫でしょう」
死霊王とジャイガントの前には数千のゾンビと、数千のボーンナイトがこちらへ進軍してきているのだ。砦はまだ建設途中であり、物見と簡単な壁しかなかったが、それでもここから先に行かせるわけにはいかない。二人の男は戦場を見つめ肩を並べる。
「お前はどっちがいい?」
「性質はわからぬが、戦いやすいのはゾンビであろうな。肉を削げばしばらく動かなくなるであろうしな」
「まぁそうだね。ボーンナイトの方は魂を飛ばさないといけないから苦労しそうだ」
死霊との戦い方を知っている死霊王は即座に判断し、部下たちに敵を食い止めるように指示を出す。ジャイガントも連れてきていた数名の巨人と共に戦場へとその身を躍らせる。
「我こそは巨人族の勇者、ネフェリト・ジャイガントである。貴様らの大将である冥王がおられるなら、我と死合われよ。我は逃げも隠れもせんぞ」
ジャイガントとは魔物のゾンビを蹴散らしながら、敵陣深くへ突き進んでいく。敵から攻撃を食らおうと、自然の魔力で回復していくので傷などほとんどない。
ジャイガントが突き進んで行く後方では、死霊王がホーンナイトたちを倒しては魂を除霊するというのを繰り返していた。この場では死霊王だけにできることであり、ランスの聖剣でもあれば、切り付けるだけでどうにかなのだが。
死霊王は冥王と同じく死者を操るものとして死霊と語り、お帰り頂くのは骨が折れる。しかし、この場でできることはそれしか方法がない。
「巨人か、我が冥王ハーデスである」
ジャイガントの呼びかけに答えるように、冥王ハーデス自身が戦場へ出てきた。冥王の後ろには仮面をつけた女性のゾンビが傍に仕えている。
「貴様が冥王か、我はネフェリト・ジャイガントである。我と死合われよ」
「よかろう」
どこから出現させたのか、冥王は赤黒い剣を握り締めていた。ジャイガントは冥王が握る剣を見て驚きを現した。
「その魔剣は!」
「知っているのか?」
「天帝様は珍しい武器を集めるのが好きなお方だった。その魔剣は我が手に入れたのだ。魔剣ハーデス。それを授かったのは黒騎士だったはずだ」
「どうやら貴様は知りすぎたようだな」
冥王ハーデスの雰囲気が変わり、殺気がジャイガントにぶつけられる。
「ふふふははっはは。よいぞ、よい。心地よい殺気だ。貴様があの黒騎士であり魔剣を使うのならば、我は神の武器を見せてやろう。『ミョルニル』神が作りし武器と、この不死身の肉体、貴様如きが倒せると思うなよ」
元八魔将同士の戦いが始まろうとしていた。
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